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13.後日談

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 クロンヘイム公爵領の本邸から王都の別邸へノアが拠点を移してから三か月がたった。
 
 ノアとウルリカは国王の許しを得て結婚し、ウルリカはクロンヘイム邸に住んでいる。
 毎朝二人で王宮へ出仕する姿は、貴族たちから羨望と賞賛の目で見つめられるようになっていた。
 
 だが、ノアには一つだけ不安があった。
 
 
「ノア様! いま王都で流行りのお菓子だそうです。見てくださいませ、とても飾りが可愛らしくて」
 
 休日の午後は、仕事の疲れを癒やし、二人で語りあう時間をとることにしている。
 王都を散策して見つけたのだという菓子をウルリカが嬉しそうに見せる。ノアもつられて笑顔になった。けれども、ウルリカが視線を逸らすとすぐに、ノアの表情は曇ってしまう。
 
「はい、どうぞ、ノア様」
「ああ」
 
 菓子をとりわけ、ウルリカはノアの隣に座った。ノアの身体に自分の身をもたせかけ、きらきらと輝く銀髪を見ては、「ふふ」と満足げな息をついている。
 でももしかしたら、その心の中では、以前のノアを懐かしんでいるのかもしれない。
 
 ウルリカは知らないが、ノアは非常にリバウンドしやすい体質であるのだ。
 
 今回、ひと月で身体を絞り込むことができたのは、それができるとわかっていたからである。
 
 思春期のころ、ノアは今回と同じようにダイエットに励んだことがあった。
 ころころとしていた身体は標準体型になり、むしろ父親に近い、筋肉質な体型になったといってもよかった。
 浮かれたノアは、こっそりと町へ出て遊びまくった。
 芝居を見、おいしいものを食べ、サーカスを見物し、おいしいものを食べ、店を見てまわって……。
 
 しかしそのうち、ノアの身体はふたたび膨らみ始め、人々は彼がノアであることに気づくようになってしまった。
 
 結局スマートな体型は三か月ももたず、ノアは挫折を味わった。
 
 努力をしても、無駄なのだ、と。
 
 自分が王都の貴族たちのあいだで〝白豚〟と呼ばれていることを知ってからは、ますます外に出なくなった。
 
 ノアにはいま不安がある。
 それは、リバウンドして嫌われるかも、という不安ではない。
 どんな姿でもノア様のことが好きですとウルリカは言ってくれたし、その言葉に嘘はないと信じられる。
 
 ノアが恐れているのは、その逆。
 
 リバウンドしやすい体質であると知ったウルリカが、自分を太らせようとするのではないか……という不安であった。
 
「ノア様、はい、あーん」
 
 口元に菓子を運ばれ、
 
(これは恋人扱いなのか、羊扱いなのか)
 
 と微妙に悩みつつノアはそれを味わった。
 ウルリカいわく、以前のノアは白豚ではなく白羊で、ふわふわのもこもこのむちむちで癒やしの塊だった……らしい。ノアにはまだよく理解できていない。
 
 妻を癒やせるなら嬉しいと思う。
 また白豚と呼ばれることになっても、今度はもう傷つかないだろう。
 けれども。
 
「今はまだもう少し、君の前では格好をつけさせてくれ」
 
 そう言ってほほえむ夫に、ウルリカは首をかしげると、
 
「ノア様はいつでもかっこいいですよ?」
 
 不思議そうに言った。
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