13 / 17
目をつけられてクソゲーだった。
しおりを挟む
相変わらず荘厳な作りのアカデミーの廊下を、サマリエとアルテミーが歩いていた。2人は昼食を中庭で食べようと向かっている途中だ。そこに、男が話しかけてくる。
後ろ髪の長い、トゲトゲとした赤髪。勝気そうにつり上がった緑の目。筋肉質で高身長。調教科の制服であるジャケットが窮屈そうに見える。腰に下げた特製の金色のムチを揺らして、男は特徴的な大きな口を開いた。
「おい、女! お前がシロイロオオトリを育ててるやつだな!」
大きな口から八重歯が覗く。他の生徒も行き交う廊下で、ビシリと指をさされたサマリエは、顔を引き攣らせた。
サマリエはこの男の顔をよく知っている。ゲームのパッケージにも描かれている、制作側いちおしの攻略対象・ウルガだ。サマリエは今すぐ逃げ出したい衝動に駆られながら、ウルガと対峙した。
「それが何か?」
腕を組み、顎を上げ、サマリエは威嚇するようにウルガを見た。アルテミーはそんなサマリエの後ろに隠れている。
「はっ! 噂通り、気の強い女だな!」
ウルガは八重歯を見せて嬉しそうに言う。
(噂……? 噂ってなんだ?)
サマリエが内心、戸惑っていると、2人を遠巻きに見る野次馬の声が聞こえてきた。
「うわ、すご……アカデミーの2大ドSの対決だ……!」
(2大ドS!? なにそれ!?)
知らぬ間に、ドS認定されていることに、サマリエは驚く。ウルガはオレ様キャラとして設定されているから、ドSと言われるのはわかる。だが、モンスターを愛し、ただ堅実にアカデミー生活を送っているだけの自分が、ドSなどと誹りを受けるなんてとショックを受けた。
「お前の、シロイロオオトリ、オレ様に貸しやがれ!」
「アカデミーから貸し出し許可が出てないので無理です」
「は? そんなもん必要ねぇよ! シロイロオオトリがどんなもんか試してやるから、貸せって言ってんだよ!」
「アカデミーから貸し出し許可が出てないので無理です」
サマリエは威圧を込めた笑顔で同じ言葉を繰り返した。腕は組んだままだ。
ふっとウルガが下を向き、鼻で笑った。顔を上げると、ギラギラとした目でサマリエを見る。
「オレ様にそんな態度を取った女はお前が初めてだ」
ペロリと八重歯を舐め、ウルガは腰に下げたムチに手を伸ばす。そこに、鋭い声が飛んできた。
「何をしているのですか!」
声の方を見て、ウルガは舌打ちした。顔をしかめて両手を上げる。
「何もしてねぇよ! うるせぇな」
ウルガはぶつぶつと文句を垂れながら、行ってしまった。ほっと胸を撫で下ろすと、ウルガを止めた声の主がサマリエのもとに歩いてくる。
「大丈夫ですか? 彼に何かされましたか?」
丁寧な口調でそう言ったのは、短めの緑の髪をサイドになでつけた、上品な顔立ちをした男だった。アカデミーの校章のついた服を着ているが、他の教師と違い、白地に金の刺繍が施されたキャソックだ。先ほどの野生的なウルガとは正反対の雰囲気を漂わせている。
「いえ……大丈夫です」
サマリエは身構えて応えた。そんなサマリエの様子を、男は光のない黒灰色の目で見つめた。
「彼は乱暴な性格なので、気をつけてくださいね」
それだけ言うと、男も去っていく。ウルガの登場で、縮こまっていたアルテミーが、サマリエの後ろから顔を出した。
「ビックリした~! 今の学園長だよ、初めて生で見た」
「え、学園長だったんだ……!」
「うん、確か名前はユーエルだよ」
学園長と言われて想像するのは、年配の人間なのだが、ユーエルは若く、見栄えのいい男だった。サマリエは、さすが乙女ゲームの世界、と妙なところで感心した。
それよりも、問題はウルガだ。交戦的な男だけあって、シロイロオオトリに目をつけたようだ。今まで、攻略対象に碌な奴はいなかった。ウルガにも何をされるかわかったものではない。関わらずにいきたいが、これまでの経験上、どうにも攻略対象を避けることはできないようだった。
(ボイルドエッグは私が守る!)
サマリエは決意して、アルテミーと連れ立って、昼食を食べるために中庭に向かった。
後ろ髪の長い、トゲトゲとした赤髪。勝気そうにつり上がった緑の目。筋肉質で高身長。調教科の制服であるジャケットが窮屈そうに見える。腰に下げた特製の金色のムチを揺らして、男は特徴的な大きな口を開いた。
「おい、女! お前がシロイロオオトリを育ててるやつだな!」
大きな口から八重歯が覗く。他の生徒も行き交う廊下で、ビシリと指をさされたサマリエは、顔を引き攣らせた。
サマリエはこの男の顔をよく知っている。ゲームのパッケージにも描かれている、制作側いちおしの攻略対象・ウルガだ。サマリエは今すぐ逃げ出したい衝動に駆られながら、ウルガと対峙した。
「それが何か?」
腕を組み、顎を上げ、サマリエは威嚇するようにウルガを見た。アルテミーはそんなサマリエの後ろに隠れている。
「はっ! 噂通り、気の強い女だな!」
ウルガは八重歯を見せて嬉しそうに言う。
(噂……? 噂ってなんだ?)
サマリエが内心、戸惑っていると、2人を遠巻きに見る野次馬の声が聞こえてきた。
「うわ、すご……アカデミーの2大ドSの対決だ……!」
(2大ドS!? なにそれ!?)
知らぬ間に、ドS認定されていることに、サマリエは驚く。ウルガはオレ様キャラとして設定されているから、ドSと言われるのはわかる。だが、モンスターを愛し、ただ堅実にアカデミー生活を送っているだけの自分が、ドSなどと誹りを受けるなんてとショックを受けた。
「お前の、シロイロオオトリ、オレ様に貸しやがれ!」
「アカデミーから貸し出し許可が出てないので無理です」
「は? そんなもん必要ねぇよ! シロイロオオトリがどんなもんか試してやるから、貸せって言ってんだよ!」
「アカデミーから貸し出し許可が出てないので無理です」
サマリエは威圧を込めた笑顔で同じ言葉を繰り返した。腕は組んだままだ。
ふっとウルガが下を向き、鼻で笑った。顔を上げると、ギラギラとした目でサマリエを見る。
「オレ様にそんな態度を取った女はお前が初めてだ」
ペロリと八重歯を舐め、ウルガは腰に下げたムチに手を伸ばす。そこに、鋭い声が飛んできた。
「何をしているのですか!」
声の方を見て、ウルガは舌打ちした。顔をしかめて両手を上げる。
「何もしてねぇよ! うるせぇな」
ウルガはぶつぶつと文句を垂れながら、行ってしまった。ほっと胸を撫で下ろすと、ウルガを止めた声の主がサマリエのもとに歩いてくる。
「大丈夫ですか? 彼に何かされましたか?」
丁寧な口調でそう言ったのは、短めの緑の髪をサイドになでつけた、上品な顔立ちをした男だった。アカデミーの校章のついた服を着ているが、他の教師と違い、白地に金の刺繍が施されたキャソックだ。先ほどの野生的なウルガとは正反対の雰囲気を漂わせている。
「いえ……大丈夫です」
サマリエは身構えて応えた。そんなサマリエの様子を、男は光のない黒灰色の目で見つめた。
「彼は乱暴な性格なので、気をつけてくださいね」
それだけ言うと、男も去っていく。ウルガの登場で、縮こまっていたアルテミーが、サマリエの後ろから顔を出した。
「ビックリした~! 今の学園長だよ、初めて生で見た」
「え、学園長だったんだ……!」
「うん、確か名前はユーエルだよ」
学園長と言われて想像するのは、年配の人間なのだが、ユーエルは若く、見栄えのいい男だった。サマリエは、さすが乙女ゲームの世界、と妙なところで感心した。
それよりも、問題はウルガだ。交戦的な男だけあって、シロイロオオトリに目をつけたようだ。今まで、攻略対象に碌な奴はいなかった。ウルガにも何をされるかわかったものではない。関わらずにいきたいが、これまでの経験上、どうにも攻略対象を避けることはできないようだった。
(ボイルドエッグは私が守る!)
サマリエは決意して、アルテミーと連れ立って、昼食を食べるために中庭に向かった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる