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2章 粛清と祭

第33話 友達の精度 ※R18シーン無し

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「初めまして、隅影すみかげ 真凛まりんです」


「よろしくお願いします、隅影すみかげさん。玉元です。アドニスって言った方が分かりやすいのかな?」


「まーね、私は、アドニスって呼ばせてもらうわ」

「うん、呼びたいように呼んでくれればいいよ」


 夢の中で、まりんと合流した僕は、お互いに自己紹介をしていた。


 だだっ広い倉庫で、まさかガラスを破って入ってくるとは予想外だった。


 しかも、羽根が無いのに空を飛んでいた。

 というか、高速回転していた?


 アレはどういう理屈なんだ?

 ちゆは僕の後ろに隠れて怯えている。

 無理もない、なんせ、まりんが狙っていたのはちゆなんだから。

 悪魔の羽根を見て追いかけたって言ってたから、一歩遅ければ僕と会う前に捕まっていた可能性がある。

 実はわりと危なかったんじゃないのかと思う。

「……で、そちらの立派な羽根をお持ちのお嬢さんは、あなたの妹さんってわけ?」

「あ、えっとー、そういうことでは無いんだけど、一応、同居人というか、親友というか、仲良い子で」

 珍しそうにちゆの身体を見るまりん。

 興味津々って感じだ。

「へぇー、アドニスって、サキュバスと同居してるんだ。よく無事でいられるね」

 僕にしがみつくちゆを追いかけて2人がグルグル回っている。

 しがみつきがら回るからくすぐったい。

 怯え方が前のアカリ以上だ。完全に逃げ腰になっている。

 デーモンハンターって、そういう恐怖心を煽る空気を醸し出しているんだろうか?


「えいっ!」


 まりんがちゆの羽根の上骨部分を掴んだ。

「ひゃあっ!」

 口を大きく開けて動けなくなるちゆ。僕の身体にしがみつく力が強くなった。

 こうしてみると、ちゆはとても同級生とは思えない。

 まりんから見てもそのようだった。

「そーなんだ、じゃ、近所のお兄ちゃんって感じだ」

「いやいや、ちゆは同じクラスの子だから」

「ええええ!?じゃあ私ともタメってこと?信じられない。成長期?」

「ハハハ、そういう可能性もあるね」

 まさかここから成長したら衝撃だが、サキュバスだし、可能性がゼロとは言い切れない。

「……ちゆの羽根、触らないでください」

 ちゆが小声で責めるようにつぶやく。まりんがニヤニヤしている。楽しそうだ。

「うわぁー、めっちゃ可愛い声してる。もっかい言ってみ?」

「……言わない」

「すっごい可愛い声。こんな子いたんだ。全然知らなかった」

「隅影さん、あんまりちゆをイジらないでくれませんか」

「ええー、こんなの弄りに入らないでしょ?てか普通にまりんで良いよ、タメなんだし」

「えっと、……じゃあマリン、聞いておくけど、もしさっき外でちゆを捕まえてたらどうするつもりだったんだ?」

「ええー、そんなの決まってるでしょ。2度と飛べないようにしてやってグルグル巻きにして天国に引き渡してるよ」

「…………ひっ!!」

 ちゆが小さく叫ぶと急に倒れる。何とか床につく前に支えられた。

 寝ている?

「ちゆちゃーん、どうしたー?」

 軽く頬を叩いてみるが、反応がない。


 まさか気絶!?


 ……完全に気を失っている。夢の中で意識を失うって、現実ではどうなるんだろう。

 僕はちゆをお姫様抱っこのように抱きかかえる。

 羽根があるので重さはあるが、ぶっちゃけ羽根自体は引きずっていけるので意外と本人は持ちやすい。

「そんな怖がらせるようなこと言わないでよ。ちゆ気絶しちゃったじゃないか、頼むよまったく……」

「んんー?別にそんなつもりないんだけど。事実だし」

 反省の色は無さそうだな。

「……ほんとに飛べなくしてグルグル巻きにするつもりだったの?」

「もち、もち、羽根もいったん破っとく。ほら、穴空いてたら飛べないっしょ」

 本気か!?

 なんて残酷なんだ。これは、さっき気絶しといて正解だったなちゆ。

 てか、気絶ってけっこうメンタルブレイクの予防には有効手段なんだな、こうして見ると。

 ボコボコになる前に気絶しとけばそれ以上傷付かなくて済む。

 ……なるほど、勉強になった……のか?

「そっか、僕と会えてほんとに良かったよ。恐ろしいな。君は」

「そっかなぁ、悪魔相手なら、こんなの普通っしょ、アドニス達がしょぼ過ぎるだけだって」

「でもさ、天国に引き渡すって、なに?天使の監獄があるの?」

「んー?私もあんまし知らないんだけど、悪魔の処理してる場所のことを通称天国って言ってるだけね。引き渡し先は色々あるから、その場所から近い天使の役所に連れてくって感じ」

「そう……なんだ。夢の中で、天使とは会えるの?」

「基本的にはむり。基本的には」

「基本ってなに?僕は人間だけど、夢で会えてるじゃん」

「それは私らサキュバスが招き入れてるからだよ。招待しないと入れないんだよ?知らなかった?」

「あー、そう言うことだったのか。だから昨日は……」

 つまり、僕を招待したのは、上級悪魔で夢魔であるもう1人のちゆ。

 そういう意味では、こっちのちゆは、サキュバスだから夢で合流できたということなのだろうか。

「マリン、天国の役所ってのは、君が招待してるってこと?」

「ちがう」

「違うのか」

「私じゃ招待したくてもできないもん。なんか指定の場所に行ったら天使がいるのよ。正直意味不明だけど、まぁ悪魔の放り込み先が何個もあるってくらいで考えて良いんじゃね?って感じよ」

「……そっか、まぁ、一応理解はした」

 謎が深まるなぁ。……その場所の指定ってのは、ケルビンとか、他の天使がやってるんだろうけど、どういう連絡手段なんだろう。

 結論言ってしまえば、ケルビンに夢の中でも連絡を取れるようにしたいんだが、マリンはその方法分かるんだろうか?

「てかアドニス、アンタさ、ヤバくね?そのサキュバス囲ってんの?人間なのに」

「……いいだろ、なんで急にそんなこと」

「まぁ、個人的にやるぶんには好きにすれば良いけどさ、人間食い散らかし始めたらその責任取れるわけ?」

「……取るよ」

「どうやって?そん時は、たぶんアンタ生きてないんじゃない?」

「なんとかするよ」

「ふーん、でもま、アドニスが言うなら可能性はあるか……、でも無謀だよね」

「自分でもそれは分かってるつもりなんだ。だから、あまり追及しないでほしい」

「へー、アドニスって、思ったより感情的なんだね。もっと論理的な人だと思ってたわ」

「感情がないと、人を好きになることなんてできないからね」

「そういう話じゃないんだけどな」

「それで言うと、マリン自身は、何を思ってデーモンハンターになったんだ?」

「私は、……えっと、……ノリとか?」

 これは嘘だ。サキュバスのことを恨んでいるからマリンはデーモンハンターになっている。

 だが、本人が言いたがらないところを見ると、やはり学院でのトラブルが関係しているのだろう。

 こちらへの追及が激しいのも、自分への追及を避けるため。

 ……だが、このままブラックボックスで終わらせるわけにはいかない。

 もし、彼女を味方にするのであれば、避けては通れない道だ。


「マリン、僕はこれから、君と一緒に戦っていきたいと思っている。だから、君のことを知っておきたい」


「……それは、必要なこと?」


「必要だ。なぜか分からないかい?」

「……わからない」

「今、僕の腕の中にいるこの子は。僕が大切に思っている女の子なんだ」

「そのサキュバス?」

「そうだ」

「でもサキュバスって、悪魔なんだよ?悪魔は退治しなきゃ」

「マリンの言いたい事は分かる。だけど、僕が大事にしている事を理解してもらえないなら、僕は君とは組めない」

「そっ、なら、無理に組むことないんじゃない?」

「マリン、僕は初めに、君と一緒に戦っていきたいって言っただろ?」

「……なんなのさ、私に何を求めてんの?困るんだけど」

「だから、僕の大切な子のことを傷付けないで欲しい」

「それって、その子でしょ?」

「うん、名前は、三神みつかみ 知由ちゆ。僕の同居人で、優しい女の子だ」

「サキュバスじゃん」

「君だってそうだろう?」

「……まぁ、私も、サキュバスの1人ではある、けど」

「だったら、君と友達になる事だって出来ると思わないかい?」

「はぁ?」

 表情が変わるマリン。

 近寄ってくる。顔がめちゃめちゃ近い。凄い威圧感だ。

 ……にしても綺麗な目だな。それだけ彼女は純粋ってことだろうか。

 明らかにキレている。来た。コレだ。ここからだ。


「この子は、……たぶん、君の良いになれると思うんだ」


 この言葉でスイッチが入ったようだ。

 僕を指差すと、まるで滝が流れるように彼女は怒鳴り始めた。

 

「はぁあああっ!ふざけんなよ!!私は友達ってのが1番嫌いなんだ。利用するだけ利用して、本音も言わないし、言えない、悪口陰口ばっか。……私が気遣ってあげたのに、気の遣い方がどうって、裏で言ってるんだよ。コソコソコソコソ、トモダチとかほんとあり得ないんだけど、……マジでクソ、ほんとクソ、サキュバスなんてもっとアホだしバカだし、終わってる、私が教室で何されたか知ってる?」

「し、知りません」

 凄い剣幕だ、てか近過ぎて唾が掛かる。

「知らないよね?アンタ転入生だもんね。教えてあげる!入学してすぐすり寄ってきたアイツら、最初は仲良くなりたいとか言って、別に興味もなかったのに仕方なく一緒に遊んでやってたら、途中から態度変えて、教室で無視するわ体操着隠すわ教科書破くわ、廊下で足引っ掛けてくるわ、昼は席離れてる隙に弁当ひっくり返すわ、他にも散々なことされたんだかんね」

「そ、……壮絶だね」

 予想以上にしっかりとイジメられていた。

 ……それは引きこもるだろうな。

「初めは、私も悪かったと思ったし、反省しようとして、一人一人ちゃんと呼び出して謝ったし、ちゃんと関係を良くしようと努力した。だけど、ダメだった。なんか、ヤツら、その場では取り繕って仲直りしたようなフリをするんだけど、次の日になったら元通り。もう、どうにもならないでしょ?」

「先生には報告したのかい?」

「先生にも声掛けたけど、変わらなかった」

「なぜ?」

「朝礼で話したり、生徒呼び出しとか、その辺はやってたみたいだけど、そんな形式的なやり方だけで収まるわけないよね?」

「……まぁ、そう言われるとそうか」


 先生としては、サキュバス用の対策とかもあるんだろうか?

 この辺は人間だろうが悪魔だろうが同じなんだろうな。


 それにしてもマリンが近い。一歩下がると、一歩詰めてくるから、どうしようもない。

 凄い唾が掛かるけど、指摘してもいいんだろうか。


 まー、……いいか、まりん怒ってるしなぁ。


「……だから、もう、諦めたの。……それで、部屋で一人になってよく考えたわけ。実は、皆んな、なんじゃないかって。そう思った時に、私は初めてサキュバスについて調べたの。それで分かった。アイツらは、ほんとに悪魔だった。……だったら、別に仕返ししても良くね?悪魔は駆除されて当たり前じゃね?ちょっと気が晴れた気がした。おかげで、外に出て遊べるくらいには元気になったの」

「良かったじゃん」

 ……てことは、それまで自分が見習いサキュバスだってことに関心が無かったのか。

 となると、まりんは、どういう経緯でこの学院に入学したんだろうか。

「だけど……、思ったの、もし、このまま私もサキュバスになったらって……。そうなったら、私、駆除される立場になる。……怖かった。どうしようもなく苦しかった。生きた心地がしなかった。そしたら、部屋に変な封筒が届いたの。それが、デーモンハンターの誘いだった。まるで、私の思考から来る行動を予見したかのようなタイミングだったわ。私がデーモンハンターになるのに、躊躇いなんてない。そうでしょ?天使公認なのよ?」

「そうだね、公認ってのは強いよね」

 それは、僕と同じ茶封筒なのだろうか。だとしたら、差出人はケルビン?レオミュール?

「つまり私は特別なサキュバスってことでしょ?他とは違う、正義のサキュバス。少しカッコいいって思わない?ダークヒーローって感じで。皆んな怖がってできない事を、私が代行してあげてるわけ。どう?この清々しい気持ち。分かんない?まー、アドニスじゃ分かんないか、ぬるま湯でしか生活したこと無いもんね、人生イージーモードで良かったねー」


 ……長い自己紹介が終わったようだ。


 彼女がデーモンハンターになる理由としては確かに納得はできる。

 だけど、まだこの話には謎な部分がある。

 イジメの首謀者について、そして、マリンが成体サキュバスになったタイミングだ。

「僕のことはいいとして、結局、まりんのイジメ問題は解決できたのか?」

 これは、できてない前提での質問だ。

 そもそも今もマリンは学校に来ていないのだから。

「解決?……したみたいなもんでしょ?」

「それは、デーモンハンターになったから?」

「まーね」

「イジメの首謀者について、目星はついているのかい?」

「へぇー、……そんなとこに興味あるんだ」

 まりんが今までと違う反応を見せる。

 自分の過去を話したことで、少し友好的になってくれたんだとしたら有り難い。

 やはり仲間になるからには話し合いは必要だ。

「あぁ、悪魔かどうかはともかく、そういうイジメ問題は、これからの学院の治安に関わることだからね」

「玉元くん、だっけ?優等生じゃん」

 苗字で呼んできた。

 これは距離が縮まったのかな?

「うん、セイシでも良いよ」

「じゃ、玉元、首謀者が明らかだとしたら、どうすれば良いと思う?」

 ……苗字でいくんだ。

 でも呼び捨てになったな。……進展したことにしとこう。

「謝らせないとね、悪いことをしたんだから」

「謝ると思う?」

「さぁ、相手によるだろうね」

「だよね、アイツの場合、簡単にはいかないって思うわけよ」

「まりんは、謝らせたいと思うの?」

「……どうかな。もうどっちでも良い」

「そうなんだ。それは、まりんが、過去に負った傷を乗り越えたのか、ただ投げやりになったのかどっちなんだい?」

「うーん、どっちもかなぁ」

「でも今は、友達を作る気はないんだろう?」

「ないよ、信じられないもん、そんなに友達を作ることが生きていく上で重要なわけ?」

「そんなことはないよ」

「だって、玉元も、友達作れって言ったじゃんよ、忘れてないかんね」

「僕は友達を作れなんて一言も言ってない」

「じゃあ何て言ったのよ」

「僕は、この子なら、君のいい友達になれると思う、って言ったんだよ」

「一緒じゃん」

「ちがうよ」

「……なに?国語の授業?選択肢から正しいの選ばせる気?あんなの勘でやってるんだけど、笑うわ」

「まりんは、今まで、友達だと思っていた人がいないんだ」

「……は?私ぼっちになった事なんて無いんだけど」

「なんでマリンは、ぼっちには友達がいないと思っているんだ?」

「は?謎々?今度は何の授業が始まんの?」

「そんなの、友達いないからぼっちなんじゃん」

「別に、学校で1人でも、学校以外で友達がいれば寂しくはないと思うんだ。学校で1人でいても成績が下がる理由にはならないだろ」

「……そりゃ、まぁ、……そうか」

「まりんは、学校に行くとイジメを受けると思っているんだろう?」

「アイツらは敵なのよ」

「そう、敵だ、倒すべき敵なんだ」

「んん?何?玉元、良い事言うじゃん、どしたの?てっきり、気にするなとか適当なこと言うのかと思った」

 少し表情が明るくなるマリン。

「まりん、……まさか君は、このに及んで敵と仲良くなる気でいるんじゃないだろうな?」

「……いや、べつに、そんなつもりは」

「友達なんて要らないんじゃなかったのか?」

「……いらない」

「敵を倒したくないか?」

「倒したい、……サキュバスになったら、すぐ捕まえて天国送りにしてやる」

「でも考えてみろよ」

「なにを?」

「やつらがもし、サキュバスにならなかったら、マリンはいつまで経っても復讐できない」

「……たしかにそうね」

「教室のヤツら、全員嫌いだよな?」

「嫌いよっ!1人残らずねっ」

「いいねぇ、まりん、潰してやりたいよなぁ!学年ごとなっ!」

「何なに?テンション上がってきたんだけどっ!」

 まりんが本当にテンションが上がってその場でバタバタしている。

「知りたいか?」

「知りたいっ!……って、何を?」

「なら、戦略を教えてやろう」

「いきなり上からだね玉元!でも聞いてあげるよ」

「首謀者の信頼を地に落とすんだ」

「何それっ!どうやんの?」

「まずは参謀から丸め込む」

「なるほど、参謀!?」

「そうだ」

「なんだっけそれ?」

 分からんのかい!?

「……いつも一緒にいる頭良さそうなヤツのことかな」

 まりんは考えながらその場でグルグル回った。

「いたわ!何か、アイツに引っ付いて回ってる、黒髪ボブの大人しそうな優等生!ソイツがヤバイんよ多分」


「どんな風にヤバイのか分かるか?」


「えっとー、いつもクスクス笑ってて、たぶん意地が悪いような気がするんだよね」

「ぜんぜん分からん」

「とにかく、私じゃ手に負えそうもないから、玉元が何とかしてよね」

「ええ、そっか、ちょっと考えるよ。それで、首謀者の方は誰なんだ?」


 僕は、その名前を聞いて、血の気が引いた。





 え?





 さすがにそれはまずい。







「あきかぜ、秋風あきかぜ よもぎ






 よもぎが首謀者だと!?






 ……てことは、黒髪ボブで大人しそうな優等生って、ゆかじゃないかっ!





 なんて都合が悪い偶然だ。




 ……てか何やってんだ2人ともっ!


 天使だろーがっ!よもぎは知らないが。







 いったん、マリンに対してゆかを近付けないように気をつける必要がある。


「……へぇー、そうか、……じゃあ、その、参謀の子については、任せてくれ!僕が上手く丸め込んでやる」


「ほんと!?悪いね玉元、私にできる事があったら何でも手を貸すよ、俄然やる気が出てきた。やっぱやられたらやり返したいよねっ!まさか玉元がこんなに話が分かるヤツだとは思わなかった。やっぱ第一印象ってのはアテにならないもんなのな」

 かなり乗り気になっている。


 誰だ、こんなに乗り気にさせたのは……。




 僕だ!





 くぅー、なんでよもぎが首謀者なんだ、何かの間違いであってくれ。

 どう考えてもゆかも関わってるじゃないか!

 まりんから見ると、これからデーモンハンターの仲間として手を組もうと言ってくる相手が、自分を不登校に追い込んだイジメっ子と同居なんてしてたら信用するしないとかいうレベルではないぞ。



 どうする……、いったん組むのをやめて、この問題を解決してからケルビンに相談するのもアリか。




「なぁ玉元!」


「はいっ!」

 腕を僕の首元に回してくるまりん。

 やはり距離が近い。吐息が頬に当たって熱い。

 さっきまで感じなかった恐怖心が芽生える。


「わたしらってさ、になれるんじゃね?」


「はっはっはー!」

 笑うしかない。今は。


「おー? 嬉しそうじゃん。ちょい考えが変わったわ。私、明日から学校行くよ」


「え?」

 不登校解消っ!?

 引きこもらずっ!?


「なによぉっ!意外そうじゃん。なんつーかさ、考えてみたら、アイツらって単に猿山でボス猿気取ってるだけだと思うのよねー。つーことはさ、ボスさえぶっ叩けば、他の奴らゆうこと聞くっしょ?……玉元が言いたい事って、そういう事だよね?友達も今できちゃったし」

「……まぁ、簡単にいうとそんな感じではあるけど」

「今まで、サキュバスになったら、って、何であんなにこだわってたんだろ。そもそも考えてみたら、サキュバスにならねーヤツもいんじゃん。てことは、叩くならサキュバスとか関係ねーよなぁ」

 これは、かなり不味い方向にいってる。

 とにかく、軌道修正しなくては。

「そうだね、まりんの言う通りだ。だが、油断は禁物だ。あまり教室で暴れ回ると、敵側に有利に働いてしまう可能性もある」


 まりんが真剣な表情になる。


「なるほど、それもそうだな参謀玉元」

 さんぼうタマモト?

「さんぼ……、いや、まずは、首謀者に従っているヤツらの中で、裏切りやすいと思う敵を見つけるのが肝要だ」

「かんよう?……かん……よう?……ふんふん、それで?」

「つまり、裏切る可能性が高いヤツを味方に引き入れることで、敵の組織を内部から崩す必要がある」

「うへぇー、さすが参謀玉元!ワクワクしてきた」

 ほんとに喜んでいる。作戦とか戦略とかが好きなんだろうか?

「だからまず、僕がさっきの黒髪ボブの優等生と仲良くなる、……ここまでは良いな?」

「うんうん、でも油断はできないよ。マジで簡単に仲良くなれる相手じゃない。それは私も経験で知ってるんだ」

「そ、そそ、そうか、どうすれば仲良くなれるんだ?黒髪ボブの子と」

「ふふふ、まぁ、ちょっと参謀玉元には難しいかもしれないけど、あのタイプは押しに弱い」


「……ほぉ、なるほどな!」


「とくに、目を褒められると簡単に好きになってしまう、そんなタイプよ!」

 そういえば、まりんも綺麗な目をしてるよな。

「そういやまりん」

「なに?」

「まりんって、綺麗な目してるよな。凄い可愛いと思うよ」

「えぇ!ちょ、タマモトおまっ、なによ、……もうタマモトのこと見れないじゃんそんなこと言われたら」

 凄く恥ずかしそうにタジタジしている。

 言ってる本人には効果抜群のようだ。


 自分の弱点を相手の弱点だと思うことは珍しくない。

 やはり共感が最も強い武器ということなのだろう。

「タマモトって、褒めるの上手いよね」

「……そんなことないよ」


 ほんとにそんな事はない。


「でも、今ので、私の参謀としては合格点ねっ。これからよろしくっ!」


 いつの間にか参謀にされていたが、まさかこんな性格だったとは思わなかった。


 ちょっとよもぎと似ている気がする。


 似てる2人だから対立したのかもしれない。

 この問題は、おいおい解決するとして、とにかく、ここからが本題だ。


「ところでまりん、双子の夢魔って知ってるか?」


「双子の夢魔?」


「あぁ、実は昨日、この子、ちゆちゃんの双子の夢魔に会ったんだ。できることなら、交渉して融合を促したいと思っている」


「あー、知ってる。ケルビンから聞いた」


「何か手掛かりとかないか?急がないと、ちゆちゃんが危ないんだ」

「……正直、私も融合の方法は知らない。だけど、双子の夢魔を呼び寄せる方法は知っている」

「それだ!どうすればいい?」

「その子の夢の中へ入れば良い」

「それって、……どういうこと?」

「夢魔は夢魔の世界を自分で生成できる。そこに外部から別の夢魔が入る事も可能。だけど、双子の夢魔は本人の夢の中でしか出会う事ができない、だから双子の夢魔は、双子の夢の中にいて、初めて存在できるってことね」

「……ってことは、ちゆの夢の中でしか、もう1人のちゆを呼び寄せることはできないってことか」

「そーね、どうする気なの?」

「ちゆの夢の中へ入る」

「そっ、でも、この子、えっと、ちゆちゃん?は、眠ってるけど?」

「どうやって入れば良いんだ?てか、この倉庫はいったい誰の夢なんだ?」

「あ、知らないんだ。……この夢はね」




「ちっすー!」



 この声は、あかり!?




 後ろから突然現れたのは、生田目アカリだった。


「あかり!?……何故?」


「まー、成り行きっていうか、昼間に、レオミュールから連絡があってさ。マリンとセイシを会わせたいって言うから、仕方なく私が夢空間を生成したわけ」


「なんでアカリ本人がいないんだよ!無駄に散策しちゃったじゃないか」


「そうカッカすんなって、私も別にわざとセイシを招待して放ったらかしにしてたわけじゃないんだからさ」

「ちゆちゃん危なかったんだぞ、一歩遅れたらグルグル巻きにされるとこだったよ」

「そっかー、でもまぁ、私の夢だから、天国投げられても、私がキャッチできるよ」

「……そうなんだ、理屈はよく分からないけど、便利じゃん」

「そうでしょ?だから何とかなるかなって。だけど、ちゆちゃんの事、ケルビンは知らなかったと思うよ」

「そっか、……言ってなかったからなぁ、双子の夢魔としか」

 まりんが、僕とアカリを交互に見る。

 不思議がっている様子だ。

「え?なに?アンタらどういう関係なの?」

「私とセイシは、……なんだろ?セフレ?」

「してないだろっ!」

 即座に突っ込んでしまう。

 なんて事を言うんだアカリは。

 ……そう、アカリとは、そこまでの関係では無いのが実情だ。

 アカリは見習いではなく、すでに羽化している成体サキュバスなので、今後関係が進むことは無いだろう。たぶん。

「へぇー、玉元、ほんとの友達っぽい子いるじゃん」

 ……ちゆちゃんも友達枠で良くないですかね。


「てかさ、あかりは今までどこにいたの?」

「えー?ふつうにデーモン狩り」

「そうなんだ。あかりって、どうやってハントしてんの?」

「うーん、そうだなぁ、こうやって、こう!みたいなっ」

 あかりはしゃがんで柔道をするように、エアー背負い投げをして見せる。

 あくまで形だけのエアーだ。

「そんな物理なんだね」

「そだね、いぇいっ!」

 手でVサインして見せるアカリ。楽しそうだな。順調なのだろうか。

 デーモンってサキュバスなのかそうじゃ無いのか気になるが、あまり追及すると野暮というか、悪い気もするので質問はやめておいた。

「アカリ、これから僕は、ちゆちゃんの夢の中に入りたいんだ」

「ふーん、入れば?」

「どうすれば入れるの?」

「そりゃ、ちゆちゃんに招待して貰えば入れるよ」

「今、気絶してるんだよ」

「……そうなの?なんで?」

「ちょっとね」

 僕はマリンの顔を見る。

 マリンはニッコニコの笑顔だ。本当に悪気が無いことを伝えているんだろうが、実際マリンの言動はかなり怖い。

「なるほどねぇー、たしかに、セイシの場合は、人間だから、気絶している子の夢の中へは入れないね」

「やっぱ人間だとダメなんだ」

「ダメだねー、ちゆちゃんの夢に入らないとヤバいの?」

「それが、双子の夢魔と何としても交渉したくて。ほんとに、一日でも早く話したいんだ」

「そっかー、だったら、夢の中から起こすって手もあるよ」

「そんなのできるんだ」

「できるよ。起きちゃえば本人から招待できるからね」

 そうか、サキュバスなら無意識の相手でも入れるんだ。

 そりゃ、夢魔だもんな。招待されないと入れないんじゃどうしようもないよな。

「まりんは、ちゆちゃんの夢に入れるの?」

「……むり」

「それは、何でなの?」

「私が気絶させてるから」

 理由がシンプルだな。

 気絶させた張本人は夢に入れないんだ。

 なんでだ?

 入り口の審査で弾かれるのか?

 ……となると。


 僕とマリンが、アカリの方を見つめる。






「…………え?」



 アカリが、自分自身を指さして目をぱちくりさせていた。
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