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11章 ー 捜索 ー
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「ハルー、いつまで寝てるの? 起きなさいよー」
カレンは医務室のドアを開けてベッドで寝ている俺に声を掛けようとした。
「なぬ!!!!」
全身で驚くカレン。
それもそのはずだった。俺はイベリスと抱き合って眠っていた。
ちなみに俺はまだ熟睡中だ。
じゃあ誰が解説しているのかって?
それは俺だ。眠っている人間が解説してはいけないという法律はない!
カレンはしばらく両腕を自分の顔の前まで上げて硬直していたが、すぐに我に返る。
ゆっくりイベリス側へ回り、彼女の体勢を確認するカレン。
布団をゆっくり、めくりあげて、イベリスの腕がしっかりと俺へホールドされているのを確認する。
何かを疑うカレン。
ほらほら、俺じゃないですよ、イベリスの方が、俺に抱きついているのであって、俺からではなくですねカレンさん。
イベリスのほっぺに、指でトントンするカレン。
「イベリスちゃーん」
小声で声を掛けるが、起きそうもない。
カレンは、イベリスの腕を俺から離そうとしたが、その行為に反応し、イベリスがカレンの腕を引っ張って引き寄せた。
「ちょ、ちょっと!!」
ドサッ、とカレンが俺とイベリスにのしかかる。
その衝撃で目が覚める俺とイベリス。
ちょうどカレンの顔が目の前にあった。
「わっ!! カレン!!?」
「お、おはよう、ハル」
変な体勢で倒れたせいで、起き上がりにくいカレン。
「……何してんの?」
「こっちのセリフよ」
「うーん」
イベリスが目覚める。
「おはよう、何してるの? 2人とも」
「「え?」」
俺とカレンがハモった。
イベリスの視点では、俺にカレンが乗っているように見えていた。
◇ ◇ ◇
朝食の時間だった。
俺はカレンとイベリスと共に食堂へ向かう。
先にアゲパンとマイクロジャムが着いていた。
「おう、ハル! カレンちゃん! こっちだ」
テーブルに呼ぶアゲパン。やはり昨日のような元気はなさそうだ。
「で、えっと、その子はなんて言う子だったっけ」
「イベリスよ」
カレンが代わりに答える。
「イベリスか、よろしく」
コクっ、と頭を下げるイベリス。
「ハル、調子は大丈夫なのか?」
「あぁ、もう平気だ。それよりマリアは?」
「ダメだ、何の告知もない。この後の予定も白紙だ」
「ディークから何も聞いていないのか?」
「ほとんど何も。ちょっと立ち話は聞いたんだけどさ。さっき、ディークのやつ、今日の座学は自習だ。外へは出るなよってだけ言って、そのままどっかいっちまったんだよ。マジでどうなるんだろうな」
カレンが深刻そうな表情をする。
「私たちが動いても、邪魔になるってことでしょ? 大人しく待ってるしかないわよ」
「そういや、カレンちゃんって、術罠、見抜くことができるんだろ? それで、マリアを探したりできないのかな」
「え? 無理よ、私のユニークスキルは、対象があって初めて成立するのよ? もしマリアが拘束されて、擬態の魔法を掛けられていたとしても、その場所が分からないとどうにもできないわ」
「そっかー、まぁ、そうだもんな。でもさっきさ、ディークが話してたのちょっと聞いちゃったんだよね。風魔法を使える戦士が、施設にいないんだってよ」
「そうなの? じゃあ、捜索も難航してるってこと?」
「らしいぜ。一応、フォースインゴットに救援依頼は出しているみたいだから、3日後くらいには助っ人が来るんだとさ」
「3日? 遅すぎない? 人命救助の要請なのよ」
「つっても俺らって、犯罪者だからなぁ。誰が好き好んで助けに来るんだよ。別に儲かるわけでもないしさ。ムリだろー、つれーなぁ、な、マイクロジャム」
「そうだね、味方はいないよね」
そうか、風魔法、つまり、捜索と感知に関するマッピングのスキルを持つものがいないということか。
マリアの状況が分からない以上、3日は確かに悠長過ぎる。
もし、コネクターを使って捜索させてもらえるなら。
「カレン、イベリス、俺に協力してくれないか?」
「なに? 良いアイデアでもあるっていうの?」
疑いの目を向けるカレン。
だが、自信満々で俺は答える。
「ある!」
◇ ◇ ◇
訓練校の入口近く、施設の窓口にあるテーブルの死角で、カレンとイベリスに説明する。
「いいか? 実は俺は、捜索に関係する魔法が使えるんだ」
「なんだ。ハルって風魔法使えるんじゃん」
「風魔法とは、ちょっと違うんだけど、とにかく、捜索できる」
「へー、怪しいけど、試験の実績があるし、一応実力は認めてあげるわ」
「ありがとうカレン」
イベリスがぽかんとしている。
「私は何をするのハル」
「ナッツは連れてきているな?」
イベリスの後ろ髪から顔を出し肩へ現れるナッツ。
ナッツと目を合わせるイベリス
「よし、ナッツに協力して貰って、俺らでもマリアを探すんだ」
「え? でも、外に出るのはダメよ。気持ちはわかるけど」
「もちろん、捜索隊はナッツだけだ。俺たちは、この場所から動かずに探す。見つけたら、ディークか、他の教官に報告だ」
「動かないで探すって、本当に? そんなこと、風魔法でもできないでしょ?」
「俺ならできる。いや、俺たちだから、できる」
カレンは鼻で笑う。
「何言ってんの?」
「まぁまぁ、協力しろって」
「協力する! 任せて! ハル!」
代わりに力いっぱい答えるイベリス。
「コネクター」
まずはイベリスへコネクトする。
今回のマリア捜索は、ナッツが主役だ。
ネクロマンサーであるイベリスは、ナッツの行動をコントロールすることができる。だが、それは意思が届く範囲に限られる。
意思が届かなくなれば、ナッツは主人の意思が届くところまで戻らなくてはならない。
ここで、コネクターのスキルを応用する。
俺はナッツと意思疎通はできないが、イベリスは意思疎通が可能。
ナッツへイベリス自身がコネクトすれば、指示は出せるという訳だ。
では、具体的にどうするか?
イベリスへコネクトした後、更に、イベリスを介してナッツへコネクターを飛ばす。
これはつまり、イベリスに2人分飛ばし、そのイベリスから一人分のコネクターを数珠つなぎでナッツへ飛ばすということだ。
今までは横にコネクトしていたが、今回は縦にコネクトする。
横と違って、縦に繋いでいるので、イベリスのコネクトが切れると自動的にナッツも切れるということだ。
そのため、簡単に切れないように、3人分イベリスに飛ばし、ナッツにも2人分飛ばしておく。ナッツは1人分でも問題ないのだが、複数刺しておく理由は後述する。
これでコネクトできる限界値の半分は消費することになるが、カレンにもコネクトして『見破る』を使わなくてはならない。
できるなら、最小限にしておきたいが、何か効率のいい方法はないものか。
そうだ。
「カレン、俺の左手を握ってくれないか?」
「は? なに急に? どういうこと?」
カレンが半ギレだ。想定内ではあるが、頼み込んでみる価値はある。
「えっと、そうした方が、繋がりが深まるというか」
苦しい言い訳だな。本当なのだが。
「何言ってんの? 頭おかしいの?」
「えっと、ちょっと、繋ぎたいなと思っただけで、何でもない」
コネクトの強度が高まる可能性があると思ったが、これはカレンに試すことではなかったかもしれない。
「いや、やっぱりいい」
と、手を元の位置に戻そうとして、急にカレンの方から握ってきた。
「あとで説明しなさいよ」
怒っているが、恥ずかしそうにもしている。
「お、おう」
カレンにコネクトする。成功だ。一人分のコネクトだけでも、『見破る』スキルの強度が大幅に上がった。
「私も握る!」
イベリスが右手を強引に握ってきた。
「あ、いや、イベリスはアレだ、大丈夫だ」
「なんで!?」
「右手を空けとかないと、術が上手く出せない」
「……わかった」
イベリスは手を離し、代わりに、二の腕にくっついてきた。
まぁ、いいか。決して悪い気分ではない、どころか悪い気分なわけがなかろう。
とりあえず、おかげで一人分のコネクトでカレンのスキルが使えるようになった。
ここで、4人分のコネクターをイベリスを経由してナッツへ送る。
なぜナッツへコネクターを送るかというと、ナッツ自身からコネクターを飛ばすためだ。
今、カレンに1本、イベリスに3本、ナッツに6本のコネクターが刺さっている。
ナッツはイベリスを経由しているので、糸としては強度に欠けるが、そこをイベリスを3本にすることで強化。
ナッツには1本さえコネクトしていればいいので、計5本のコネクターをナッツから飛ばすことが可能になったわけだ。
これで準備は完了だ。
「よし、準備は整った。イベリス、ナッツに、大人の戦士を探すように指示してくれないか」
「うん、いいよハル。ナッツ、大人の戦士を探して、見つけたら報告して」
ナッツは頷いた。
さぁ、ナッツ。頼んだぞ。
ナッツは全力で施設を飛び出した。
マッピングで、ナッツの視点を確認する。凄いスピードだ。やはりネクロマンサーの従者ということで、力が増しているのだろうか。
さっそく一人戦士らしい男を見つけた。
「あ、ハル、ナッツから報告よ、背の高い、鎧を着た人がいるって。どうするの?」
「よし、ナッツに、彼から視線を外さないように言ってくれ」
「わかった。ナッツ、その人から目を離さないでね」
「コネクター」
集中して、ナッツのコネクターを戦士に飛ばす。
これが難しい。自分で照準を合わせるのも一苦労だというのに、リスを媒介して飛ばさなくてはならない。
よし、成功だ。
戦士にコネクトが完了した。
「もう大丈夫だイベリス。成功だ。次の戦士を探すようにナッツに指示してくれ」
「わかったわ。ナッツ、もうその人を見なくてもいいから、次の戦士を探して」
「ハル、あなた大丈夫? 汗だくよ。手汗もヤバいんだけど」
カレンが心配して俺を見る。
確かに、汗が凄かった。
「私、水筒持ってるから、水飲みなさい」
手を離し、カレンから水筒を受け取り、水を飲む。
「ありがとう、カレン」
「いえいえ」
俺が集中しようとすると、カレンが怒る。
「ほらっ! 手、握りなさいよ」
「う、うん」
再び手を握る。
そういや、イベリスとは一緒に捜索している雰囲気は出ているが、カレンとは、ただ手を繋いでいるだけなんだよな。でも、重要なことだから、本当にどうしようもない。
カレン、すまない。我慢してくれ。これも人助けだ。
そんなことをしていると、さっそく二人目の戦士をナッツが見つけた。
「ハル! ナッツが、また戦士っぽい人がいたって言ってるよ。身軽な格好だけど、大きい斧を持ってるって」
「ナイスだナッツ! 目を離さないように言ってくれ」
「わかった。ナッツ! その人から目を離さないで」
集中してコネクターを刺す。成功だ。
「オッケー、次のターゲットを探すように言ってくれ」
「うん! ナッツ、次もお願いね!」
一人目の戦士に比べると、二人目の戦士はかなり情報量が多かった。
これは当たりを引いたかもしれない。
一人目は鎧の戦士だったからか、行動量やマップの知識がほとんどなかった。
だが、二人目は、色々と島を捜索していたようだ。
6割くらいの情報はマッピングできた。
戦士たちの情報によると、島は三日月のような形をしていて、この戦士の養成学校はその三日月の最南端に位置している。
ブラックポンドは中央東側にあり、北西と北東に別の施設があった。
ナッツをどこに向かわせるかは悩むところではあるが、やはりラボが気になるところではある。
「イベリス、ナッツに、北東へ向かうように言ってくれ」
「ナッツ! 北東へ向かって!」
イベリスが俺の方を困って泣きそうな顔で見た。
「ナッツが、北東が何なのか分からないって、私もどっちが北東なのかわかんない」
なるほど、そりゃそうだ。俺でもそんな指示されても分からないだろう。
「ゴメン、ナッツ、とりあえず、まっすぐ進んでくれ、俺の方で確認する」
マッピングされた地図上を走るナッツを確認する。
なるほど、三日月の西側へ向かっている。つまりコレは。
「ナッツ! 止まって真後ろを向け! そのまま斜め左に直進だ!」
イベリスが復唱する。
「ナッツ! そのまま止まって! 真後ろを向いて! だいじょうぶ?」
イベリスがあたふたしている。
「ゴメン、ハル、どっちだっけ?」
「斜め左に直進だ」
「斜め左に直進よ! 分かる? ナッツ?」
マップ上のナッツを確認する。んんー?
「北に向かってるな。左に回り過ぎた。右寄りに進むように言ってくれ」
「ナッツ! もうちょっと右寄りに進んで」
マップ上のナッツが、北東へ進み始めた。
「オッケー! ナッツ! 素晴らしい! その方向だ」
「オッケーよ! ナッツ! 偉いわ! お利口よ!」
イベリスと静かにハイタッチする。
なんとかナッツがブラックポンドの方向へ動き出してくれた。
「楽しそうね、あなた達」
カレンが面白くなさそうな顔をしてこっちを見た。
イベリスの目が泳ぐ。やはりカレンは恐いのだろうか。
「これも全部、カレンのおかげだ」
「何言ってんのかさっぱりだわ」
たしかに、まだカレンの活躍はないかもしれない。
とはいえ、重要な役割だから、多少の退屈には耐えて欲しいものだ。
そうしているうちに、またナッツから伝言が入った。
「ナッツが、何か見つけたみたい。ハル、確認できる?」
ナッツの視点を拡大する。
ブラックポンドの近くの森、というか、果樹園のようだ。
何か、景色が歪んでいるように見えた。
これは、おそらく術罠と同様に擬態しているのだろう。だが、それほど精度は高くないようだ。
内部でバランスを取ることを阻害する何かが起こっている。
「ナッツに、警戒するように言ってくれ」
「ナッツ! 警戒して!」
カレンの『見破る』スキルを使って、その景色の奥の真実を暴く。
信じられない光景が目に入った。
マリアが、銀髪の眼鏡の男に、首を絞められていた。
カレンは医務室のドアを開けてベッドで寝ている俺に声を掛けようとした。
「なぬ!!!!」
全身で驚くカレン。
それもそのはずだった。俺はイベリスと抱き合って眠っていた。
ちなみに俺はまだ熟睡中だ。
じゃあ誰が解説しているのかって?
それは俺だ。眠っている人間が解説してはいけないという法律はない!
カレンはしばらく両腕を自分の顔の前まで上げて硬直していたが、すぐに我に返る。
ゆっくりイベリス側へ回り、彼女の体勢を確認するカレン。
布団をゆっくり、めくりあげて、イベリスの腕がしっかりと俺へホールドされているのを確認する。
何かを疑うカレン。
ほらほら、俺じゃないですよ、イベリスの方が、俺に抱きついているのであって、俺からではなくですねカレンさん。
イベリスのほっぺに、指でトントンするカレン。
「イベリスちゃーん」
小声で声を掛けるが、起きそうもない。
カレンは、イベリスの腕を俺から離そうとしたが、その行為に反応し、イベリスがカレンの腕を引っ張って引き寄せた。
「ちょ、ちょっと!!」
ドサッ、とカレンが俺とイベリスにのしかかる。
その衝撃で目が覚める俺とイベリス。
ちょうどカレンの顔が目の前にあった。
「わっ!! カレン!!?」
「お、おはよう、ハル」
変な体勢で倒れたせいで、起き上がりにくいカレン。
「……何してんの?」
「こっちのセリフよ」
「うーん」
イベリスが目覚める。
「おはよう、何してるの? 2人とも」
「「え?」」
俺とカレンがハモった。
イベリスの視点では、俺にカレンが乗っているように見えていた。
◇ ◇ ◇
朝食の時間だった。
俺はカレンとイベリスと共に食堂へ向かう。
先にアゲパンとマイクロジャムが着いていた。
「おう、ハル! カレンちゃん! こっちだ」
テーブルに呼ぶアゲパン。やはり昨日のような元気はなさそうだ。
「で、えっと、その子はなんて言う子だったっけ」
「イベリスよ」
カレンが代わりに答える。
「イベリスか、よろしく」
コクっ、と頭を下げるイベリス。
「ハル、調子は大丈夫なのか?」
「あぁ、もう平気だ。それよりマリアは?」
「ダメだ、何の告知もない。この後の予定も白紙だ」
「ディークから何も聞いていないのか?」
「ほとんど何も。ちょっと立ち話は聞いたんだけどさ。さっき、ディークのやつ、今日の座学は自習だ。外へは出るなよってだけ言って、そのままどっかいっちまったんだよ。マジでどうなるんだろうな」
カレンが深刻そうな表情をする。
「私たちが動いても、邪魔になるってことでしょ? 大人しく待ってるしかないわよ」
「そういや、カレンちゃんって、術罠、見抜くことができるんだろ? それで、マリアを探したりできないのかな」
「え? 無理よ、私のユニークスキルは、対象があって初めて成立するのよ? もしマリアが拘束されて、擬態の魔法を掛けられていたとしても、その場所が分からないとどうにもできないわ」
「そっかー、まぁ、そうだもんな。でもさっきさ、ディークが話してたのちょっと聞いちゃったんだよね。風魔法を使える戦士が、施設にいないんだってよ」
「そうなの? じゃあ、捜索も難航してるってこと?」
「らしいぜ。一応、フォースインゴットに救援依頼は出しているみたいだから、3日後くらいには助っ人が来るんだとさ」
「3日? 遅すぎない? 人命救助の要請なのよ」
「つっても俺らって、犯罪者だからなぁ。誰が好き好んで助けに来るんだよ。別に儲かるわけでもないしさ。ムリだろー、つれーなぁ、な、マイクロジャム」
「そうだね、味方はいないよね」
そうか、風魔法、つまり、捜索と感知に関するマッピングのスキルを持つものがいないということか。
マリアの状況が分からない以上、3日は確かに悠長過ぎる。
もし、コネクターを使って捜索させてもらえるなら。
「カレン、イベリス、俺に協力してくれないか?」
「なに? 良いアイデアでもあるっていうの?」
疑いの目を向けるカレン。
だが、自信満々で俺は答える。
「ある!」
◇ ◇ ◇
訓練校の入口近く、施設の窓口にあるテーブルの死角で、カレンとイベリスに説明する。
「いいか? 実は俺は、捜索に関係する魔法が使えるんだ」
「なんだ。ハルって風魔法使えるんじゃん」
「風魔法とは、ちょっと違うんだけど、とにかく、捜索できる」
「へー、怪しいけど、試験の実績があるし、一応実力は認めてあげるわ」
「ありがとうカレン」
イベリスがぽかんとしている。
「私は何をするのハル」
「ナッツは連れてきているな?」
イベリスの後ろ髪から顔を出し肩へ現れるナッツ。
ナッツと目を合わせるイベリス
「よし、ナッツに協力して貰って、俺らでもマリアを探すんだ」
「え? でも、外に出るのはダメよ。気持ちはわかるけど」
「もちろん、捜索隊はナッツだけだ。俺たちは、この場所から動かずに探す。見つけたら、ディークか、他の教官に報告だ」
「動かないで探すって、本当に? そんなこと、風魔法でもできないでしょ?」
「俺ならできる。いや、俺たちだから、できる」
カレンは鼻で笑う。
「何言ってんの?」
「まぁまぁ、協力しろって」
「協力する! 任せて! ハル!」
代わりに力いっぱい答えるイベリス。
「コネクター」
まずはイベリスへコネクトする。
今回のマリア捜索は、ナッツが主役だ。
ネクロマンサーであるイベリスは、ナッツの行動をコントロールすることができる。だが、それは意思が届く範囲に限られる。
意思が届かなくなれば、ナッツは主人の意思が届くところまで戻らなくてはならない。
ここで、コネクターのスキルを応用する。
俺はナッツと意思疎通はできないが、イベリスは意思疎通が可能。
ナッツへイベリス自身がコネクトすれば、指示は出せるという訳だ。
では、具体的にどうするか?
イベリスへコネクトした後、更に、イベリスを介してナッツへコネクターを飛ばす。
これはつまり、イベリスに2人分飛ばし、そのイベリスから一人分のコネクターを数珠つなぎでナッツへ飛ばすということだ。
今までは横にコネクトしていたが、今回は縦にコネクトする。
横と違って、縦に繋いでいるので、イベリスのコネクトが切れると自動的にナッツも切れるということだ。
そのため、簡単に切れないように、3人分イベリスに飛ばし、ナッツにも2人分飛ばしておく。ナッツは1人分でも問題ないのだが、複数刺しておく理由は後述する。
これでコネクトできる限界値の半分は消費することになるが、カレンにもコネクトして『見破る』を使わなくてはならない。
できるなら、最小限にしておきたいが、何か効率のいい方法はないものか。
そうだ。
「カレン、俺の左手を握ってくれないか?」
「は? なに急に? どういうこと?」
カレンが半ギレだ。想定内ではあるが、頼み込んでみる価値はある。
「えっと、そうした方が、繋がりが深まるというか」
苦しい言い訳だな。本当なのだが。
「何言ってんの? 頭おかしいの?」
「えっと、ちょっと、繋ぎたいなと思っただけで、何でもない」
コネクトの強度が高まる可能性があると思ったが、これはカレンに試すことではなかったかもしれない。
「いや、やっぱりいい」
と、手を元の位置に戻そうとして、急にカレンの方から握ってきた。
「あとで説明しなさいよ」
怒っているが、恥ずかしそうにもしている。
「お、おう」
カレンにコネクトする。成功だ。一人分のコネクトだけでも、『見破る』スキルの強度が大幅に上がった。
「私も握る!」
イベリスが右手を強引に握ってきた。
「あ、いや、イベリスはアレだ、大丈夫だ」
「なんで!?」
「右手を空けとかないと、術が上手く出せない」
「……わかった」
イベリスは手を離し、代わりに、二の腕にくっついてきた。
まぁ、いいか。決して悪い気分ではない、どころか悪い気分なわけがなかろう。
とりあえず、おかげで一人分のコネクトでカレンのスキルが使えるようになった。
ここで、4人分のコネクターをイベリスを経由してナッツへ送る。
なぜナッツへコネクターを送るかというと、ナッツ自身からコネクターを飛ばすためだ。
今、カレンに1本、イベリスに3本、ナッツに6本のコネクターが刺さっている。
ナッツはイベリスを経由しているので、糸としては強度に欠けるが、そこをイベリスを3本にすることで強化。
ナッツには1本さえコネクトしていればいいので、計5本のコネクターをナッツから飛ばすことが可能になったわけだ。
これで準備は完了だ。
「よし、準備は整った。イベリス、ナッツに、大人の戦士を探すように指示してくれないか」
「うん、いいよハル。ナッツ、大人の戦士を探して、見つけたら報告して」
ナッツは頷いた。
さぁ、ナッツ。頼んだぞ。
ナッツは全力で施設を飛び出した。
マッピングで、ナッツの視点を確認する。凄いスピードだ。やはりネクロマンサーの従者ということで、力が増しているのだろうか。
さっそく一人戦士らしい男を見つけた。
「あ、ハル、ナッツから報告よ、背の高い、鎧を着た人がいるって。どうするの?」
「よし、ナッツに、彼から視線を外さないように言ってくれ」
「わかった。ナッツ、その人から目を離さないでね」
「コネクター」
集中して、ナッツのコネクターを戦士に飛ばす。
これが難しい。自分で照準を合わせるのも一苦労だというのに、リスを媒介して飛ばさなくてはならない。
よし、成功だ。
戦士にコネクトが完了した。
「もう大丈夫だイベリス。成功だ。次の戦士を探すようにナッツに指示してくれ」
「わかったわ。ナッツ、もうその人を見なくてもいいから、次の戦士を探して」
「ハル、あなた大丈夫? 汗だくよ。手汗もヤバいんだけど」
カレンが心配して俺を見る。
確かに、汗が凄かった。
「私、水筒持ってるから、水飲みなさい」
手を離し、カレンから水筒を受け取り、水を飲む。
「ありがとう、カレン」
「いえいえ」
俺が集中しようとすると、カレンが怒る。
「ほらっ! 手、握りなさいよ」
「う、うん」
再び手を握る。
そういや、イベリスとは一緒に捜索している雰囲気は出ているが、カレンとは、ただ手を繋いでいるだけなんだよな。でも、重要なことだから、本当にどうしようもない。
カレン、すまない。我慢してくれ。これも人助けだ。
そんなことをしていると、さっそく二人目の戦士をナッツが見つけた。
「ハル! ナッツが、また戦士っぽい人がいたって言ってるよ。身軽な格好だけど、大きい斧を持ってるって」
「ナイスだナッツ! 目を離さないように言ってくれ」
「わかった。ナッツ! その人から目を離さないで」
集中してコネクターを刺す。成功だ。
「オッケー、次のターゲットを探すように言ってくれ」
「うん! ナッツ、次もお願いね!」
一人目の戦士に比べると、二人目の戦士はかなり情報量が多かった。
これは当たりを引いたかもしれない。
一人目は鎧の戦士だったからか、行動量やマップの知識がほとんどなかった。
だが、二人目は、色々と島を捜索していたようだ。
6割くらいの情報はマッピングできた。
戦士たちの情報によると、島は三日月のような形をしていて、この戦士の養成学校はその三日月の最南端に位置している。
ブラックポンドは中央東側にあり、北西と北東に別の施設があった。
ナッツをどこに向かわせるかは悩むところではあるが、やはりラボが気になるところではある。
「イベリス、ナッツに、北東へ向かうように言ってくれ」
「ナッツ! 北東へ向かって!」
イベリスが俺の方を困って泣きそうな顔で見た。
「ナッツが、北東が何なのか分からないって、私もどっちが北東なのかわかんない」
なるほど、そりゃそうだ。俺でもそんな指示されても分からないだろう。
「ゴメン、ナッツ、とりあえず、まっすぐ進んでくれ、俺の方で確認する」
マッピングされた地図上を走るナッツを確認する。
なるほど、三日月の西側へ向かっている。つまりコレは。
「ナッツ! 止まって真後ろを向け! そのまま斜め左に直進だ!」
イベリスが復唱する。
「ナッツ! そのまま止まって! 真後ろを向いて! だいじょうぶ?」
イベリスがあたふたしている。
「ゴメン、ハル、どっちだっけ?」
「斜め左に直進だ」
「斜め左に直進よ! 分かる? ナッツ?」
マップ上のナッツを確認する。んんー?
「北に向かってるな。左に回り過ぎた。右寄りに進むように言ってくれ」
「ナッツ! もうちょっと右寄りに進んで」
マップ上のナッツが、北東へ進み始めた。
「オッケー! ナッツ! 素晴らしい! その方向だ」
「オッケーよ! ナッツ! 偉いわ! お利口よ!」
イベリスと静かにハイタッチする。
なんとかナッツがブラックポンドの方向へ動き出してくれた。
「楽しそうね、あなた達」
カレンが面白くなさそうな顔をしてこっちを見た。
イベリスの目が泳ぐ。やはりカレンは恐いのだろうか。
「これも全部、カレンのおかげだ」
「何言ってんのかさっぱりだわ」
たしかに、まだカレンの活躍はないかもしれない。
とはいえ、重要な役割だから、多少の退屈には耐えて欲しいものだ。
そうしているうちに、またナッツから伝言が入った。
「ナッツが、何か見つけたみたい。ハル、確認できる?」
ナッツの視点を拡大する。
ブラックポンドの近くの森、というか、果樹園のようだ。
何か、景色が歪んでいるように見えた。
これは、おそらく術罠と同様に擬態しているのだろう。だが、それほど精度は高くないようだ。
内部でバランスを取ることを阻害する何かが起こっている。
「ナッツに、警戒するように言ってくれ」
「ナッツ! 警戒して!」
カレンの『見破る』スキルを使って、その景色の奥の真実を暴く。
信じられない光景が目に入った。
マリアが、銀髪の眼鏡の男に、首を絞められていた。
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プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
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