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8章 ー 作戦 ー
しおりを挟む「アンタ正気? ディーク教官を捕まえるって」
カレンは信じられないような表情で俺を見た。
「あぁ、とはいっても、一人の力ではできないけどな」
「すげぇなハル! もし教官を捕まえられたら、俺ら優勝じゃん!」
アゲパンのテンションが上がる。
カレンは、俺の顔を見つめながら俺の周りを一周した。
マリアが腕を組み、苛立った表情でカレンを見ている。
「適当な嘘、ってわけでもなさそうね」
カレンは少し屈んで、自分の顎を親指と人差し指で触りながらつぶやいた。
彼女は続ける。
「言っとくけど、ディークを捕まえたら、あなた達が勝っちゃうから、協力する気はないわよ」
「あなたの力を借りなくても、私たちだけで余裕ですううう」
マリアがなぜか敵対心むき出しにしている。
「でもよハル、カレンちゃんに協力してもらった方が確実なんじゃないのか?」
「何言ってんのアゲパン! それじゃ勝てないじゃん!」
なぜかかなり勝敗に拘っている女子達。
正直なところ、ディークを捕まえるにはカレンの力を借りることは必須だ。
カレンのユニークスキル(固有スキル)を使わなくては、ディークを見つけられない。
ただ、素直に協力を仰いでも、力を貸してくれなさそうだ。
コネクターで許可なくコネクトすることは、不正なのかもしれないと思わなくはない。
たが、それでは今までコネクトしまくった生徒にも、許可を取ってないから失格ということになってしまう。
自己弁護するとすれば、他の個人の能力、たとえば、人を操ったり、心変わりさせるような能力、そういう類いも不正だとするなら、すべて力技の100m走みたいになってしまって、こういった特殊な試験の意味がなくなる。
そんな基礎体力を測りたいなら、体力測定として走り幅跳びや反復横跳びをすればいいだけだ。
よって、カレンのスキルを気付かれることなく利用するのも、作戦の一部ということになる。
「じゃあ、こうしようか、ディークを見つけるまでは協力して、実際に捕らえた方へポイントが入る」
「なによ、偉そうに。却下よ」
却下されたぞオイ。
「偉そうなのはあなたでしょ! ハルが見つけてくれるって言ってるじゃん!」
マリアがキレる。
カレンは見下すような顔でマリアを見る。どこか意地悪そうな、余裕のある表情だ。
「へー、あなたずいぶん彼に入れ込んでるわね。好きなの?」
マリアが不意打ちを食らったかのように赤面した。
「ば、ばば、バカじゃないの!? そんなわけないでしょ! お姉ちゃんの天敵なのよ! そんなことになったら、お姉ちゃんが許さないわよ!」
そんなことってどんなことだろう。
「お姉ちゃんが許せば良いってわけ?」
カレン、良い質問だ。
「そんなわけないでしょ! お姉ちゃんが許さないわよ!!」
話が噛み合ってないぞマリア。質問聞いてた??
アゲパンが耐えられずに横から入る。
「ちょっとストップ。早くしないと、試験が終わるまでもう半刻くらいしかない。もう水の刻に入ってるんだ。どっちにせよ、このままじゃディークを見つける前にタイムオーバーだ」
たしかにそうだ。アゲパンがまともなことを言っている。
「ふんっ」
そっぽを向くマリア。マリアが感情を出していると、ギャップでいつもの3割増しで可愛く見える。
「とりあえず、私は協力しないわ。自分たちで頑張ってね」
カレンがそのまま森へ消えていく。
さて、ここでコネクトを強化だ。
カレンの『見破る(仮名)』能力。ここに深くコネクターを刺す。イメージとしては、糸を太くするということだ。
個人の能力に対して深くコネクトするためには、より厚い意識の共有が必要だ。
共有に比例して、飛距離も短くなる上にスタミナの消費も大きい。
10人同時コネクトを基準と考えると、5人分の糸を1人に絡めるということになる。
そして、残りの5人分に関してだが。
「で、ハル! どうやって見つけんだ? ディーク。俺の力も必要だろ」
「あぁ、アゲパンは、木に登って、周辺を見渡してみてくれ。何か分かるかもしれない」
アゲパンにもコネクターを刺す。上からの視点は役に立つ。
「私は何をすればいい? ハル!」
マリアもやる気満々だ。どうしてもらおう。じゃあ、一回、試してみるか。
「マリア、弓は持ってるか?」
「あるよ。一応、私の唯一の武器だから」
「よし、ちょっと、矢を借りていいか?」
「良いけど、どうするの?」
「いいからいいから」
矢を三つ地面に並べる。
「コネクター」
矢にコネクトを試みる。無機物に対して有効なのかどうかは試したことはない。これが有効なら、かなり融通が利くのだが。
「よし、その矢をそこにある木の幹に飛ばしてみてくれ」
「分かったわ。こう?」
マリアは弓矢を打つ。
コネクト先と情報を共有する。だが、何も映らない。やはり、無機物、もしくは意識のないモノに対しては効力は発揮しないようだ。予想はできていたが、実際にできないと分かることも一つ収穫だ。
「ダメか」
「なにが?」
マリアは無邪気な表情で俺を見る。マリアは本当に綺麗な顔をしている。悠といい勝負だ。
「いや、ちょっと試したいことがあってさ。まぁ、予想通りだったよ」
「ふーん、あ! ウサギ!」
矢を打った衝撃に驚いて、ウサギが顔を出した。この世界にもウサギはいるのか。しかも、ちゃんとウサギという認識のようだ。
そう言えば、一部を除いて、この世界も前世の世界も共通項が多い。
ここは確かに異世界ではあるが、どこかで共有されている情報があるのかもしれない。
考えてみれば、ケットシーは、異世界は時の狭間で繋がっていると言っていた。
それは裏を返せば、この世界も前世の世界も、共通の軸に存在しているということだ。
この世界が、どうやって生み出されたのか。そこを探る必要もありそうだ。
「コネクター」
ウサギにコネクトする。
そのまま林の中へ逃げていったが、ウサギは意識を持つ動物だ。人間ほど共有できる情報は多くはないが、地形や、人が通れないような場所もマッピングすることができる。
ついでに、他の動物がいないかどうか探してみる。
見つけた。リスだ。だが、リスは行動範囲が少ない。一応コネクトしても良いが。ううむ。
そうだ。良いことを思いついた。
「マリア!」
「なに?」
「リスを矢に括り付けて、遠くへ飛ばしてくれないか?」
マリアは衝撃的に驚いた顔をした。
「え!!? そんなひどいことできるわけないでしょっ!! ハル! 見損なったわ! 最低!」
「ご、ごめん、冗談だよ」
「言っていい冗談と、悪い冗談があるわ」
失敗だ。
勝手にリス付きの矢を飛ばすべきだっただろうか? いや、これは確かに人道的ではないのかもしれない。
でも動物の肉を鍋にして食うのは良くて、リスを矢に括り付けて飛ばすのはダメなんだな。
遊びでやりたいわけではないのだが、リスは可愛いからできないのか。可愛いは正義だなほんと。
一応コネクトしておく。
そういえば、マリアにコネクターを飛ばすのを忘れていた。
振り返るが、いつの間にかマリアはいなかった。なんだろう、用でも足しに行ったのか。
アゲパンのコネクト情報を確認してみる。
結構高くまで登っているようだ。
会話ができれば指示も可能だが、そういうテレパシーみたいなスキルはないから、仕方ない。
おそらく意識だけで会話するみたいな、そういう魔法もあるとは思うのだが、こればっかりは詳しい人に聞くか、何か資料が必要だ。
カレンか、ディークならかなり詳しく知っていそうではあるが、この二人は教えてくれなさそうなんだよな。
もしこの島から出ることができたら、まずは図書館を探す必要がある。
ケットシーの言っていた『辞書』ってやつも、図書館の司書に聞けば何か分かるかもしれない。
知識のありそうな人間ほど頑固になるってのは、どの世界の人間も共通ってか?
俺もコネクターについて誰にも話したくないし、そこは仕方ないものなんかね。
おっと、大事な目的を忘れていた。
このコネクターによる『捜索』に対して、カレンの『見破る』能力が非常に役に立つ。
なんといっても術罠を発見するほどの優れた『感知』能力だ。
擬態を見分けられるということは、ディークを探すことも可能になるはずだ。
ここからはコネクターの応用編だ。
まず、コネクターによってマッピングし、全体の地図をおおよそ作り上げる。
ここは犠牲になった生徒たちのおかげで何とかなった。
そこで次に、実際の視点、今まさにコネクトしている、カレン、アゲパン、ウサギ、リスの視点からリアルタイムで探る。
ここまではただの捜索だが、そこに、カレンのスキルを共有する。
しかし、カレンのユニークスキルは、カレンにしか扱えない。
では、どうするか?
まず、カレンのコネクトを強化する。
強化されると、俺の視点とカレンの視点が強く共有される。
つまり、俺の視点、イコールアゲパン、ウサギ、リスの視点だ。これらの視点をカレンの視点にプラスするという技だ。
そのために5人分の糸をカレンに絡めている。
カレンのスキルを他のアゲパン達には共有できないので、カレン自身にアゲパンたちの視点部分だけ共有させたわけだ。
面倒だが、こうしなくては、他人のユニークスキルを俺の視点で利用することはできないのだ。
だがこれによって、『見破る』を、かなり広範囲の視点で行うことができる。
あとは、地道に探るしかない。
ちなみに、この作業はかなりスタミナを消費する。
なぜなら、俺一人で、4人分の視点を切り替えながら同時に見ているからだ。
モニターが増えれば、電力の消費も激しいってわけだ。
それにしても、なかなか見当たらない。けっこうな広範囲で探しているが、やはりウサギやリスでは大した視点にはならないというわけか。
時間も残り少ない。水の刻が終わるまで、20分というところだろう。水の刻が終わる前に訓練は終了するから、実質あと10分くらいだ。
諦めるしかないか。
と、思った瞬間、リスの視点で、草に擬態している人型の存在を視認した。
いた!
よし! これは、間違いなくディークだ!
「マリア! 見つけたぞ! 訓練校の入口近くだ! あのリス飛ばさなくて正解だったな!」
マリアが戻ってると思っていたが、いなかった。
勝手に移動してもいいのか少し気になるが、校内だし、そこまで気にすることはないか。
俺は、リスの居場所まで走っていく。
それにしても、ディークを見つけたとして、それで捕捉といっていいのか疑問ではあった。
とりあえず、近くまで行って、様子を見てからアゲパンと合流した方が良いかもしれない。
見つけるところまではできたとしても、ディークを捕捉するのは至難の業だろう。
そもそも俺はマッピングのスキル以外に戦闘スキルは何もない。
ディークに敵うはずがない。
カレンだったら、そこそこ戦えるのかもしれないが、俺とか、もはや米粒みたいなもんだろう。
捕捉するために戦闘が必要なのだとしたら、すでに詰んでいる。
俺は走るのをやめ、慎重に歩くことにした。
カレンを呼ぶべきだったか。
たしかに、カレンがいてはポイントにはならないが、せっかく見つけたのに捕捉までいかないのであれば、不完全燃焼というやつだ。
コネクターについてはかなり熟知することができたとはいえ、試験もクリアしておきたいものだ。
実際のところ、ディーク捕捉以外の課題を達成しているのだから、もはやクリアしていると言っても過言ではないのだが、できるなら、ストーリークリアだけでなく、裏ボスも倒しておきたいというものだ。
ゆっくり歩いていくが、急にリスの視点が切れた。
表示していたサブの視界が、ウサギの視点になる。もしかして、リスが殺されたのか?
ディークにバレたのか?
いやいや、仮にそうだとしても、リスを殺したりしないだろう。可愛いは正義だぞ?
しかし、何か違和感が拭い切れない。
もしかして、ディーク以外にも教官が隠れていたのか?
その可能性は充分にある。ディークの授業とはいえ、大規模な試験をするのであれば、教官の数は複数必要だろう。
とは言っても、わざわざ完全な擬態をして隠れる必要があるのか?
加点対象となるディークが隠れるのは当然だが、審判はむしろ分かりやすく見えていた方が良いだろう。
生徒からの質問や、具合が悪くなったりした時に対処も早くなる。
考えすぎか?
偶然、リスが他の動物に襲われたとも考えられる。
しかしこんなあっさり視界が消えるものか?
そんなことを考えているうちに、現場に着いた。一応林に隠れながら辺りを見渡してみる。
間違いない、コネクトしていたリスが転がっている。
俺はリスの方を向いて両手を合わせた。
カレンとコネクトしているので、俺も『見破る』スキルは使える。
だが、すでに擬態は解いているようだ。
木の幹の後ろに人がいることは明確だった。
どうせディーク教官を見つけたところで、戦って勝てる相手ではないのだ。
とりあえず、声を掛けて、ディークと交渉してみるか。
「ディーク教官、生徒番号67番、ハルです。そこにいらっしゃいますね?」
すると、幹からゆっくり現れたのは、ディークではなく、背中くらいまであるパサついた黒い髪の少女だった。
俺は面食らって呆然とした。いくらなんでも予想外過ぎる。
「きみ、だれ?」
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