極道恋事情 another one

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
69 / 69
書き初め

しおりを挟む
 その後、初詣で訪れた神社で参拝の順番待ちの列に並びながら、
「おい、カネ。せいぜい週一くれえで辛抱するこった」
 ジォウに囁かれて鐘崎かねさきはまたまたムスーッと鼻息を荒げてみせた。
「いや――これだけはどうあっても譲らねえ」
 プルプルと震える手にした絵馬にしたためられた願掛けは――。

参壱さんいち……!?」

 またも堂々たる男気溢れる文字が絵馬の背面を彩っていることに紫月しづきひょうは口をパクパクとさせて蒼白顔。ジォウだけは堪えきれない笑いに、ここ境内でも腹を抱えさせられる始末となった。
「カネ、おめえってほんっとチャレンジャーな? あー、腹捩れる!」
「どうとでも言え。男の沽券こけんにかけて譲れねえことってのはあるもんだ」
 フンッ! と腕組みながら自らのしたためた絵馬を見つめる男前の彼を、道行く人々も小首を傾げて通り過ぎる。その数歩後ろでは「あちゃー」と頭を抱えてうなだれている紫月しづきを、ひょうが「まあまあ」と苦笑ながらなだめている。
「ま、まあな……。参壱さんいちくれえなら……たまにゃ素股で抜かせりゃナントカなるべ」
 はぁああ――と呆れ顔で肩を落とし、ボソリとそんな台詞を漏らした紫月しづきの傍らで、ひょうはまたまた不思議顔。

「スマタ……ってナンですか?」

 生粋の純朴たる男は新年の境内に似つかわしくない卑猥な台詞も堂々と口走る。それを耳にしたジォウ鐘崎かねさきが、今度は慌てて蒼白とさせられることとなった。

(おいこら、ひょう! ンなことをデケえ声で言うんじゃねえ……)

 キョロキョロと周りを気に掛けながらも焦り顔でいるジォウとは裏腹に、鐘崎かねさきの方は――、
「ふむ、まあ……この際ソレでも良しとするか」
 などと大真面目な調子で『ウンウン』とうなずいている。

 とにもかくにも、くだらなくも愛のあふれる――? 新年の幕開けであった。

書き初め - FIN -
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

どいつもこいつもサイドストーリー【短編集】

pino
BL
どいつもこいつもシリーズの、本編では書ききれなかったサイドストーリー達をこちらで書いてます。 こちらだけでも楽しめると思いますが、より楽しみたい方は本編を先にお読みください。 話により時期や時間が本編とはズレているので、キャラクターの心境などの変化前の話の時がありますのでご注意下さい。 貴哉だけでなく、いろんな人物の視点で書かれてます。 表紙は鉄仮面こと戸塚春樹です!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...