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書き初め
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翌日、汐留の周邸では新年の顔見せに訪れた鐘崎と紫月から元旦の書き初めの様子を聞いた周焔が、腹を抱えて大笑いをさせられることとなった。
「おめえら、新年早々笑かすんじゃねえって! ″毎日″に″拾壱″って……」
ああ、腹が痛いと言わんばかりに笑い転げている。傍では冰が昨日の若い衆らと同様、その意味するところが分からなくてポカンと目を丸めている。そんな冰に周が本当の意味を耳打ちしては、答えを明かしたのだった。
「つまりだな、カネは″毎日″やりてえ。一之宮は″十日にいっぺん″くれえで勘弁してくれって意味だ」
「……毎日やりたい? んと、……何を?」
ここまで聞いても冰には響かないようだ。
ところが三人の顔つきを窺う内に、何となく意味が分かってきたのか、みるみると頬を染め始めた。亭主の周は相変わらずに笑いが止まらないようだし、鐘崎は拗ねた子供のように口をへの字にして隣の嫁さんをジトーっと見つめている。その紫月は少々頬染めながらも額に十文字の青筋を立てるようなコミカルな顔つき――と、くれば、夜の睦のことかと鈍い冰でも思い当たるというものだ。
「ああ……そ、そういう意味なんですね……。鐘崎さんは毎日……。紫月さんは……あー分かりますー。そのくらいが体力的にもちょうど有り難いっていう意味ですよね」
顔を真っ赤にしながらしどろもどろで視線を泳がせている。相変わらずに純粋なことだ。
「でも……毎日ってすごいですね」
大真面目な冰のひと言でスイッチが入ったのか、周がひと言――。
「俺だっておめえ――毎日でも構わねえがな」
さらりと恐ろしいことを口にする。その表情はニヤっと意味ありげで、しかも流し目が酷く色っぽい。もちろん半分は冰に対する揶揄いなのだが、真面目な彼は言葉通りに受け取ってしまったようだ。
「え……あの、白龍……? こ、今年は……ま、毎日……するの?」
頬を真っ赤に染めながらモジモジと上目遣いで可愛いことを言う。半ば嬉しいような困ったような、何とも言えない表情が堪らない。生真面目気質の冰にとってはそれこそ大真面目で出た台詞だが、周や鐘崎のような酸いも甘いもある程度知り尽くしたような強者の男にとっては、その純朴さ加減が逆に心に刺さったわけだろう。つられたように頬に淡い朱を浮かべた周に、鐘崎と紫月もみるみる茹蛸と化していく。四人で顔を突き合わせながらモジモジと照れ合う、そんな初々しい正月だった。
「あっはっは……参ったなぁ……冰君には形無しだべ」
紫月が『ホントに可愛いなぁ』と頭を掻く傍らで、鐘崎はここぞとばかり都合のいい解釈に持っていこうと鼻息を荒げてよこす。
「な、な、紫月。こいつらも″毎日″で合致したようだし、俺らも――」
と言い掛けた瞬間に、ドカッと肘鉄を食らってションボリ。
「やっぱ拾壱かよ……。な、せいぜい週一……ってか三日にいっぺんくれえは――」
未だ回数にかじりついている猛獣亭主を蚊帳の外にするべく、
「んじゃそろそろお詣り行くべか!」
すっくとソファを立ち上がった紫月に、「そうですね!」と冰も満面の笑みを見せる。すっかり気持ちは初詣へと移行している嫁たちに、旦那二人もやれやれと苦笑ながらも立ち上がった。
「おめえら、新年早々笑かすんじゃねえって! ″毎日″に″拾壱″って……」
ああ、腹が痛いと言わんばかりに笑い転げている。傍では冰が昨日の若い衆らと同様、その意味するところが分からなくてポカンと目を丸めている。そんな冰に周が本当の意味を耳打ちしては、答えを明かしたのだった。
「つまりだな、カネは″毎日″やりてえ。一之宮は″十日にいっぺん″くれえで勘弁してくれって意味だ」
「……毎日やりたい? んと、……何を?」
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ところが三人の顔つきを窺う内に、何となく意味が分かってきたのか、みるみると頬を染め始めた。亭主の周は相変わらずに笑いが止まらないようだし、鐘崎は拗ねた子供のように口をへの字にして隣の嫁さんをジトーっと見つめている。その紫月は少々頬染めながらも額に十文字の青筋を立てるようなコミカルな顔つき――と、くれば、夜の睦のことかと鈍い冰でも思い当たるというものだ。
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顔を真っ赤にしながらしどろもどろで視線を泳がせている。相変わらずに純粋なことだ。
「でも……毎日ってすごいですね」
大真面目な冰のひと言でスイッチが入ったのか、周がひと言――。
「俺だっておめえ――毎日でも構わねえがな」
さらりと恐ろしいことを口にする。その表情はニヤっと意味ありげで、しかも流し目が酷く色っぽい。もちろん半分は冰に対する揶揄いなのだが、真面目な彼は言葉通りに受け取ってしまったようだ。
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頬を真っ赤に染めながらモジモジと上目遣いで可愛いことを言う。半ば嬉しいような困ったような、何とも言えない表情が堪らない。生真面目気質の冰にとってはそれこそ大真面目で出た台詞だが、周や鐘崎のような酸いも甘いもある程度知り尽くしたような強者の男にとっては、その純朴さ加減が逆に心に刺さったわけだろう。つられたように頬に淡い朱を浮かべた周に、鐘崎と紫月もみるみる茹蛸と化していく。四人で顔を突き合わせながらモジモジと照れ合う、そんな初々しい正月だった。
「あっはっは……参ったなぁ……冰君には形無しだべ」
紫月が『ホントに可愛いなぁ』と頭を掻く傍らで、鐘崎はここぞとばかり都合のいい解釈に持っていこうと鼻息を荒げてよこす。
「な、な、紫月。こいつらも″毎日″で合致したようだし、俺らも――」
と言い掛けた瞬間に、ドカッと肘鉄を食らってションボリ。
「やっぱ拾壱かよ……。な、せいぜい週一……ってか三日にいっぺんくれえは――」
未だ回数にかじりついている猛獣亭主を蚊帳の外にするべく、
「んじゃそろそろお詣り行くべか!」
すっくとソファを立ち上がった紫月に、「そうですね!」と冰も満面の笑みを見せる。すっかり気持ちは初詣へと移行している嫁たちに、旦那二人もやれやれと苦笑ながらも立ち上がった。
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