57 / 66
マフィアの花嫁
32
しおりを挟む
もうすぐ夜が明ける――。
一晩中、嬲るという言葉がそのままの如く激しく止めどなく抱かれ続けて、冰は無我の境地でぼんやりと空を見つめていた。
「辛いか――?」
激しかった一夜のことが夢か幻かというほどにやさしく穏やかな声が耳をくすぐる。そっと髪を撫でて梳く指先の感触に隣を見やれば、心配そうな瞳がぼんやりと視界に映る。
「白……龍」
「乱暴にし過ぎてしまったな」
すまなかった――。
身体は辛くないか、そう言いたげに苦しげな瞳がじっと見つめてくる。
「ううん、平気。俺……うれし……かった」
こんな俺――あんなことを言った俺を詰ることもなく、ましてやこんなに荒れ狂うと言えるほどに愛してくれた。
どんなに嬉しくて有り難くて幸せだったことか。
「ごめんね、白龍。ありがとう。俺……」
「俺の方だ。謝るのは――」
俺の方だ。
言葉は要らない。俺たちはこんなにも互いを必要とし、そのどちらかが欠ければ形を成さないほどに愛し合っている。共にいてこその己なのだということを――これからもずっと忘れずに、生きていこう。
「冰、少しそのままで待っていろ」
「白龍……?」
「湯とタオルを取ってくる。身体を拭いてやるから少し休もう」
「え……? あの……」
「風呂に入るのは辛かろう」
周は額に小さな口づけをくれると、バスルームへと向かった。
雄々しい背中には見慣れた見事なほどのうねる白龍――。ぼんやりと見つめながら、初めてそれを見た日のことが脳裏に蘇る。
「白……龍」
桶に湯を汲み、タオルを手にした彼が戻ってきては丁寧に身体を拭いてくれた。腹や背中に手脚などはもちろんのこと、足の裏や指先の間までをも丁寧に丁寧に拭ってくれる。温かいタオルが肌を清めていく感覚が心地好い。
「白龍……ありが……とう」
拭かれていくそばから眠りに落ちていく。
それは深くて穏やかで、心地の好い瞬間だった。
マフィアの伴侶――。
お前はこの俺の、周焔の伴侶だ。
眠りに落ちていく中でその声が幾度も幾度も繰り返してはこだまする。
そう――俺はあなたの――伴侶。
例え何があっても、ぶれることなくあなたの伴侶でいたい。
強くありたい。
いつまでもいつまでもあなたの隣にいて恥ずかしくないような自分になりたい。
無意識の中にもうっすらと滲み出た涙が頬を伝う。
その真珠のような雫にそっと口づけて、周は愛しき唯一人の人を見つめた。
(冰――。俺の方こそ過去のとばっちりでお前を気の毒な目に遭わせてしまったんだぞ。それなのに――お前は見事に敵を寝返らせたその話術と功績を悔いては、こんなにも心を痛めて――こうして涙まで流してくれる。謝るのは俺の方だというのにお前は……こんなにも純粋で、清らか過ぎるほどの気持ちを向けてくれる)
すまない。何度謝っても足りない。
こんな俺の側に居続けてくれようとするその気持ちを――俺は絶対に忘れない。
愛しいなどという言葉では到底言い表せないほどに、ギュッと心が鷲掴まれたように震える。安らかな寝顔を見つめながら、周もまた、込み上げた熱い雫をそっと拭ったのだった。
一晩中、嬲るという言葉がそのままの如く激しく止めどなく抱かれ続けて、冰は無我の境地でぼんやりと空を見つめていた。
「辛いか――?」
激しかった一夜のことが夢か幻かというほどにやさしく穏やかな声が耳をくすぐる。そっと髪を撫でて梳く指先の感触に隣を見やれば、心配そうな瞳がぼんやりと視界に映る。
「白……龍」
「乱暴にし過ぎてしまったな」
すまなかった――。
身体は辛くないか、そう言いたげに苦しげな瞳がじっと見つめてくる。
「ううん、平気。俺……うれし……かった」
こんな俺――あんなことを言った俺を詰ることもなく、ましてやこんなに荒れ狂うと言えるほどに愛してくれた。
どんなに嬉しくて有り難くて幸せだったことか。
「ごめんね、白龍。ありがとう。俺……」
「俺の方だ。謝るのは――」
俺の方だ。
言葉は要らない。俺たちはこんなにも互いを必要とし、そのどちらかが欠ければ形を成さないほどに愛し合っている。共にいてこその己なのだということを――これからもずっと忘れずに、生きていこう。
「冰、少しそのままで待っていろ」
「白龍……?」
「湯とタオルを取ってくる。身体を拭いてやるから少し休もう」
「え……? あの……」
「風呂に入るのは辛かろう」
周は額に小さな口づけをくれると、バスルームへと向かった。
雄々しい背中には見慣れた見事なほどのうねる白龍――。ぼんやりと見つめながら、初めてそれを見た日のことが脳裏に蘇る。
「白……龍」
桶に湯を汲み、タオルを手にした彼が戻ってきては丁寧に身体を拭いてくれた。腹や背中に手脚などはもちろんのこと、足の裏や指先の間までをも丁寧に丁寧に拭ってくれる。温かいタオルが肌を清めていく感覚が心地好い。
「白龍……ありが……とう」
拭かれていくそばから眠りに落ちていく。
それは深くて穏やかで、心地の好い瞬間だった。
マフィアの伴侶――。
お前はこの俺の、周焔の伴侶だ。
眠りに落ちていく中でその声が幾度も幾度も繰り返してはこだまする。
そう――俺はあなたの――伴侶。
例え何があっても、ぶれることなくあなたの伴侶でいたい。
強くありたい。
いつまでもいつまでもあなたの隣にいて恥ずかしくないような自分になりたい。
無意識の中にもうっすらと滲み出た涙が頬を伝う。
その真珠のような雫にそっと口づけて、周は愛しき唯一人の人を見つめた。
(冰――。俺の方こそ過去のとばっちりでお前を気の毒な目に遭わせてしまったんだぞ。それなのに――お前は見事に敵を寝返らせたその話術と功績を悔いては、こんなにも心を痛めて――こうして涙まで流してくれる。謝るのは俺の方だというのにお前は……こんなにも純粋で、清らか過ぎるほどの気持ちを向けてくれる)
すまない。何度謝っても足りない。
こんな俺の側に居続けてくれようとするその気持ちを――俺は絶対に忘れない。
愛しいなどという言葉では到底言い表せないほどに、ギュッと心が鷲掴まれたように震える。安らかな寝顔を見つめながら、周もまた、込み上げた熱い雫をそっと拭ったのだった。
12
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
後輩の甘い支配
ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)
「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」
退職する直前に爪痕を残していった後輩に、再会後甘く支配される…
商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。
そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。
その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げる。
2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず…
後半甘々です。
すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる