48 / 66
マフィアの花嫁
23
しおりを挟む
「皆! 先生のベッドを支えるんだ!」
誰が何を指示せずとも鐘崎組の若い衆らがすぐに飛んできて鄧を手伝い、皆でエアベッドを支える。
「すみません、皆さん! 助かります!」
鄧もまた瞬時にびしょ濡れになりながら必死でベッドを膨らませる。
屋上では春日野ら組員たちが協力して、少しずつロープを下へ下へと降ろしていく――。その脇では冰を吊っていたロープが風に舞って右往左往と揺れている。それが宙吊りの三人を直撃しては邪魔をするが、鐘崎がしっかりと抱き抱えてくれている為、冰は無事のようだ。三人が下へ到着するまでの時間が千秋にも思えていた。
まずは紫月がエアベッドへと到達し、ホッと胸を撫で下ろす。鐘崎らは未だ地上から大分高い位置で揺られている。叩きつける雨風によって冰を抱えている鐘崎の腕の感覚も限界に近そうだ。既に気を失い掛けている冰の腕は鐘崎にしがみついている力もないわけか、命綱は鐘崎の腕力のみにかかっている。重さ云々以前に雨で濡れた手から今にも冰が滑り落ちそうになっているので、鐘崎は必死で踏ん張っている様子だ。
「カネ! 冰を放せ! 俺が下で受け止める!」
周が両腕を広げてそう叫ぶ。
確かに雨に濡れて滑る身体を抱えているのは限界に近かった。鐘崎はもう二メートルほど降下したところで周に委ねることを決意した。
「冰、下で氷川が受け止める! 飛び降りられるか!?」
「……は……」
既に意識が遠のいているのか、呼び掛けるも目は虚だ。
「氷川! 冰の意識が限界だッ! このまま一、二の三で手を離すぞ!」
「分かった! 必ず受け止める!」
「よし、じゃあカウントだ! 合図と同時に冰を放す! 頼んだぞ!」
一、二の――三ッ!
冰が亭主に向かって落下する。
下では大きく両腕を広げた周が待つ――。
ドサッという音と共に二人がエアベッドへと倒れ込むと同時に鄧浩らが駆け登ると、そこにはしっかりと冰を受け止めた周を確認して誰もが胸を撫で下ろした。
「白……龍、ごめ……なさ」
冰はそのまま気を失ってしまったものの、大きな外傷などは見当たらないようだ。氷のように冷えた体温を温めるべく、すぐさま担架で医療車へと運ばれていった。
鐘崎もまた無事に降下してきて一件落着。男たちが命を賭けたギリギリの救出劇は見事に収束することができたのだった。
「カネ! 一之宮! すまなかった! 礼の言葉も無え……」
周は運ばれていく冰を見やりながら深々と頭を下げた。
「なんの! とにかく無事で良かった!」
「それよかおめえも冰君に付き添ってやれって!」
安堵の笑顔を見せながら更なる気遣いの言葉をくれる二人に、胸がいっぱいになって涙が滲むのを必死に堪える周だった。
「おめえらこそびしょ濡れだ! 車はこっちで運ぶからすぐに医療車へ行ってくれ!」
ロープによって締め付けられた内傷なども確かめねばならない。鐘崎らの乗って来た車を李に託して、周は二人に医療車で問診を受けてくれるよう案内したのだった。
誰が何を指示せずとも鐘崎組の若い衆らがすぐに飛んできて鄧を手伝い、皆でエアベッドを支える。
「すみません、皆さん! 助かります!」
鄧もまた瞬時にびしょ濡れになりながら必死でベッドを膨らませる。
屋上では春日野ら組員たちが協力して、少しずつロープを下へ下へと降ろしていく――。その脇では冰を吊っていたロープが風に舞って右往左往と揺れている。それが宙吊りの三人を直撃しては邪魔をするが、鐘崎がしっかりと抱き抱えてくれている為、冰は無事のようだ。三人が下へ到着するまでの時間が千秋にも思えていた。
まずは紫月がエアベッドへと到達し、ホッと胸を撫で下ろす。鐘崎らは未だ地上から大分高い位置で揺られている。叩きつける雨風によって冰を抱えている鐘崎の腕の感覚も限界に近そうだ。既に気を失い掛けている冰の腕は鐘崎にしがみついている力もないわけか、命綱は鐘崎の腕力のみにかかっている。重さ云々以前に雨で濡れた手から今にも冰が滑り落ちそうになっているので、鐘崎は必死で踏ん張っている様子だ。
「カネ! 冰を放せ! 俺が下で受け止める!」
周が両腕を広げてそう叫ぶ。
確かに雨に濡れて滑る身体を抱えているのは限界に近かった。鐘崎はもう二メートルほど降下したところで周に委ねることを決意した。
「冰、下で氷川が受け止める! 飛び降りられるか!?」
「……は……」
既に意識が遠のいているのか、呼び掛けるも目は虚だ。
「氷川! 冰の意識が限界だッ! このまま一、二の三で手を離すぞ!」
「分かった! 必ず受け止める!」
「よし、じゃあカウントだ! 合図と同時に冰を放す! 頼んだぞ!」
一、二の――三ッ!
冰が亭主に向かって落下する。
下では大きく両腕を広げた周が待つ――。
ドサッという音と共に二人がエアベッドへと倒れ込むと同時に鄧浩らが駆け登ると、そこにはしっかりと冰を受け止めた周を確認して誰もが胸を撫で下ろした。
「白……龍、ごめ……なさ」
冰はそのまま気を失ってしまったものの、大きな外傷などは見当たらないようだ。氷のように冷えた体温を温めるべく、すぐさま担架で医療車へと運ばれていった。
鐘崎もまた無事に降下してきて一件落着。男たちが命を賭けたギリギリの救出劇は見事に収束することができたのだった。
「カネ! 一之宮! すまなかった! 礼の言葉も無え……」
周は運ばれていく冰を見やりながら深々と頭を下げた。
「なんの! とにかく無事で良かった!」
「それよかおめえも冰君に付き添ってやれって!」
安堵の笑顔を見せながら更なる気遣いの言葉をくれる二人に、胸がいっぱいになって涙が滲むのを必死に堪える周だった。
「おめえらこそびしょ濡れだ! 車はこっちで運ぶからすぐに医療車へ行ってくれ!」
ロープによって締め付けられた内傷なども確かめねばならない。鐘崎らの乗って来た車を李に託して、周は二人に医療車で問診を受けてくれるよう案内したのだった。
23
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる