38 / 66
マフィアの花嫁
13
しおりを挟む
一方、鐘崎らの方では埠頭の倉庫へと踏み入れたところだった。コンテナごと積み上げられる造りになっている倉庫は巨大で、とにかく広い。中は幸いか常夜灯が点いているので真っ暗闇というわけではないが、どこに冰が拘束されているのかは一目見ただけでは見当がつくはずもない。
「相手が何人いるかは分からん。紫月、くれぐれも用心してかかれ」
「分かった」
紫月はいつでも応戦が可能なようにコートの前を開け、持参してきた日本刀に手をかけて一歩ずつ地面を踏み締め進んだ。
まずは既に自分たちが事態を把握しているということを冰に知らせる為、打ち合わせ通りに普段と真逆の話し方で呼び掛けてみる。
「冰君? いるんだろう? 鐘崎だ。迎えに来たよー」
鐘崎がやさしい声色を使ってゆっくりとした口調で言う。その直後に今度は紫月が少々荒っぽい喋りをしてみせた。
「おい、こら冰! てめえ、また周焔と喧嘩やらかしたそうだな! 意地張ってねえで出てきやがれ!」
――と、 しばしの後、
「はん! 鐘崎さんかよ! 周焔は? なんで本人が来ねえの!?」
倉庫の奥の方から思った通りの返答が返ってきて、二人は視線だけで上手くいったことを確かめ合った。
冰もまた、普段からは似ても似つかない乱暴な物言いで怒鳴ってよこしたのだ。
「周焔は家でキミを心配してるんだよー。いいから出て来ておくれよ。冰君ー?」
「ふん! 誰が出て行くかよ! 周焔の野郎、自分じゃ迎えにも来ねえってか!? しかも来たのは″二人″ってさー! あいつってば、″二人″も迎えによこすなんてマジでバッカじゃねえの!? あんたらも余計な節介焼いてねえでとっとと帰れよ! 俺はぜってえ帰ってなんかやんねえかんな!」
この返答で鐘崎らには冰を拘束している連中の人数が二人だということの見当がついた。冰が言った「二人」というところだけ重複しているし、そこだけが強調された喋り方だったからだ。
「敵は二人だな」
「ああ。冰は相変わらずに頭の回転が早い」
向こうが二人ならば押さえるのはそれほど苦ではない。ただし、冰は当然手脚の自由を奪われているだろうから油断は禁物だ。鐘崎らはもう一度呼び掛けてみることにした。
「冰君、そんなこと言わずに一緒に帰ろう。周焔も心配しているんだよ。キミに悪いことをしたって落ち込んでいてね。それで俺たち二人が迎えにやって来たというわけなんだ」
「そうだぞ、冰! あんま我が侭こいてっと、終いにゃ首に縄つけて引きずって帰るぞ!」
すると再び乱暴な返事が飛んできた。
「うっせー! あんたらもあんたらだ! 周焔なんかの為に上手く使われちゃってさ、こんな大雨の中わざわざ迎えにくるなんてバッカじゃねえの? いいから早く帰れよ! 俺を捕まえようったってそうはいかねえぞ! こっちに来たら舌噛んで死んでやるから!」
つまり側に来るな――という意味である。敵は確実に銃などの危険な武器を手にしていることを示している。ある程度近付いた段階でいきなり仕掛けてくるに違いない。紫月は日本刀に、鐘崎は銃に手をかけながら進んだ。
「相手が何人いるかは分からん。紫月、くれぐれも用心してかかれ」
「分かった」
紫月はいつでも応戦が可能なようにコートの前を開け、持参してきた日本刀に手をかけて一歩ずつ地面を踏み締め進んだ。
まずは既に自分たちが事態を把握しているということを冰に知らせる為、打ち合わせ通りに普段と真逆の話し方で呼び掛けてみる。
「冰君? いるんだろう? 鐘崎だ。迎えに来たよー」
鐘崎がやさしい声色を使ってゆっくりとした口調で言う。その直後に今度は紫月が少々荒っぽい喋りをしてみせた。
「おい、こら冰! てめえ、また周焔と喧嘩やらかしたそうだな! 意地張ってねえで出てきやがれ!」
――と、 しばしの後、
「はん! 鐘崎さんかよ! 周焔は? なんで本人が来ねえの!?」
倉庫の奥の方から思った通りの返答が返ってきて、二人は視線だけで上手くいったことを確かめ合った。
冰もまた、普段からは似ても似つかない乱暴な物言いで怒鳴ってよこしたのだ。
「周焔は家でキミを心配してるんだよー。いいから出て来ておくれよ。冰君ー?」
「ふん! 誰が出て行くかよ! 周焔の野郎、自分じゃ迎えにも来ねえってか!? しかも来たのは″二人″ってさー! あいつってば、″二人″も迎えによこすなんてマジでバッカじゃねえの!? あんたらも余計な節介焼いてねえでとっとと帰れよ! 俺はぜってえ帰ってなんかやんねえかんな!」
この返答で鐘崎らには冰を拘束している連中の人数が二人だということの見当がついた。冰が言った「二人」というところだけ重複しているし、そこだけが強調された喋り方だったからだ。
「敵は二人だな」
「ああ。冰は相変わらずに頭の回転が早い」
向こうが二人ならば押さえるのはそれほど苦ではない。ただし、冰は当然手脚の自由を奪われているだろうから油断は禁物だ。鐘崎らはもう一度呼び掛けてみることにした。
「冰君、そんなこと言わずに一緒に帰ろう。周焔も心配しているんだよ。キミに悪いことをしたって落ち込んでいてね。それで俺たち二人が迎えにやって来たというわけなんだ」
「そうだぞ、冰! あんま我が侭こいてっと、終いにゃ首に縄つけて引きずって帰るぞ!」
すると再び乱暴な返事が飛んできた。
「うっせー! あんたらもあんたらだ! 周焔なんかの為に上手く使われちゃってさ、こんな大雨の中わざわざ迎えにくるなんてバッカじゃねえの? いいから早く帰れよ! 俺を捕まえようったってそうはいかねえぞ! こっちに来たら舌噛んで死んでやるから!」
つまり側に来るな――という意味である。敵は確実に銃などの危険な武器を手にしていることを示している。ある程度近付いた段階でいきなり仕掛けてくるに違いない。紫月は日本刀に、鐘崎は銃に手をかけながら進んだ。
13
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる