極道恋事情 another one

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
38 / 69
マフィアの花嫁

13

しおりを挟む
 一方、鐘崎かねさきらの方では埠頭の倉庫へと踏み入れたところだった。コンテナごと積み上げられる造りになっている倉庫は巨大で、とにかく広い。中は幸いか常夜灯が点いているので真っ暗闇というわけではないが、どこにひょうが拘束されているのかは一目見ただけでは見当がつくはずもない。
「相手が何人いるかは分からん。紫月しづき、くれぐれも用心してかかれ」
「分かった」
 紫月しづきはいつでも応戦が可能なようにコートの前を開け、持参してきた日本刀に手をかけて一歩ずつ地面を踏み締め進んだ。
 まずは既に自分たちが事態を把握しているということをひょうに知らせる為、打ち合わせ通りに普段と真逆の話し方で呼び掛けてみる。
ひょう君? いるんだろう? 鐘崎かねさきだ。迎えに来たよー」
 鐘崎かねさきがやさしい声色を使ってゆっくりとした口調で言う。その直後に今度は紫月しづきが少々荒っぽい喋りをしてみせた。
「おい、こらひょう! てめえ、また周焔ジォウ イェンと喧嘩やらかしたそうだな! 意地張ってねえで出てきやがれ!」
 ――と、 しばしの後、

「はん! 鐘崎かねさきさんかよ! 周焔ジォウ イェンは? なんで本人が来ねえの!?」

 倉庫の奥の方から思った通りの返答が返ってきて、二人は視線だけで上手くいったことを確かめ合った。
 ひょうもまた、普段からは似ても似つかない乱暴な物言いで怒鳴ってよこしたのだ。
周焔ジォウ イェンは家でキミを心配してるんだよー。いいから出て来ておくれよ。ひょう君ー?」
「ふん! 誰が出て行くかよ! 周焔ジォウ イェンの野郎、自分じゃ迎えにも来ねえってか!? しかも来たのは″二人″ってさー! あいつってば、″二人″も迎えによこすなんてマジでバッカじゃねえの!? あんたらも余計な節介焼いてねえでとっとと帰れよ! 俺はぜってえ帰ってなんかやんねえかんな!」
 この返答で鐘崎かねさきらにはひょうを拘束している連中の人数が二人だということの見当がついた。ひょうが言った「二人」というところだけ重複しているし、そこだけが強調された喋り方だったからだ。
「敵は二人だな」
「ああ。ひょうは相変わらずに頭の回転が早い」
 向こうが二人ならば押さえるのはそれほど苦ではない。ただし、ひょうは当然手脚の自由を奪われているだろうから油断は禁物だ。鐘崎かねさきらはもう一度呼び掛けてみることにした。
ひょう君、そんなこと言わずに一緒に帰ろう。周焔ジォウ イェンも心配しているんだよ。キミに悪いことをしたって落ち込んでいてね。それで俺たち二人が迎えにやって来たというわけなんだ」
「そうだぞ、ひょう! あんま我が侭こいてっと、終いにゃ首に縄つけて引きずって帰るぞ!」
 すると再び乱暴な返事が飛んできた。
「うっせー! あんたらもあんたらだ! 周焔ジォウ イェンなんかの為に上手く使われちゃってさ、こんな大雨の中わざわざ迎えにくるなんてバッカじゃねえの? いいから早く帰れよ! 俺を捕まえようったってそうはいかねえぞ! こっちに来たら舌噛んで死んでやるから!」
 つまり側に来るな――という意味である。敵は確実に銃などの危険な武器を手にしていることを示している。ある程度近付いた段階でいきなり仕掛けてくるに違いない。紫月しづきは日本刀に、鐘崎かねさきは銃に手をかけながら進んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...