32 / 66
マフィアの花嫁
7
しおりを挟む
一方、時を遡ってその少し前のことである。商談後の会食と信じて疑わなかった周ら三人は、敵の宿泊先であるホテルのレストランの個室を予約していた。
そもそもなぜ周ほどの精鋭がこれほど簡単に罠に落とされてしまったかというと、理由は彼らを紹介してくれたクライアントにあった。起業当時から長らく付き合いのあるそのクライアントは周らにとって疑う余地のない、信用に足る企業だったからだ。そこからの紹介で、しかも香港の大型ショッピングモールに出店すると聞けば、それが新規の客でも取引相手としては申し分なかったと言える。しかも彼らの滞在先はプライベートでもしょっちゅう利用している近隣のホテルだ。紫月お気に入りのケーキを置いているラウンジがある例のホテルである。
顔馴染みの黒服に案内されて個室に入ったまでは順調だった。ところが、席についた途端に事態が一変したのだ。
まず、腰掛けた椅子から絶対に立ち上がるなと言われ、銃を突き付けられた。彼らの言うには周らの座席の下には爆弾が括り付けてあって、立ち上がると同時に起爆スイッチを押すと脅されたのだ。
加えて数分後には冰を拉致した旨を聞かされ、ご丁寧にも拘束されている冰の動画までをも見せられた。しかもあろうことか冰の腕にもスイッチひとつで爆発する爆弾がセットされてしまったことも聞かされる羽目となった。三人のスマートフォンは取り上げられて電源を落とされ、そこで初めて今回の商談とクライアントが真っ赤な偽物だと気付かされたのだ。
敵は非常に用意周到だった。周の社が長年付き合っている企業を仲介役にしたという点ひとつ取っても狡猾としか言いようがない。
その敵の正体だが、しばしの間、周に心当たりは思い浮かばなかった。彼らの言い分を聞く内、徐々に過去の出来事が脳裏に蘇ってきたものの、周からすれば紛れもなく逆恨みといえる出来事だったのだ。
「氷川社長――いや、周焔老板。十六年前、香港中環地区の複合ビル。これだけ言えば思い出すだろう」
「中環の複合ビル――? もしかして庚予か」
庚予というのは裏の世界の同胞で、周の父親とも既知の間柄だった。ファミリー直下で組織を束ねていて、立場的には同じ直下の楚光順などと同等だった男だ。その楚光順と庚予は年齢的にもキャリアに於いても近しかった為、割合懇意にしていて、双方の組織的にも特にこれと言って注視・危惧するほどの動きは無かったと記憶している。
そんな庚予が仲間の裏切りによって命を落とすこととなったのが、十六年前、中環地区に新設されることになっていた複合商業施設の建築現場で起きた事件だった。
当時、利権争いでビル建設に関わった二つの組織が対立。庚予はその内のひとつだった。ビルの完成を目前にして所有権の割合での揉め事が発端となり、ついには互いに相手を亡き者にすべく正面切っての争いに発展。周らファミリーも庚予が揉め事を抱えているらしいということはどこからともなく入ってくる噂で耳にはしていたといえる。
ところがその抗争の真っ只中で庚予についていたはずの同胞が敵方に寝返るという謀反が発生。庚予は信じていた仲間の裏切りによって命を落としてしまったという惨い事件だった。
そもそもなぜ周ほどの精鋭がこれほど簡単に罠に落とされてしまったかというと、理由は彼らを紹介してくれたクライアントにあった。起業当時から長らく付き合いのあるそのクライアントは周らにとって疑う余地のない、信用に足る企業だったからだ。そこからの紹介で、しかも香港の大型ショッピングモールに出店すると聞けば、それが新規の客でも取引相手としては申し分なかったと言える。しかも彼らの滞在先はプライベートでもしょっちゅう利用している近隣のホテルだ。紫月お気に入りのケーキを置いているラウンジがある例のホテルである。
顔馴染みの黒服に案内されて個室に入ったまでは順調だった。ところが、席についた途端に事態が一変したのだ。
まず、腰掛けた椅子から絶対に立ち上がるなと言われ、銃を突き付けられた。彼らの言うには周らの座席の下には爆弾が括り付けてあって、立ち上がると同時に起爆スイッチを押すと脅されたのだ。
加えて数分後には冰を拉致した旨を聞かされ、ご丁寧にも拘束されている冰の動画までをも見せられた。しかもあろうことか冰の腕にもスイッチひとつで爆発する爆弾がセットされてしまったことも聞かされる羽目となった。三人のスマートフォンは取り上げられて電源を落とされ、そこで初めて今回の商談とクライアントが真っ赤な偽物だと気付かされたのだ。
敵は非常に用意周到だった。周の社が長年付き合っている企業を仲介役にしたという点ひとつ取っても狡猾としか言いようがない。
その敵の正体だが、しばしの間、周に心当たりは思い浮かばなかった。彼らの言い分を聞く内、徐々に過去の出来事が脳裏に蘇ってきたものの、周からすれば紛れもなく逆恨みといえる出来事だったのだ。
「氷川社長――いや、周焔老板。十六年前、香港中環地区の複合ビル。これだけ言えば思い出すだろう」
「中環の複合ビル――? もしかして庚予か」
庚予というのは裏の世界の同胞で、周の父親とも既知の間柄だった。ファミリー直下で組織を束ねていて、立場的には同じ直下の楚光順などと同等だった男だ。その楚光順と庚予は年齢的にもキャリアに於いても近しかった為、割合懇意にしていて、双方の組織的にも特にこれと言って注視・危惧するほどの動きは無かったと記憶している。
そんな庚予が仲間の裏切りによって命を落とすこととなったのが、十六年前、中環地区に新設されることになっていた複合商業施設の建築現場で起きた事件だった。
当時、利権争いでビル建設に関わった二つの組織が対立。庚予はその内のひとつだった。ビルの完成を目前にして所有権の割合での揉め事が発端となり、ついには互いに相手を亡き者にすべく正面切っての争いに発展。周らファミリーも庚予が揉め事を抱えているらしいということはどこからともなく入ってくる噂で耳にはしていたといえる。
ところがその抗争の真っ只中で庚予についていたはずの同胞が敵方に寝返るという謀反が発生。庚予は信じていた仲間の裏切りによって命を落としてしまったという惨い事件だった。
11
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる