5 / 66
歪んだ恋情が誘う罠
4
しおりを挟む
強い睡眠剤で鐘崎を眠らせ、服を剥ぎ、自身もまた全裸となって温もりを重ね合う。ただそれだけでいい。
仮に伴侶という男が亭主の帰りが遅いと捜しにやって来れば、尚更に良い。実際に情を交わすことはできなくとも、二人で裸になってベッドを共にする現場を見せつけられれば万々歳だ。伴侶は浮気を疑い、きっと鐘崎を責めることだろう。そして彼らの仲はギクシャクとし、最終的には別れてくれるかも知れない。その時こそ自分が彼を包み込み、新たな恋人となって彼と共にいることが叶うだろう。よしんば別れさせることができなかったとしても、夫婦の間には少なからず溝ができるはずだ。それを想像すれば、戸江田の心は躍るように満たされていくのだった。
◆ ◆ ◆
その日、鐘崎遼二は原石を掘り出している鉱山の視察の為に中国南部を訪れていた。むろんのこと伴侶である一之宮紫月も同道している。他には鉱山を共有している香港マフィアの周焔という男も一緒だった。
彼らは視察を終えると周のファミリーが拠点としている香港に立ち寄ることになっている。戸江田はそこで何とか理由をつけて、打ち合わせを組み込むことに決めた。鉱山からの帰りに掘り出された原石のサンプルを持参してもらい、新しいデザインの参考にしたいという理由はどこから見ても正当性のあるもので、疑われる余地はなかった。
鐘崎と落ち合う場所は香港郊外にある宝飾店社長の別荘を指定した。原石を預かり、今後の展開について少し相談したいと持ち掛けたところ、案の定疑うことなく鐘崎からは快諾の返事がもらえた。発売前のデザイン流出を避ける為、極秘で相談したいと頼んだところ、鐘崎は一人で立ち寄ってくれると言ってくれたのだ。
長い間の夢がようやく叶う時がやってきた。戸江田にとっては忘れられないひと時となるだろう予感に、身も心も躍っていた。
◆ ◆ ◆
香港、中環地区――。
「それじゃちょっくら打ち合わせに行ってくる。すまんが紫月を頼む」
友の周焔に伴侶の紫月を任せて鐘崎は指定された別荘へと向かった。場所は白泥という夕陽が美しいことで知られる観光地から少し山間に入った閑静な森の中だった。周に車を借り、自ら運転してやって来たのだ。打ち合わせには社長とベテラン職人の男も同席すると聞いていたから、何の疑いもなく手土産の菓子折まで持って訪ねたくらいだ。
ところが着いてみると、聞いていた話とはまるで違ったことに驚かされる羽目となった。社長も職人もおらずに、迎えてくれたのは戸江田という社員だけ――。
まあ戸江田とも東京の本社で幾度も顔を合わせていたので、特に疑うとまでは気が回らなかったわけだ。
「すみません、鐘崎様。社長たちは急な用事ができまして、つい今朝方東京の本社へ発ったところなんです。私が留守番を預かりまして……」
もっともらしく申し訳ないと頭を下げた戸江田を、鐘崎は少しも疑うことはしなかった。
「そうでしたか。戸江田さんもお疲れ様です」
それなら持参した原石のサンプルだけ渡して帰ろうと思った矢先だった。せっかく来てくださったのですから――と戸江田に言われて、デザイン画だけでも見せてもらうこととなった。
仮に伴侶という男が亭主の帰りが遅いと捜しにやって来れば、尚更に良い。実際に情を交わすことはできなくとも、二人で裸になってベッドを共にする現場を見せつけられれば万々歳だ。伴侶は浮気を疑い、きっと鐘崎を責めることだろう。そして彼らの仲はギクシャクとし、最終的には別れてくれるかも知れない。その時こそ自分が彼を包み込み、新たな恋人となって彼と共にいることが叶うだろう。よしんば別れさせることができなかったとしても、夫婦の間には少なからず溝ができるはずだ。それを想像すれば、戸江田の心は躍るように満たされていくのだった。
◆ ◆ ◆
その日、鐘崎遼二は原石を掘り出している鉱山の視察の為に中国南部を訪れていた。むろんのこと伴侶である一之宮紫月も同道している。他には鉱山を共有している香港マフィアの周焔という男も一緒だった。
彼らは視察を終えると周のファミリーが拠点としている香港に立ち寄ることになっている。戸江田はそこで何とか理由をつけて、打ち合わせを組み込むことに決めた。鉱山からの帰りに掘り出された原石のサンプルを持参してもらい、新しいデザインの参考にしたいという理由はどこから見ても正当性のあるもので、疑われる余地はなかった。
鐘崎と落ち合う場所は香港郊外にある宝飾店社長の別荘を指定した。原石を預かり、今後の展開について少し相談したいと持ち掛けたところ、案の定疑うことなく鐘崎からは快諾の返事がもらえた。発売前のデザイン流出を避ける為、極秘で相談したいと頼んだところ、鐘崎は一人で立ち寄ってくれると言ってくれたのだ。
長い間の夢がようやく叶う時がやってきた。戸江田にとっては忘れられないひと時となるだろう予感に、身も心も躍っていた。
◆ ◆ ◆
香港、中環地区――。
「それじゃちょっくら打ち合わせに行ってくる。すまんが紫月を頼む」
友の周焔に伴侶の紫月を任せて鐘崎は指定された別荘へと向かった。場所は白泥という夕陽が美しいことで知られる観光地から少し山間に入った閑静な森の中だった。周に車を借り、自ら運転してやって来たのだ。打ち合わせには社長とベテラン職人の男も同席すると聞いていたから、何の疑いもなく手土産の菓子折まで持って訪ねたくらいだ。
ところが着いてみると、聞いていた話とはまるで違ったことに驚かされる羽目となった。社長も職人もおらずに、迎えてくれたのは戸江田という社員だけ――。
まあ戸江田とも東京の本社で幾度も顔を合わせていたので、特に疑うとまでは気が回らなかったわけだ。
「すみません、鐘崎様。社長たちは急な用事ができまして、つい今朝方東京の本社へ発ったところなんです。私が留守番を預かりまして……」
もっともらしく申し訳ないと頭を下げた戸江田を、鐘崎は少しも疑うことはしなかった。
「そうでしたか。戸江田さんもお疲れ様です」
それなら持参した原石のサンプルだけ渡して帰ろうと思った矢先だった。せっかく来てくださったのですから――と戸江田に言われて、デザイン画だけでも見せてもらうこととなった。
21
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる