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歪んだ恋情が誘う罠
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強い睡眠剤で鐘崎を眠らせ、服を剥ぎ、自身もまた全裸となって温もりを重ね合う。ただそれだけでいい。
仮に伴侶という男が亭主の帰りが遅いと捜しにやって来れば、尚更に良い。実際に情を交わすことはできなくとも、二人で裸になってベッドを共にする現場を見せつけられれば万々歳だ。伴侶は浮気を疑い、きっと鐘崎を責めることだろう。そして彼らの仲はギクシャクとし、最終的には別れてくれるかも知れない。その時こそ自分が彼を包み込み、新たな恋人となって彼と共にいることが叶うだろう。よしんば別れさせることができなかったとしても、夫婦の間には少なからず溝ができるはずだ。それを想像すれば、戸江田の心は躍るように満たされていくのだった。
◆ ◆ ◆
その日、鐘崎遼二は原石を掘り出している鉱山の視察の為に中国南部を訪れていた。むろんのこと伴侶である一之宮紫月も同道している。他には鉱山を共有している香港マフィアの周焔という男も一緒だった。
彼らは視察を終えると周のファミリーが拠点としている香港に立ち寄ることになっている。戸江田はそこで何とか理由をつけて、打ち合わせを組み込むことに決めた。鉱山からの帰りに掘り出された原石のサンプルを持参してもらい、新しいデザインの参考にしたいという理由はどこから見ても正当性のあるもので、疑われる余地はなかった。
鐘崎と落ち合う場所は香港郊外にある宝飾店社長の別荘を指定した。原石を預かり、今後の展開について少し相談したいと持ち掛けたところ、案の定疑うことなく鐘崎からは快諾の返事がもらえた。発売前のデザイン流出を避ける為、極秘で相談したいと頼んだところ、鐘崎は一人で立ち寄ってくれると言ってくれたのだ。
長い間の夢がようやく叶う時がやってきた。戸江田にとっては忘れられないひと時となるだろう予感に、身も心も躍っていた。
◆ ◆ ◆
香港、中環地区――。
「それじゃちょっくら打ち合わせに行ってくる。すまんが紫月を頼む」
友の周焔に伴侶の紫月を任せて鐘崎は指定された別荘へと向かった。場所は白泥という夕陽が美しいことで知られる観光地から少し山間に入った閑静な森の中だった。周に車を借り、自ら運転してやって来たのだ。打ち合わせには社長とベテラン職人の男も同席すると聞いていたから、何の疑いもなく手土産の菓子折まで持って訪ねたくらいだ。
ところが着いてみると、聞いていた話とはまるで違ったことに驚かされる羽目となった。社長も職人もおらずに、迎えてくれたのは戸江田という社員だけ――。
まあ戸江田とも東京の本社で幾度も顔を合わせていたので、特に疑うとまでは気が回らなかったわけだ。
「すみません、鐘崎様。社長たちは急な用事ができまして、つい今朝方東京の本社へ発ったところなんです。私が留守番を預かりまして……」
もっともらしく申し訳ないと頭を下げた戸江田を、鐘崎は少しも疑うことはしなかった。
「そうでしたか。戸江田さんもお疲れ様です」
それなら持参した原石のサンプルだけ渡して帰ろうと思った矢先だった。せっかく来てくださったのですから――と戸江田に言われて、デザイン画だけでも見せてもらうこととなった。
仮に伴侶という男が亭主の帰りが遅いと捜しにやって来れば、尚更に良い。実際に情を交わすことはできなくとも、二人で裸になってベッドを共にする現場を見せつけられれば万々歳だ。伴侶は浮気を疑い、きっと鐘崎を責めることだろう。そして彼らの仲はギクシャクとし、最終的には別れてくれるかも知れない。その時こそ自分が彼を包み込み、新たな恋人となって彼と共にいることが叶うだろう。よしんば別れさせることができなかったとしても、夫婦の間には少なからず溝ができるはずだ。それを想像すれば、戸江田の心は躍るように満たされていくのだった。
◆ ◆ ◆
その日、鐘崎遼二は原石を掘り出している鉱山の視察の為に中国南部を訪れていた。むろんのこと伴侶である一之宮紫月も同道している。他には鉱山を共有している香港マフィアの周焔という男も一緒だった。
彼らは視察を終えると周のファミリーが拠点としている香港に立ち寄ることになっている。戸江田はそこで何とか理由をつけて、打ち合わせを組み込むことに決めた。鉱山からの帰りに掘り出された原石のサンプルを持参してもらい、新しいデザインの参考にしたいという理由はどこから見ても正当性のあるもので、疑われる余地はなかった。
鐘崎と落ち合う場所は香港郊外にある宝飾店社長の別荘を指定した。原石を預かり、今後の展開について少し相談したいと持ち掛けたところ、案の定疑うことなく鐘崎からは快諾の返事がもらえた。発売前のデザイン流出を避ける為、極秘で相談したいと頼んだところ、鐘崎は一人で立ち寄ってくれると言ってくれたのだ。
長い間の夢がようやく叶う時がやってきた。戸江田にとっては忘れられないひと時となるだろう予感に、身も心も躍っていた。
◆ ◆ ◆
香港、中環地区――。
「それじゃちょっくら打ち合わせに行ってくる。すまんが紫月を頼む」
友の周焔に伴侶の紫月を任せて鐘崎は指定された別荘へと向かった。場所は白泥という夕陽が美しいことで知られる観光地から少し山間に入った閑静な森の中だった。周に車を借り、自ら運転してやって来たのだ。打ち合わせには社長とベテラン職人の男も同席すると聞いていたから、何の疑いもなく手土産の菓子折まで持って訪ねたくらいだ。
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もっともらしく申し訳ないと頭を下げた戸江田を、鐘崎は少しも疑うことはしなかった。
「そうでしたか。戸江田さんもお疲れ様です」
それなら持参した原石のサンプルだけ渡して帰ろうと思った矢先だった。せっかく来てくださったのですから――と戸江田に言われて、デザイン画だけでも見せてもらうこととなった。
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