極道恋事情 another one

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
4 / 69
歪んだ恋情が誘う罠

しおりを挟む
(クソ……ッ! この僕にだってあの人の恋人になれる資格はあったじゃないか……!)

 想いは募り、次第に常軌を逸していったとて不思議ではなかったかも知れない。
 鐘崎のような男前を虜にする人間とはいったいどんなやつなのだ――と、来る日も来る日もそれだけで頭がいっぱいだった。
 顔立ちは?
 体型は?
 性質は?
 様々想像しては気持ちが掻き乱される日が続いた。次第に仕事の方も疎かになり、上司から苦言を食らうことも増えていく――。もはや興味は鐘崎遼二という唯一人のこと以外考えられなくなり、悶々とする日々を繰り返す。
 男の名は戸江田由宇とこうだ ゆう、鐘崎遼二と年齢的にはほんのわずかに下だが同世代といえる。容姿とて鐘崎ほど飛び抜けてはいないものの、印象としては整っている方だろう。学生時代には女性たちからもそこそこモテたのは事実だ。ゆえに自身とてあの鐘崎と並んでも不似合いとは言えないという自信がある。戸江田の興味は鐘崎の伴侶にまっしぐらとなっていったのだった。

 そんな戸江田にとって鐘崎の伴侶を目にする機会が巡ってきたのは、鐘崎がプライベートで指輪を求めに社を訪れた時のことだった。
 あいにくその時のデザインを担当したのは宝飾店社長の右腕と言われたベテラン職人だったから、戸江田は商談の場に同席することは叶わなかったものの、鐘崎が伴侶と連れ立って挨拶に来たところを垣間見ることはできたのだった。その際の衝撃といったら、ひと言では言い表せないほどだった。その伴侶という男は想像を遥かに超える美形だった――というのもあったが、彼の側で照れたように幸せそうな表情でいる鐘崎の様子の方が衝撃だったのだ。
 社長も右腕と呼ばれたベテラン職人も、皆古くから鐘崎組との付き合いがあり、男性同士で結婚したということにすら奇異の目で見るどころか世間一般の夫婦として心から祝福し、二人の仲を認めているというのがありありと分かるものだった。戸江田にとってもこの美しい伴侶が相手では到底敵わないというのは本能で感じてはいたものの、嫉妬が憎しみに変わるくらいに複雑な感情を叩きつけられたものだ。
 おそらく鐘崎という男はその伴侶を裏切ることはない。例えばどんなに巧妙なハニートラップを仕掛けたとて、出来心での浮気など決してしないだろうとも思えたのだ。

 完敗だった。

 ハニートラップにせよ真心で攻めたにせよ、どうあっても鐘崎を手に入れることはできない。唯一つ可能性があるとすれば、鐘崎の意識を奪った状況でしかこの狂おしいほどの想いを遂げることは叶わない――そういう結論に達したのだ。

 正直に言えば本当は鐘崎に抱いてもらいたい。

 だがそれはどう足掻いても無理な相談だろう。意識のない彼が自分を抱くことなど不可能だからだ。ならばせめて、彼を見つめながら自慰によって抱かれた気分を味わえるだけでも構わない。添い寝をし、温もりに浸れればそれだけで満足だ。
 それからというもの、戸江田は鐘崎と二人きりになれる機会をただひたすらに待つ日が続いた。どうにかして怪しまれずに、打ち合わせと称して会うことはできないかと、そればかりを考えるようになっていった。
 そして今、ようやくとその機会が巡ってきたというわけだった。戸江田にとってこれを逃せば後は無い――まさに千載一遇のチャンスであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

処理中です...