極道恋事情

一園木蓮

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絞り椿となりて永遠に咲く

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「あン時、遼から帰るコールをもらってて助かったな」
 そうでなければ単に仕事で遅くなっているのだろうとしか思わなかっただろうし、窮地に陥っていることすらまったく気付かなかったわけだ。
「これからは毎回帰るコールしてもらうかな」
 というよりも、今現在互いがどこに居て何をしているかが把握できるよう、常にGPSを事務所内の目に付くところに表示させておくくらいのシステムが必要になるかも知れない。
「そうだな――。緊急事態が起きた際のメッセージも今回のように送れないまま気を失うことだってあるやも知れんしな」
 逐一互いを監視し合うようで窮屈と思えるかも知れないが、二人の間では行動を知られて困ることもないし、今回のように個人的な恨み云々はもちろんだが、依頼内容によっては危険を伴う事案も出てこよう。互いの状況を把握し合えている方が安全であるのは確かなのだ。
「紫月――すまねえな。因果な商売の亭主を持っちまって、おめえには苦労を掛ける」
「遼……。そんな! 苦労だなんてとんでもねえって! 俺は、俺はさ……おめえとこうして一緒に居られることが何よりの幸せなんだ。俺ン方こそおめえの手ぇ煩わせねえように、もうちっとしっかりしなきゃって思う」

「紫月――」

「遼……」

 どちらからともなく見つめ合いながら、今目の前に互いがいることの安堵感を噛み締め合う。
「けどホント、今回も氷川や源さんたちのお陰で助けられたよな」
「ああ、そうだな。有り難いことだ」
 仲間たちへの感謝や無事に一件落着した安堵感、それら様々な思いが走馬灯のように巡っては、少しやつれたように肩を落とすその視界に、ふと心揺さぶられる光景が飛び込んできて、紫月はハタと目を見開いた。
「遼……! 見てくれ! あれ……!」
 逸るように縁側から飛び降りて、一直線に向かった先に奇跡のような一輪の花がそよ風を受けて揺れていた。なんとそれは紅椿の枝についた紅白の絞り椿だったのだ。

「うっそ……どうして」

 他の花々は紛れもなく紅一色だ。隣には白椿と桃色の椿の木。それぞれに決まった白と桃色の花をつけている。
 そんな中で紅椿の枝にたった一輪だけ紅白が混じって咲く絞り椿の花が開きかけていたのだ。
「なんで……どうして……?」
 奇跡の如く咲いたその一輪を見つめる紫月の瞳がみるみると潤み出し、まるで朝露のように絞り椿の花びらを濡らした。
 鐘崎もまた、庭に降りて奇跡のその一輪を見つめる。
「絞り椿か――!」
「ん……、うん! これって天変地異か……? 今まで紅以外咲いたことねえのに」
「本当だな。紅椿をここに植えて久しいが、俺も初めて見るぞ……」
 今度庭師の泰造親方が来たら聞いてみようかと二人で口を揃える。ごく稀にでも別の種類の花をつけることがあるのだろうか――。
「もしかしたら――この椿の木が俺たちを守ってくれたのかも知れねえな」
「遼……そうだな。おめえが無事で良かったって、この木も喜んでくれてるのかも」
「奇跡――だな」
「うん、ホントに……!」
 紫月は万感込めてその一輪に触れながら、再び込み上げた涙をグイと掌で拭った。
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