1,191 / 1,212
絞り椿となりて永遠に咲く
23
しおりを挟む
鐘崎遼二に会ったら、あんたは私立探偵だと名乗ること。
依頼人は彼の妻を追いかけ回している男で、鐘崎の素行調査を頼まれたと伝えること。
ただし、依頼人に対して胡散臭く思うところがあった為、調査対象である鐘崎にその事実を伝えに来たと、そう話すだけでいい。
それで報酬の二十万円を支払うという約束だ。
金は最寄駅のコインロッカーに入れておく。ロッカーのすぐ隣にある男子トイレの個室に鍵をガムテープで貼り付けておく。水洗タンクの蓋の裏だ。鐘崎と落ち合って話が済んだら、金を受け取って仕事は終了。即行でアプリを削除し、お互いのことは忘れること!
実行部隊の男にとってもそれだけで二十万円が手に入るなら万々歳だろう。
そんな計画が練られているなど夢にも思わない鐘崎と紫月の方では、しばしの間平穏な日々を過ごしていた。
◇ ◇ ◇
そうして解体当日がやってきた。
夕刻、鐘崎は幹部の清水を伴って指定された遊歩道へと出向いた。内容が内容だけに紫月には特に知らせずに来たが、数日前に連絡があり、私立探偵と名乗る男から極秘密裏に会いたいと言われていたからだ。
「あんたが私立探偵か――?」
「はい、中田友也といいます。新宿で小さな探偵事務所を開いています」
中田と名乗ったアルバイトの男は名刺を差し出しながらそう言った。あらかじめ三春谷からコインロッカーを通じて受け取っていた偽の名刺だ。もちろんのこと『中田友也』というのも偽名である。
「お電話でもお伝えした通り、実はある人から鐘崎様についての素行調査を依頼されたのですが――。私もまがりなりに探偵なんていう商売をしている者です。鐘崎様はその世界では有名でいらっしゃいますし、調査を頼んできた依頼人がどうにも気に掛かる人物でして。もちろん依頼は断りましたが、念の為鐘崎様にこのことをお伝えすべきかと思った次第です」
男は三春谷からの指示通りにそう話した。
「――話は分かった。それで――その依頼人というのは?」
探偵である以上守秘義務というのものがあろうが、依頼自体は断ったというし、何よりこうしてわざわざ事情を暴露しに来ているくらいだ。鐘崎はダメ元でそう尋ねた。
「ええ、本来でしたらお伝えするのは避けるべき事柄です。ただ……鐘崎様に隠しておくのは気が引けます。依頼人の名前だけは伏せさせていただきますが、鐘崎様の奥様と懇意にしていると言っていました」
「――なるほど」
三春谷からはそれだけの情報で、鐘崎という男は依頼人が誰であるかおおよその見当がつくはずだと言われていた。案の定その通りの反応を見せた鐘崎に、中田と名乗った探偵はそろそろ引き上げ時と思ったようだ。
「では私はこれで……。あとのご判断は鐘崎様にお任せいたします」
「――ああ。情報に感謝する」
男は深々一礼と共にその場を後にした。
依頼人は彼の妻を追いかけ回している男で、鐘崎の素行調査を頼まれたと伝えること。
ただし、依頼人に対して胡散臭く思うところがあった為、調査対象である鐘崎にその事実を伝えに来たと、そう話すだけでいい。
それで報酬の二十万円を支払うという約束だ。
金は最寄駅のコインロッカーに入れておく。ロッカーのすぐ隣にある男子トイレの個室に鍵をガムテープで貼り付けておく。水洗タンクの蓋の裏だ。鐘崎と落ち合って話が済んだら、金を受け取って仕事は終了。即行でアプリを削除し、お互いのことは忘れること!
実行部隊の男にとってもそれだけで二十万円が手に入るなら万々歳だろう。
そんな計画が練られているなど夢にも思わない鐘崎と紫月の方では、しばしの間平穏な日々を過ごしていた。
◇ ◇ ◇
そうして解体当日がやってきた。
夕刻、鐘崎は幹部の清水を伴って指定された遊歩道へと出向いた。内容が内容だけに紫月には特に知らせずに来たが、数日前に連絡があり、私立探偵と名乗る男から極秘密裏に会いたいと言われていたからだ。
「あんたが私立探偵か――?」
「はい、中田友也といいます。新宿で小さな探偵事務所を開いています」
中田と名乗ったアルバイトの男は名刺を差し出しながらそう言った。あらかじめ三春谷からコインロッカーを通じて受け取っていた偽の名刺だ。もちろんのこと『中田友也』というのも偽名である。
「お電話でもお伝えした通り、実はある人から鐘崎様についての素行調査を依頼されたのですが――。私もまがりなりに探偵なんていう商売をしている者です。鐘崎様はその世界では有名でいらっしゃいますし、調査を頼んできた依頼人がどうにも気に掛かる人物でして。もちろん依頼は断りましたが、念の為鐘崎様にこのことをお伝えすべきかと思った次第です」
男は三春谷からの指示通りにそう話した。
「――話は分かった。それで――その依頼人というのは?」
探偵である以上守秘義務というのものがあろうが、依頼自体は断ったというし、何よりこうしてわざわざ事情を暴露しに来ているくらいだ。鐘崎はダメ元でそう尋ねた。
「ええ、本来でしたらお伝えするのは避けるべき事柄です。ただ……鐘崎様に隠しておくのは気が引けます。依頼人の名前だけは伏せさせていただきますが、鐘崎様の奥様と懇意にしていると言っていました」
「――なるほど」
三春谷からはそれだけの情報で、鐘崎という男は依頼人が誰であるかおおよその見当がつくはずだと言われていた。案の定その通りの反応を見せた鐘崎に、中田と名乗った探偵はそろそろ引き上げ時と思ったようだ。
「では私はこれで……。あとのご判断は鐘崎様にお任せいたします」
「――ああ。情報に感謝する」
男は深々一礼と共にその場を後にした。
35
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説




鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる