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絞り椿となりて永遠に咲く
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「遼、ごめんな。まさか来てくれてたなんてさ」
車中では鐘崎にしっかりと肩を抱き寄せられながら紫月がすまなさそうにしていた。
「いや――ヤツに会ってみろと言ったのはこの俺だ。俺の方こそおめえを囮に使うような真似をしてすまないと思っている」
「囮だなんてそんな……」
「俺が同席しても良かったんだが、それだと尻尾を出さんだろうと思ったのでな。あの男――三春谷が単なる先輩への憧れや懐かしさでお前に会いたがっているなら寛容にもなろうというものだが、万が一邪な気持ちを持っているなら早い段階で知っておくに限ると思ったんだ。だが結果的におめえには嫌な思いをさせてすまないと思っている」
「嫌な思いだなんて、そんなことはねえって。第一、橘や春日野がしっかり見ててくれてさ。その上、源さんや清水の剛ちゃんまで付いてきてくれるなんて……皆んなを煩わせちまって申し訳ねえなって」
鐘崎としては当然の配慮だ。
「実はな、紫月――。この前ヤツを銀さんの居酒屋から乗せたタクシーだが、あの後運転手の健治さんからわざわざ報告があったんだ」
「健治さんから?」
鐘崎組では地元の人々との交友関係も大事にしているので、繁華街の銀ちゃんの店などと同様に商店街や地域の中小企業ともこまめな付き合いをしている。健治という運転手の勤めるタクシー会社もその一部で、ごくたまに客の苦情などから発展した諍いごとの仲裁役を引き受けたりもしている為、当然運転手らとも良好な関係を築いているのだ。
「健治さんの話では、三春谷を送り届ける間中ヤツはずっと舌打ちを繰り返していたそうだ。主にはうちの組に対する恨み言をブツブツと呟いていたそうでな。ヤツが単に世間一般的な感情で極道を敵視しているのであれば、それ自体に思うところはねえ。だが、仮に極道を毛嫌いする理由がお前への興味からきているとすれば早めに釘を刺しておく必要があると思ったのでな」
「興味って……」
「案の定、ヤツはお前にとんでもないことをぬかした。やはり極道――つまり俺を敵視する理由のひとつにはお前に対する邪な感情があったということだ」
だから大事に至る前に手を打ったということだ。鐘崎がわざわざ出向いて来たのもその為だろう。
「そっか……。おめえにも世話を掛けちまってすまない。けど三春谷のヤツ、何を血迷ってやがるんだか……。変な興味を覚えて道を踏み外さなきゃいいけどな」
相変わらずに紫月は心優しいというのだろうか。あんなことを言われても、まだ三春谷を忌み嫌うどころか目を覚まして正しい道を選んでくれればいいと願っている。そんな彼の為にも、鐘崎は例え自分が悪者になろうとこのやさしい伴侶を守ってやらねばと思うのだった。
車中では鐘崎にしっかりと肩を抱き寄せられながら紫月がすまなさそうにしていた。
「いや――ヤツに会ってみろと言ったのはこの俺だ。俺の方こそおめえを囮に使うような真似をしてすまないと思っている」
「囮だなんてそんな……」
「俺が同席しても良かったんだが、それだと尻尾を出さんだろうと思ったのでな。あの男――三春谷が単なる先輩への憧れや懐かしさでお前に会いたがっているなら寛容にもなろうというものだが、万が一邪な気持ちを持っているなら早い段階で知っておくに限ると思ったんだ。だが結果的におめえには嫌な思いをさせてすまないと思っている」
「嫌な思いだなんて、そんなことはねえって。第一、橘や春日野がしっかり見ててくれてさ。その上、源さんや清水の剛ちゃんまで付いてきてくれるなんて……皆んなを煩わせちまって申し訳ねえなって」
鐘崎としては当然の配慮だ。
「実はな、紫月――。この前ヤツを銀さんの居酒屋から乗せたタクシーだが、あの後運転手の健治さんからわざわざ報告があったんだ」
「健治さんから?」
鐘崎組では地元の人々との交友関係も大事にしているので、繁華街の銀ちゃんの店などと同様に商店街や地域の中小企業ともこまめな付き合いをしている。健治という運転手の勤めるタクシー会社もその一部で、ごくたまに客の苦情などから発展した諍いごとの仲裁役を引き受けたりもしている為、当然運転手らとも良好な関係を築いているのだ。
「健治さんの話では、三春谷を送り届ける間中ヤツはずっと舌打ちを繰り返していたそうだ。主にはうちの組に対する恨み言をブツブツと呟いていたそうでな。ヤツが単に世間一般的な感情で極道を敵視しているのであれば、それ自体に思うところはねえ。だが、仮に極道を毛嫌いする理由がお前への興味からきているとすれば早めに釘を刺しておく必要があると思ったのでな」
「興味って……」
「案の定、ヤツはお前にとんでもないことをぬかした。やはり極道――つまり俺を敵視する理由のひとつにはお前に対する邪な感情があったということだ」
だから大事に至る前に手を打ったということだ。鐘崎がわざわざ出向いて来たのもその為だろう。
「そっか……。おめえにも世話を掛けちまってすまない。けど三春谷のヤツ、何を血迷ってやがるんだか……。変な興味を覚えて道を踏み外さなきゃいいけどな」
相変わらずに紫月は心優しいというのだろうか。あんなことを言われても、まだ三春谷を忌み嫌うどころか目を覚まして正しい道を選んでくれればいいと願っている。そんな彼の為にも、鐘崎は例え自分が悪者になろうとこのやさしい伴侶を守ってやらねばと思うのだった。
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