極道恋事情

一園木蓮

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絞り椿となりて永遠に咲く

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「俺のこと嫌いスか? 紫月さん、あの鐘崎って人とヤってるんでしょ? だから俺にも手解きしてくれるだけでいいんです。独身時代のいい思い出にしたいんです。憧れてた紫月さんが相手なら俺、男でも抱けると思うし」
「つまり何? お前さん、単に野郎とヤってみたいって――そういう好奇心か?」
「野郎なら誰でもいいってんじゃないです! 紫月さんなら……」
「おいおい……」
 紫月はもちろんのことながら、周りの席で様子を窺っていた源次郎や橘らも目を剥くほどに驚かされてしまった。
 車中で店内の音を拾っていた鐘崎にとっては言うまでもない。額には青筋が浮かび上がり、集音器が壊れんばかりに握り締める。

(野郎……ふざけたことを――)

 ただの懐かしさや先輩を敬う後輩というなら大目に見てやろうかとも思っていた。だが、相手がそういう魂胆ならば話は別だ。
 鐘崎は無表情のまま車を降りると、店の入り口で紫月らが出てくるのを待った。おそらくは源次郎らの計らいですぐに三春谷が追い出されると分かっていたからだ。

 集音器は未だ店内の音を拾っている――。

「冗談にしちゃ度が過ぎるぞ三春谷。聞かなかったことにしてやるから」
 くだらねえことを言ってねえで嫁さんを大事にするんだ――普段気のいい彼が割合真面目な声音でそれだけ言うと、席を立ったのだろう。椅子の引かれる音を拾った。すぐに橘と春日野が紫月を連れて店を出るようだ。引き留めようと慌てた三春谷を源次郎と清水が静かに取り囲む様子が窺えた。

 一分も待たない内に紫月が橘らと共に店から姿を現した。
「……! 遼! 来てたんか……」
 鐘崎は無言のままうなずくと、先に車に行っていろと視線だけでそう云った。
 またしばしの後、源次郎らに押されるようにして出てきた三春谷を待ち受ける鐘崎の瞳には冷たく燃える蒼白い焔が宿っているかのようだった。
 驚いたのは三春谷だ。なぜ今ここにこの男がいるのかと驚き顔でいる。しかも、源次郎ら見知らぬ男たちに取り囲まれていることにも驚愕といった表情で、要は紫月の護衛として組員たちが付いてきたのだろうということが察せられたのか、冷や汗が滲む。三春谷にしてみれば密かに監視されていたような気分になり、やはりヤクザのやり口は汚い――と、そんなふうに感じているのだろう。
「まさか……見張ってたんスか……?」
 たかだか先輩後輩の飲み会にまで監視をつけるとは小心者めと言いたげに睨みを効かせながら険を浮かべるも、当の鐘崎は当然だとばかりの無表情でいて、微塵の動揺すら感じさせない堂々ぶりだ。
「ツラを貸してもらう」
 たった短いそのひと言は得体の知れない魔物が地を這う地鳴りのようだった。
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