極道恋事情

一園木蓮

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絞り椿となりて永遠に咲く

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 次の朝、鐘崎は橘と春日野から昨夜の報告を受けていた。
 三春谷という後輩が組のことで紫月に苦言めいたことを囁いていたらしいと聞く。やはりか、想像した通りだったというわけだ。
「どうも嫌な予感がしてなりません。あの三春谷とかいう男、姐さんを単なる先輩という以上の感覚で見ている気がしてなりません」
 橘は見たまま感じたままを口にするタイプなので、春日野のように言葉を選んで丁寧に物事を説明することもないのだが、鐘崎にとっては現状把握には有り難いことといえる。
「ふむ、俺も高校時代あの男がしょっちゅう紫月を訪ねてうちのクラスに顔を出していたのを見ているからな。当時はヤツも剣道部員ということで、道場育ちの紫月にアドバイスがどうのという口実で寄って来てはいたんだが――」
 だがそれも在学中のことだけで、卒業してからはトンと接触もなかったので特に気に掛けてはいなかったのだ。とにかく厄介なことにならないよう注意を払うに越したことはない。
「まあヤツも結婚間近だというし、要望に応えて一度は飲みに付き合ったんだ。今後どうこう言ってくることもねえとは思うが――念の為紫月の周囲には気を配ってやっておいてくれ」
「かしこまりました。これまで以上に心に留めておきます!」
 紫月は殆どこの邸にいることが多いし、買い物や自治会に行く時は必ず春日野が付いていく。心配には及ばないだろうと思うものの、少しでも不安要素があるなら早々に芽を摘むか、注視しておくに越したことはない。
 紫月はあの通り気のいい性質だから、昨夜のように誘われれば断れないことも承知だ。そういう時は亭主である自分が盾になってやりたいと思うのだ。鐘崎は念の為、三春谷がどこに勤めてどんな暮らしぶりであるかをザッと洗ってみるのも忘れなかった。

 それからまたしばらくは何事もなく平穏なまま過ぎた。再び三春谷から実家の道場に電話がかかってきたのは飲み会から二週間になろうという頃だった。
 あの飲み会の席で三春谷からは携帯の番号を訊かれたのだが、紫月は持っていないと言ってごまかした。今時携帯を持たない人間がいるのかとしつこく疑われたものの、俺はズボラだからと言って話を濁したのだ。
 紫月自身、何となく彼が必要以上に懐っこくしてくる様子が気になっていたのかも知れないが、それ以前にプライベートな番号を教えるほどの仲ではないということと、万が一にも共有した場合、三春谷の携帯から紫月の番号を通して裏の世界の関係者――つまり周や楊ファミリーといったシークレットナンバーが流れないとも限らない。やたらにプライベートをばら撒くような真似は極道の姐としてすべきではない。
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