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封印せし宝物
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「ありがとう。ありがとうね、白龍! あの時俺が仕舞い込んじゃった大切なものを……一緒に探し出して見つけてくれて」
ありがとう――!
「皆さん……鐘崎さんも紫月さんも鄧先生も、本当にありがとうございます!」
お陰で探し出すことができました。思い出すことができました。冰は止めどない涙を拭いながら何度も何度もそう言っては心からの礼を込めて頭を下げたのだった。
「よーし! それじゃ今夜はお祝いだな!」
「風の兄貴やご両親もきっと首を長くして待ってっだろうから!」
鐘崎と紫月の明るい声で心が湧き立つ。
「はい、はい……! お父様たちにもご心配掛けちゃって……。ちゃんと思い出せましたってご報告したいです!」
眼下には灯り始めた街の灯が、それはそれはキラキラと輝いて、まるで蘇った二人の思い出を祝福してくれているかのようだった。
その夜、本宅での夕膳の時を和やかに過ごした周と冰は、鐘崎らと共にホテルへと戻って来た。明日はもう帰国の日である。強行スケジュールであったが、二人にとってはこの上なく実りのある小旅行となった。
大パノラマの窓から夜景を見下ろしながら、二人ぴったりと寄り添っているだけで充分にあたたかかった。
「ありがとう白龍。俺、本当に……」
「いいや。思い出せたのはお前が一生懸命に探し出そうとがんばってくれたからだ」
「ううん、白龍が一緒に探してくれたからだよ。それにさ、さっきビクトリアピークで言ってくれたこと、俺を置いて行ったって言ってたけど。そんなことない! 白龍はずっと、この香港を離れてからもずっと気に掛けてくれてた。俺、置いて行かれたなんて思ってない!」
「――冰、お前……」
「だからすまなかったなんて思わないで。後悔してるなんて言わないで。俺、本当に幸せだった! 遠く離れても、いつかはきっとまた会えるって心のどこかで信じてた気がするんだ。だから黄のじいちゃんが亡くなる直前に白龍のこと聞いて、俺は間違ってなかったんだって思ったんだ。いつかきっとまた会える。今がその時だって」
「冰……」
あの時、もしも周が家族も未来も捨てて自分と黄老人と共に生きる人生を選んだとしても、それは運命がそうじゃないよと言ってくれたからなのだと思う、冰はそう言った。
今は寂しくとも、少しの間互いの距離が遠く離れたとしても、それは来たる未来により一層強い絆で結ばれる為に必要な時間だったのだと――。
「きっと神様がその方がいいって俺たちを導いてくれたように思うんだ。思い出を忘れちゃったのも、きっといつか思い出せる日が来るから――今は鍵を掛けて大切にしまっておきなさいっていうことだったのかも」
「冰――」
「ありがとう白龍。出会ってくれて、ずっと気に掛けてくれて……そして今はこうして一緒にいてくれて」
本当にありがとう――!
「冰――」
何も言葉にならないまま、並べられていた肩を抱き寄せて強く抱き締めた。強く強く、きつくきつく、苦しくなるほどに抱き締めた。
「お前ってヤツは……本当にどこまでも」
純粋で俺を包み込む天使のようだ――!
周の双眸にもまた、うっすらと滲み出した熱い雫が潤み出し、二人はひしと抱き合ったまま言葉を交わすこともなくただただ互いの温もりを確かめ合った。
二度と離れぬと固く心に誓い合いながら、ただただ抱き締め合ったのだった。
ありがとう――!
「皆さん……鐘崎さんも紫月さんも鄧先生も、本当にありがとうございます!」
お陰で探し出すことができました。思い出すことができました。冰は止めどない涙を拭いながら何度も何度もそう言っては心からの礼を込めて頭を下げたのだった。
「よーし! それじゃ今夜はお祝いだな!」
「風の兄貴やご両親もきっと首を長くして待ってっだろうから!」
鐘崎と紫月の明るい声で心が湧き立つ。
「はい、はい……! お父様たちにもご心配掛けちゃって……。ちゃんと思い出せましたってご報告したいです!」
眼下には灯り始めた街の灯が、それはそれはキラキラと輝いて、まるで蘇った二人の思い出を祝福してくれているかのようだった。
その夜、本宅での夕膳の時を和やかに過ごした周と冰は、鐘崎らと共にホテルへと戻って来た。明日はもう帰国の日である。強行スケジュールであったが、二人にとってはこの上なく実りのある小旅行となった。
大パノラマの窓から夜景を見下ろしながら、二人ぴったりと寄り添っているだけで充分にあたたかかった。
「ありがとう白龍。俺、本当に……」
「いいや。思い出せたのはお前が一生懸命に探し出そうとがんばってくれたからだ」
「ううん、白龍が一緒に探してくれたからだよ。それにさ、さっきビクトリアピークで言ってくれたこと、俺を置いて行ったって言ってたけど。そんなことない! 白龍はずっと、この香港を離れてからもずっと気に掛けてくれてた。俺、置いて行かれたなんて思ってない!」
「――冰、お前……」
「だからすまなかったなんて思わないで。後悔してるなんて言わないで。俺、本当に幸せだった! 遠く離れても、いつかはきっとまた会えるって心のどこかで信じてた気がするんだ。だから黄のじいちゃんが亡くなる直前に白龍のこと聞いて、俺は間違ってなかったんだって思ったんだ。いつかきっとまた会える。今がその時だって」
「冰……」
あの時、もしも周が家族も未来も捨てて自分と黄老人と共に生きる人生を選んだとしても、それは運命がそうじゃないよと言ってくれたからなのだと思う、冰はそう言った。
今は寂しくとも、少しの間互いの距離が遠く離れたとしても、それは来たる未来により一層強い絆で結ばれる為に必要な時間だったのだと――。
「きっと神様がその方がいいって俺たちを導いてくれたように思うんだ。思い出を忘れちゃったのも、きっといつか思い出せる日が来るから――今は鍵を掛けて大切にしまっておきなさいっていうことだったのかも」
「冰――」
「ありがとう白龍。出会ってくれて、ずっと気に掛けてくれて……そして今はこうして一緒にいてくれて」
本当にありがとう――!
「冰――」
何も言葉にならないまま、並べられていた肩を抱き寄せて強く抱き締めた。強く強く、きつくきつく、苦しくなるほどに抱き締めた。
「お前ってヤツは……本当にどこまでも」
純粋で俺を包み込む天使のようだ――!
周の双眸にもまた、うっすらと滲み出した熱い雫が潤み出し、二人はひしと抱き合ったまま言葉を交わすこともなくただただ互いの温もりを確かめ合った。
二度と離れぬと固く心に誓い合いながら、ただただ抱き締め合ったのだった。
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