極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

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「すまなかったな、冰。俺はお前の不安の原因が過去に封じられた記憶なんじゃねえかと……おおよその見当がついていた。すぐにお前に打ち明けてやった方が良かったんじゃねえかとも思う。それでも幻影とはいえ、お前自身で当時の記憶を思い出してくれた」
 うれしかった、すまなかったと言って周は今一度抱き締めた腕に力を込めた。冰もまた、驚きつつも胸のつかえが取れたというように安堵の表情を見せながらもホッと小さな溜め息をもらす。
「そうだったんだ……。だから俺、白龍の『ボウズ』っていう言葉を聞いて……あの頃を思い出し掛けていたんだね」
 あの頃、お兄さんにそう呼んでもらえるのがとても嬉しかったから――。
「きっと白龍がくれた鍵のお陰だね。俺も思ってたんだ。白龍以外に一緒にいてドキドキしたり、踊り出したくなるくらいに嬉しくなったりするなんて、そんな人いるわけないって思ってたもん」
 そうか、やっぱりあのお兄さんは白龍だったんだと言って、胸に手を当てた。
「ほら、白龍と一緒にいるとこんなにドキドキするんだ。あの頃もそうだったよ。お兄さんと会える時間が本当に嬉しくて待ち遠しくて……。俺、あの頃から白龍が大好きだったんだね」
 ふと、瞳を大きく見開きながら抱き締められていた腕から抜け出すと冰は言った。
「あ……! だからこの服だったの? 白龍の今日の格好、いつもはあんまり見慣れないカジュアルな感じっていうか」
 それについては鐘崎と紫月が傍から口を挟んだ。
「その通りだ。こいつな、当時冰に会いにいく時はファミリーと気取られねえようにって、わざとラフな格好を心掛けていたそうでな。あの頃にしてみれば年相応だったろうが、今じゃ若作り過ぎやしねえかと言ったんだが――」
「そうそ! でも氷川ったら冰君が何かを思い出すきっかけになるはずだからってさ。当時着ていた服を引っ張り出してきたらしいぜぇ!」
 というよりも、そんな何年も前の服を未だ大事に取ってあることの方に驚いたと鐘崎も紫月も冷やかし気味に微笑んだ。
「そりゃ取っておくさ! 何てったってこいつは俺と冰との大事な思い出の服だからな」
 その思いを知っていた真田も、古い洋服が傷まないようにと時折クローゼットから出しては風に当てたり、時には洗濯をしてプレスもかけたりしながら大事に保管してくれていたそうだ。
「だがまあ……確かに若作りし過ぎと言えるな。三十越した男が着る服じゃねえ」
 少し恥ずかしそうに頭を掻きながら頬を染めてみせた周に、冰は破顔するほど感激といったようにしてクシャクシャと満面の笑みを見せ――その双眸からはポロポロと真珠のような涙をこぼした。
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