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封印せし宝物
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「ね、白龍は……知ってる――わけないよね? あの頃、俺の周りにそういった人がいたかどうかなんて」
じいちゃんでも生きていれば訊けるんだけど――と、冰は苦しそうだ。
ふいと、周は華奢な肩を抱き包むように腕の中へと引き寄せた。
「冰――。お前はその相手のことを慕っていたんだな?」
「う……ん、多分。ごめんね……本当は白龍以外にそんなふうに慕った人がいるなんて……俺も半信半疑っていうか……。ただ何となくね、思うんだ。その人、あの頃の俺にとって白龍のような存在だったんじゃないかなって」
「――俺のような?」
「うん……。一緒にいると嬉しくて安心できて、ずっとずーっとこのままでいたいって思ってたような気がするんだ。でも俺にはそんな知り合いなんていた覚えはなくて……。あの人は誰なんだろうって」
それが思い出せれば胸のつかえがすっきり晴れるような気がする、冰の顔つきからはそんな思いが滲んで感じられた。
陽が傾き出し、香港の摩天楼を黄金色に染めていく――。
後ろからしっかりと懐に抱き包みながら周は穏やかに微笑んだ。
「そうか――。そいつが誰だか知りたいんだな?」
「……うん。ごめんね白龍……こんなこと、あなたに言っていいことじゃないんだって思うけど」
「構わん。言っただろう? どんなことでも受け止めてやると」
「うん、ありがと……。俺も信じられないんだ。俺があの頃からそんなふうに大事に思ってた人は白龍しかいないはずなんだ。じいちゃんの知り合いの誰かなのかなって思ったりもしたんだけど、ディーラーさんの人たちだってウチに遊びに来たこととかはなかったし」
「でもお前の宿題を見たり一緒に饅頭を食ったり、一緒にここへ来たこともある気がする――ってことだな?」
「うん……。もしもその人が白龍だったらしっくりくるんだ。でも俺が白龍と会ったのは助けてもらった時一度きりだったじゃない? ならその人は誰だったんだろうって考えても思い出せなくてさ。俺、今日一日皆さんとこの香港の街を歩きながら思ったの。その人と一緒に過ごしたのは多分間違いないんだろうって。でもさ、白龍と同じくらい会いたいなって思ってた人がいるはずないって思うのもホントなんだ。やっぱりあのお兄さんは俺が勝手に作り出した幻影で、一緒に出掛けたりしたことはなかったのかも」
もしかしたら当時周にもう一度会いたいと思っていた強い願望が生み出した幻影なのかも知れないと、冰はそんなふうに考えているようだ。
「ふむ、そうか。だったらそれは幻影などではなく事実だろう。おそらくそのお兄さんとやらもお前のことを大事に思っていた。いや、確実に大事に思っていた」
「あの……白龍? それじゃやっぱりあれは俺の幻想とかじゃなくて……実際にあったことなの?」
「そうだ」
じいちゃんでも生きていれば訊けるんだけど――と、冰は苦しそうだ。
ふいと、周は華奢な肩を抱き包むように腕の中へと引き寄せた。
「冰――。お前はその相手のことを慕っていたんだな?」
「う……ん、多分。ごめんね……本当は白龍以外にそんなふうに慕った人がいるなんて……俺も半信半疑っていうか……。ただ何となくね、思うんだ。その人、あの頃の俺にとって白龍のような存在だったんじゃないかなって」
「――俺のような?」
「うん……。一緒にいると嬉しくて安心できて、ずっとずーっとこのままでいたいって思ってたような気がするんだ。でも俺にはそんな知り合いなんていた覚えはなくて……。あの人は誰なんだろうって」
それが思い出せれば胸のつかえがすっきり晴れるような気がする、冰の顔つきからはそんな思いが滲んで感じられた。
陽が傾き出し、香港の摩天楼を黄金色に染めていく――。
後ろからしっかりと懐に抱き包みながら周は穏やかに微笑んだ。
「そうか――。そいつが誰だか知りたいんだな?」
「……うん。ごめんね白龍……こんなこと、あなたに言っていいことじゃないんだって思うけど」
「構わん。言っただろう? どんなことでも受け止めてやると」
「うん、ありがと……。俺も信じられないんだ。俺があの頃からそんなふうに大事に思ってた人は白龍しかいないはずなんだ。じいちゃんの知り合いの誰かなのかなって思ったりもしたんだけど、ディーラーさんの人たちだってウチに遊びに来たこととかはなかったし」
「でもお前の宿題を見たり一緒に饅頭を食ったり、一緒にここへ来たこともある気がする――ってことだな?」
「うん……。もしもその人が白龍だったらしっくりくるんだ。でも俺が白龍と会ったのは助けてもらった時一度きりだったじゃない? ならその人は誰だったんだろうって考えても思い出せなくてさ。俺、今日一日皆さんとこの香港の街を歩きながら思ったの。その人と一緒に過ごしたのは多分間違いないんだろうって。でもさ、白龍と同じくらい会いたいなって思ってた人がいるはずないって思うのもホントなんだ。やっぱりあのお兄さんは俺が勝手に作り出した幻影で、一緒に出掛けたりしたことはなかったのかも」
もしかしたら当時周にもう一度会いたいと思っていた強い願望が生み出した幻影なのかも知れないと、冰はそんなふうに考えているようだ。
「ふむ、そうか。だったらそれは幻影などではなく事実だろう。おそらくそのお兄さんとやらもお前のことを大事に思っていた。いや、確実に大事に思っていた」
「あの……白龍? それじゃやっぱりあれは俺の幻想とかじゃなくて……実際にあったことなの?」
「そうだ」
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