1,145 / 1,212
封印せし宝物
17
しおりを挟む
「じいさんが亡くなった節目だったとはいえ――あいつが俺を忘れずにいてくれたこと、しかもたった一人で海を超えて訪ねて来てくれたことが本当に嬉しかった。記憶を封じ込めてまで慕ってくれた幼い日の――たった一度会っただけの俺のことを覚えていてくれた。俺は身体が震えるほど、自分が自分じゃねえと思えるほどに嬉しかったんだ……!」
涙を堪えるようにうつむいて拳を握り締める周に、鐘崎も紫月も、そして鄧も切なそうに瞳を細めた。
「だが氷川。お前は――黄のじいさんに万一のことがあった時のことを思って、この日本へ来てからもいつでも冰を引き取れるようにと考えていたじゃねえか。冰が住む部屋を作って、香港の風さんに頼んで冰の様子を見に行ってもらっていただろう? 香港を離れても決して冰を忘れることはなかった。様々事情のあった中、じいさんと冰が少しでも楽に暮らせるようにと援助を続け、出来得る限り最善の手を尽くしてきたことを俺は知ってる。お前は冰よりも自分の人生を選んだわけじゃない。いつでもあいつのことを気に掛けていたじゃねえか」
お前は決して薄情なんかじゃない! 鐘崎は必死にそう訴えた。紫月もまた然りだ。
「そうだよ氷川! 俺は……遼やおめえほど詳しいことを知ってるわけじゃねえが、おめえが冰君のことを話す時の嬉しそうなツラは本物だった! ああ、こいつにも大事に思ってる誰かがいるんだって……そう思ってた。だから俺、冰君に会えた時も初めての気がしねえほどに親しみを感じたんだ!」
お前はずっと冰君を大事に思ってた! それは俺たちがよく知っている。鐘崎も紫月も力強くそう言っては真剣な表情で周を見つめた。
「けどさ、なぁ鄧先生。じゃあ……冰君は……氷川の『ボウズ』って言葉を聞いて、その封じ込めちまってる記憶を思い出そうとしてるってことでしょうか」
紫月が逸ったようにして鄧に尋ねる。
「その可能性は大いに有り得ますね。どこかに大切なものを置き忘れて来てしまった気がするという冰さんの思いが――十五年前に封じ込めてしまった記憶と考えれば、ここ最近の不安定な感情にも説明がつきます」
鐘崎もまた、同じことを言った。
「そうかも知れんな――。冰が氷川と暮らし始めてからかれこれ三年になろうとしている。二人は想い合って夫婦となり、今は幸せの中にある。そんな中で余裕が生まれるようになったのかもな。もう当時のように離れて暮らす不安はない。身も心も共にあるという確固たる安心感の中で、遠い日の楽しかった記憶を思い出したいという感情が働いたのかも知れん。『ボウズ』という――当時氷川にそう呼ばれていた思い出の言葉が鍵となって、冰の心の扉を開けようとしているのかもな」
涙を堪えるようにうつむいて拳を握り締める周に、鐘崎も紫月も、そして鄧も切なそうに瞳を細めた。
「だが氷川。お前は――黄のじいさんに万一のことがあった時のことを思って、この日本へ来てからもいつでも冰を引き取れるようにと考えていたじゃねえか。冰が住む部屋を作って、香港の風さんに頼んで冰の様子を見に行ってもらっていただろう? 香港を離れても決して冰を忘れることはなかった。様々事情のあった中、じいさんと冰が少しでも楽に暮らせるようにと援助を続け、出来得る限り最善の手を尽くしてきたことを俺は知ってる。お前は冰よりも自分の人生を選んだわけじゃない。いつでもあいつのことを気に掛けていたじゃねえか」
お前は決して薄情なんかじゃない! 鐘崎は必死にそう訴えた。紫月もまた然りだ。
「そうだよ氷川! 俺は……遼やおめえほど詳しいことを知ってるわけじゃねえが、おめえが冰君のことを話す時の嬉しそうなツラは本物だった! ああ、こいつにも大事に思ってる誰かがいるんだって……そう思ってた。だから俺、冰君に会えた時も初めての気がしねえほどに親しみを感じたんだ!」
お前はずっと冰君を大事に思ってた! それは俺たちがよく知っている。鐘崎も紫月も力強くそう言っては真剣な表情で周を見つめた。
「けどさ、なぁ鄧先生。じゃあ……冰君は……氷川の『ボウズ』って言葉を聞いて、その封じ込めちまってる記憶を思い出そうとしてるってことでしょうか」
紫月が逸ったようにして鄧に尋ねる。
「その可能性は大いに有り得ますね。どこかに大切なものを置き忘れて来てしまった気がするという冰さんの思いが――十五年前に封じ込めてしまった記憶と考えれば、ここ最近の不安定な感情にも説明がつきます」
鐘崎もまた、同じことを言った。
「そうかも知れんな――。冰が氷川と暮らし始めてからかれこれ三年になろうとしている。二人は想い合って夫婦となり、今は幸せの中にある。そんな中で余裕が生まれるようになったのかもな。もう当時のように離れて暮らす不安はない。身も心も共にあるという確固たる安心感の中で、遠い日の楽しかった記憶を思い出したいという感情が働いたのかも知れん。『ボウズ』という――当時氷川にそう呼ばれていた思い出の言葉が鍵となって、冰の心の扉を開けようとしているのかもな」
3
お気に入りに追加
867
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる