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封印せし宝物
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「じいさんが亡くなった節目だったとはいえ――あいつが俺を忘れずにいてくれたこと、しかもたった一人で海を超えて訪ねて来てくれたことが本当に嬉しかった。記憶を封じ込めてまで慕ってくれた幼い日の――たった一度会っただけの俺のことを覚えていてくれた。俺は身体が震えるほど、自分が自分じゃねえと思えるほどに嬉しかったんだ……!」
涙を堪えるようにうつむいて拳を握り締める周に、鐘崎も紫月も、そして鄧も切なそうに瞳を細めた。
「だが氷川。お前は――黄のじいさんに万一のことがあった時のことを思って、この日本へ来てからもいつでも冰を引き取れるようにと考えていたじゃねえか。冰が住む部屋を作って、香港の風さんに頼んで冰の様子を見に行ってもらっていただろう? 香港を離れても決して冰を忘れることはなかった。様々事情のあった中、じいさんと冰が少しでも楽に暮らせるようにと援助を続け、出来得る限り最善の手を尽くしてきたことを俺は知ってる。お前は冰よりも自分の人生を選んだわけじゃない。いつでもあいつのことを気に掛けていたじゃねえか」
お前は決して薄情なんかじゃない! 鐘崎は必死にそう訴えた。紫月もまた然りだ。
「そうだよ氷川! 俺は……遼やおめえほど詳しいことを知ってるわけじゃねえが、おめえが冰君のことを話す時の嬉しそうなツラは本物だった! ああ、こいつにも大事に思ってる誰かがいるんだって……そう思ってた。だから俺、冰君に会えた時も初めての気がしねえほどに親しみを感じたんだ!」
お前はずっと冰君を大事に思ってた! それは俺たちがよく知っている。鐘崎も紫月も力強くそう言っては真剣な表情で周を見つめた。
「けどさ、なぁ鄧先生。じゃあ……冰君は……氷川の『ボウズ』って言葉を聞いて、その封じ込めちまってる記憶を思い出そうとしてるってことでしょうか」
紫月が逸ったようにして鄧に尋ねる。
「その可能性は大いに有り得ますね。どこかに大切なものを置き忘れて来てしまった気がするという冰さんの思いが――十五年前に封じ込めてしまった記憶と考えれば、ここ最近の不安定な感情にも説明がつきます」
鐘崎もまた、同じことを言った。
「そうかも知れんな――。冰が氷川と暮らし始めてからかれこれ三年になろうとしている。二人は想い合って夫婦となり、今は幸せの中にある。そんな中で余裕が生まれるようになったのかもな。もう当時のように離れて暮らす不安はない。身も心も共にあるという確固たる安心感の中で、遠い日の楽しかった記憶を思い出したいという感情が働いたのかも知れん。『ボウズ』という――当時氷川にそう呼ばれていた思い出の言葉が鍵となって、冰の心の扉を開けようとしているのかもな」
涙を堪えるようにうつむいて拳を握り締める周に、鐘崎も紫月も、そして鄧も切なそうに瞳を細めた。
「だが氷川。お前は――黄のじいさんに万一のことがあった時のことを思って、この日本へ来てからもいつでも冰を引き取れるようにと考えていたじゃねえか。冰が住む部屋を作って、香港の風さんに頼んで冰の様子を見に行ってもらっていただろう? 香港を離れても決して冰を忘れることはなかった。様々事情のあった中、じいさんと冰が少しでも楽に暮らせるようにと援助を続け、出来得る限り最善の手を尽くしてきたことを俺は知ってる。お前は冰よりも自分の人生を選んだわけじゃない。いつでもあいつのことを気に掛けていたじゃねえか」
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紫月が逸ったようにして鄧に尋ねる。
「その可能性は大いに有り得ますね。どこかに大切なものを置き忘れて来てしまった気がするという冰さんの思いが――十五年前に封じ込めてしまった記憶と考えれば、ここ最近の不安定な感情にも説明がつきます」
鐘崎もまた、同じことを言った。
「そうかも知れんな――。冰が氷川と暮らし始めてからかれこれ三年になろうとしている。二人は想い合って夫婦となり、今は幸せの中にある。そんな中で余裕が生まれるようになったのかもな。もう当時のように離れて暮らす不安はない。身も心も共にあるという確固たる安心感の中で、遠い日の楽しかった記憶を思い出したいという感情が働いたのかも知れん。『ボウズ』という――当時氷川にそう呼ばれていた思い出の言葉が鍵となって、冰の心の扉を開けようとしているのかもな」
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