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三千世界に極道の涙
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占拠されていた当時から比べれば多少マシになったものの、やはりこの辺りは街の中心とは雰囲気が違う。空き家も多く、まだすべてが再建には至っていないようだ。一旦荒れてしまうと案外そんなものなのかも知れない。
「伊三郎の親父っさんもここまではなかなか手が回らねえってところなのか――」
少々怪しい雰囲気の中、周辺を散策していると、案の定か武器庫の辺りから人の話し声のようなものが聞こえた気がして、二人はそちらへと向かった。
◇ ◇ ◇
一方、代田の方では厠で汰一郎と鉢合わせた後、抜け穴を経て街の最奥にある蔵へと連れて来られていた。正に当時の武器庫である。そこには涼音が待っていて、代田は驚かされたようだ。
「なんでい、こんな所に連れ込んで。ヤクザから逃げるんじゃなかったのかよ」
ここは大門から一番遠くに位置する反対方向の街区である。
「こんな奥へ引っ込んじまっちゃ逃げるもクソもねえじゃねえか! 町永……てめえ、いったい何を考えてやがる……」
「まあそう焦らずに。今頃大門の辺りではさっきのヤクザたちが手ぐすね引いて僕たちを待っているでしょうし、しばらくはここでおとなしくしているのが得策ですよ。ほとぼりが冷めるのを待って密かにこの街を出ましょう」
「クソッ、とんだ災難だぜ! だいたい……! 何で今日に限ってあんな連中が居やがったんだ。俺が聞いた話じゃ涼音が風邪引いて座敷に出れねえっていうから! なのに当の涼音がここに居るって……ワケ分かんねえわ! 町永! どういうことか説明しろよ!」
代田は憤っていたが、汰一郎は存外落ち着いた様子で堂々としている。ともすればその口元に薄ら笑いまで浮かべているのに、さすがの代田も不気味に思ったようだ。
「ふ――、じゃあ説明しますよ。代田さん、僕はね。ずっとこの日を待っていたんですよ」
「は――?」
「あなたとゆっくり――誰にも邪魔されずに向き合えるこの時をね」
汰一郎は懐から短刀を出すと、それを代田に向けながら笑った。
「な……ッ! 何考えてやがる、てめえ! いったいどういうつもりだ!」
「さすがのあなたも怖いってわけですか? そりゃそうですよね。こんな刃物を向けられれば誰だって怖い。当たり前でしょう」
「町永……てめえ、気でも狂ったか……? 何で俺がこんな目に遭わされなきゃいけねんだ!」
「――そうですよね。何でこんな目に遭わされなきゃいけない、僕の父もきっとそう思ったことでしょう」
「は? てめえの親父が何だってんだ!」
「まだ分かりませんか? 本当に馬鹿なんですね、あなたって」
「んだとッ! 町永てめえ……調子コキやがって!」
「調子こいてるのはあなたでしょうが! 僕の父はね、あなた……いや、お前に刺されて死んだんだッ! 二十年前……お前らが調子こいて……イキがって乱闘騒ぎを起こしたあの事件でなッ!」
さすがの代田も当時のことを覚えていたようだ。
「は、はは……そうか……。てめえ、あん時のガキか……」
「やっと思い出したか! このクズ野郎がッ!」
汰一郎は刃物を握り締めると、ジリジリと代田に向かって刃を向けた。
「伊三郎の親父っさんもここまではなかなか手が回らねえってところなのか――」
少々怪しい雰囲気の中、周辺を散策していると、案の定か武器庫の辺りから人の話し声のようなものが聞こえた気がして、二人はそちらへと向かった。
◇ ◇ ◇
一方、代田の方では厠で汰一郎と鉢合わせた後、抜け穴を経て街の最奥にある蔵へと連れて来られていた。正に当時の武器庫である。そこには涼音が待っていて、代田は驚かされたようだ。
「なんでい、こんな所に連れ込んで。ヤクザから逃げるんじゃなかったのかよ」
ここは大門から一番遠くに位置する反対方向の街区である。
「こんな奥へ引っ込んじまっちゃ逃げるもクソもねえじゃねえか! 町永……てめえ、いったい何を考えてやがる……」
「まあそう焦らずに。今頃大門の辺りではさっきのヤクザたちが手ぐすね引いて僕たちを待っているでしょうし、しばらくはここでおとなしくしているのが得策ですよ。ほとぼりが冷めるのを待って密かにこの街を出ましょう」
「クソッ、とんだ災難だぜ! だいたい……! 何で今日に限ってあんな連中が居やがったんだ。俺が聞いた話じゃ涼音が風邪引いて座敷に出れねえっていうから! なのに当の涼音がここに居るって……ワケ分かんねえわ! 町永! どういうことか説明しろよ!」
代田は憤っていたが、汰一郎は存外落ち着いた様子で堂々としている。ともすればその口元に薄ら笑いまで浮かべているのに、さすがの代田も不気味に思ったようだ。
「ふ――、じゃあ説明しますよ。代田さん、僕はね。ずっとこの日を待っていたんですよ」
「は――?」
「あなたとゆっくり――誰にも邪魔されずに向き合えるこの時をね」
汰一郎は懐から短刀を出すと、それを代田に向けながら笑った。
「な……ッ! 何考えてやがる、てめえ! いったいどういうつもりだ!」
「さすがのあなたも怖いってわけですか? そりゃそうですよね。こんな刃物を向けられれば誰だって怖い。当たり前でしょう」
「町永……てめえ、気でも狂ったか……? 何で俺がこんな目に遭わされなきゃいけねんだ!」
「――そうですよね。何でこんな目に遭わされなきゃいけない、僕の父もきっとそう思ったことでしょう」
「は? てめえの親父が何だってんだ!」
「まだ分かりませんか? 本当に馬鹿なんですね、あなたって」
「んだとッ! 町永てめえ……調子コキやがって!」
「調子こいてるのはあなたでしょうが! 僕の父はね、あなた……いや、お前に刺されて死んだんだッ! 二十年前……お前らが調子こいて……イキがって乱闘騒ぎを起こしたあの事件でなッ!」
さすがの代田も当時のことを覚えていたようだ。
「は、はは……そうか……。てめえ、あん時のガキか……」
「やっと思い出したか! このクズ野郎がッ!」
汰一郎は刃物を握り締めると、ジリジリと代田に向かって刃を向けた。
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