1,122 / 1,212
三千世界に極道の涙
22
しおりを挟む
『町永汰一郎と代田憲についてはお前からの報告通りだったが、問題は涼音という芸妓だ。彼女は汰一郎と将来を約束した仲だということだったな? だがな、どうもそれだけじゃないらしい。涼音の父親というのは以前汰一郎が担当する顧客だったようでな。ヤツに勧められた株で大損を被っていたことが判明した』
「株で大損だと?」
『当然だが涼音の父親は激怒した。損失分を保障しろと汰一郎に迫って、結局汰一郎は身銭を切って償ったそうだ。その額何と一千万だ』
「一千万? 汰一郎がそんな大金を自腹で捻出したってのか?」
『おそらくは源さんが毎月欠かさず振り込んでいた金だろう。二十年前の事件以来、汰一郎が成人して居処が分からなくなるまで源さんは年間二百万円を超える額を援助し続けてきた。それに手をつけずに貯め込んでいたとすれば、汰一郎の手元には五千万に達する現金があるはずだ。おそらくはそこから一千万円を涼音の父親に補填し、残りの金はその地下街で代田の飲み代に消えていったんじゃねえかと――俺はそう見ている』
「……なんてこった。つまり……汰一郎が涼音に近付いたのは好いた惚れたじゃなく、涼音の父親に補填させられた一千万の恨みってわけか?」
つまり、汰一郎がこの地下街に代田を引き入れた理由は、涼音の父親に対する報復の意味もあったということだろう。地上のバーやクラブでなく、この地下街でなければならなかった理由はそれだというわけか。
『まだそうとは断定できんが、何らかの思惑があって涼音に近付いたのは確かだろう。それより遼二。帰ってみたら源の字がいねえ。もしかしたらその地下街に向かったのやも知れん。俺もこれからそっちへ向かうが、念の為気をつけてやってくれ。源さんと代田が鉢合わせになればただでは済むまいからな』
僚一はそう言うと、すぐにこの地下街へ向かうと言って通話は切られた。その直後に今度は最上屋で代田の仲間たちを見張っていた組員から連絡が入る。それによると厠の個室からどこかへ通じている抜け穴を発見したとのことだ。
「抜け穴だと? クソ……なんてこった!」
鐘崎は一旦周や紫月らと合流し、今の僚一からの報告を伝えることにした。
「じゃあ……なんだ。汰一郎は代田だけじゃなく涼音にも恨みを抱いてるってわけか?」
捜索で動き回る為に紫月は花魁の衣装を脱いで大きな鬘も取っていたものの、白塗りの化粧はそのままだ。
「まだそうと決まったわけじゃねえが、汰一郎が二人を恨みに思っているという可能性は捨てきれん。もしかしたら代田が姿をくらましたのも汰一郎が手引きしたとも考えられる。あの厠を調べていた若い衆から連絡があって、抜け道を発見したとのことだ。源さんも組を出てこっちへ向かった可能性が高いという。グズグズしておれん、とにかくヤツらを捜そう!」
「分かった! んじゃ二手に分かれっか」
鐘崎と紫月、周と冰の方には綾乃木にも付いてもらって捜索を開始する。
「汰一郎は涼音を通してこの街の地理には詳しいはず――。例の抜け穴も涼音に教わったのかも知れん」
「とすれば、この街ン中で人目につかねえ場所に代田を連れ込んだ可能性もあるな」
「人目につかねえ場所か……。もしかしたら――」
鐘崎は紫月と共に以前この街を荒らしたテロリストたちが占拠していた武器庫があった辺りを調べてみることにした。
「株で大損だと?」
『当然だが涼音の父親は激怒した。損失分を保障しろと汰一郎に迫って、結局汰一郎は身銭を切って償ったそうだ。その額何と一千万だ』
「一千万? 汰一郎がそんな大金を自腹で捻出したってのか?」
『おそらくは源さんが毎月欠かさず振り込んでいた金だろう。二十年前の事件以来、汰一郎が成人して居処が分からなくなるまで源さんは年間二百万円を超える額を援助し続けてきた。それに手をつけずに貯め込んでいたとすれば、汰一郎の手元には五千万に達する現金があるはずだ。おそらくはそこから一千万円を涼音の父親に補填し、残りの金はその地下街で代田の飲み代に消えていったんじゃねえかと――俺はそう見ている』
「……なんてこった。つまり……汰一郎が涼音に近付いたのは好いた惚れたじゃなく、涼音の父親に補填させられた一千万の恨みってわけか?」
つまり、汰一郎がこの地下街に代田を引き入れた理由は、涼音の父親に対する報復の意味もあったということだろう。地上のバーやクラブでなく、この地下街でなければならなかった理由はそれだというわけか。
『まだそうとは断定できんが、何らかの思惑があって涼音に近付いたのは確かだろう。それより遼二。帰ってみたら源の字がいねえ。もしかしたらその地下街に向かったのやも知れん。俺もこれからそっちへ向かうが、念の為気をつけてやってくれ。源さんと代田が鉢合わせになればただでは済むまいからな』
僚一はそう言うと、すぐにこの地下街へ向かうと言って通話は切られた。その直後に今度は最上屋で代田の仲間たちを見張っていた組員から連絡が入る。それによると厠の個室からどこかへ通じている抜け穴を発見したとのことだ。
「抜け穴だと? クソ……なんてこった!」
鐘崎は一旦周や紫月らと合流し、今の僚一からの報告を伝えることにした。
「じゃあ……なんだ。汰一郎は代田だけじゃなく涼音にも恨みを抱いてるってわけか?」
捜索で動き回る為に紫月は花魁の衣装を脱いで大きな鬘も取っていたものの、白塗りの化粧はそのままだ。
「まだそうと決まったわけじゃねえが、汰一郎が二人を恨みに思っているという可能性は捨てきれん。もしかしたら代田が姿をくらましたのも汰一郎が手引きしたとも考えられる。あの厠を調べていた若い衆から連絡があって、抜け道を発見したとのことだ。源さんも組を出てこっちへ向かった可能性が高いという。グズグズしておれん、とにかくヤツらを捜そう!」
「分かった! んじゃ二手に分かれっか」
鐘崎と紫月、周と冰の方には綾乃木にも付いてもらって捜索を開始する。
「汰一郎は涼音を通してこの街の地理には詳しいはず――。例の抜け穴も涼音に教わったのかも知れん」
「とすれば、この街ン中で人目につかねえ場所に代田を連れ込んだ可能性もあるな」
「人目につかねえ場所か……。もしかしたら――」
鐘崎は紫月と共に以前この街を荒らしたテロリストたちが占拠していた武器庫があった辺りを調べてみることにした。
9
お気に入りに追加
879
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる