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三千世界に極道の涙
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汰一郎の言うには、涼音らの店に通う客の中に毎度嫌がらせ行為を繰り返す男たちがいて、ここ最近では金は踏み倒すわ、ともすれば暴力まで振るうとかで困り果てているとのことだそうだ。汰一郎は鐘崎組が裏の世界に生きる極道だということは理解しているらしく、そこの番頭である源次郎ならばそのような相手でも何とかしてくれるのではと思ったという。
「無法者の名は代田憲という見晴銀行頭取の息子だそうで、汰一郎君の証券会社とも取引がある男のようです。代田はあまり素行の良ろしくない連中を引き連れては最上屋へ顔を出し、荒らしまくっているとか――」
このままではいつ涼音に危険が及ばないとも限らない、是非とも助力をお願いしたいと汰一郎は必死だったそうだ。
「ふむ、まさかそういう展開になるとはな――」
鐘崎は伊三郎らの地下街で見聞きしてきたことを詳しく話して聞かせることにした。
源次郎にとっては驚きも驚きだ。まさか三浦屋伊三郎と汰一郎の双方から同じ案件で相談を受けるとは思ってもみなかったからだ。
「おそらくだが、汰一郎の方では俺たちが伊三郎の親父さんから依頼を受けたことは知らねえはずだ。たまたま偶然――という可能性もゼロではねえが、どうにもタイミングが良過ぎやしねえか?」
汰一郎には何か思惑があるのか、はたまた本当にただの偶然なのか――迷うところではあるが、盗聴器を仕掛けていったことがどうにも引っ掛かる。その盗聴器だが、今日も回収せずに帰ったという。
「では第一応接室にはまだ盗聴器が仕掛けられたままということか」
「は――申し訳ございません。もしかしたら我々が本当に力になってくれそうかということを探りたかったのやも知れませんが……」
源次郎としては汰一郎が何か良からぬことを企んでいるなどとは思いたくないのだろう。その気持ちは理解できるが、鐘崎の立場からすれば私情を挟まずに冷静に判断するのも大事といえる。とにかく現段階では誰にどんな思惑があるのかがはっきりしないのは事実だ。もうしばらく全員を泳がせつつ動向を探ることとなった。
◇ ◇ ◇
その夜、鐘崎は紫月と組員数名を連れて再び地下の遊郭街を訪れたものの、代田らは顔を見せないまま何事もなく一夜が明けた。ただし、客足がめっきり減っているのは確かなようで、街は何とも奇妙なほどに閑散とした雰囲気であった。
「こうなりゃ例の盗聴器を逆手に利用して一芝居打ってみるしかねえか――」
汰一郎に同情する素振りを見せて、遊郭街を荒らしている代田らを成敗する段取りを聴かせるのである。組を上げて動いてくれると知れば、何かしら動きを見せるかも知れない。そこで汰一郎の真の目的が掴めるだろうと思うのだ。
翌朝を迎え、地下遊郭街からの帰り道、鐘崎は組員たちを伊三郎の元へ残すと、紫月を連れて汐留の周邸を訪ねることにした。
ちょうど週末の連休に入ったばかり、周と冰も動向が気になっていたようで、快く迎えてくれた。
「無法者の名は代田憲という見晴銀行頭取の息子だそうで、汰一郎君の証券会社とも取引がある男のようです。代田はあまり素行の良ろしくない連中を引き連れては最上屋へ顔を出し、荒らしまくっているとか――」
このままではいつ涼音に危険が及ばないとも限らない、是非とも助力をお願いしたいと汰一郎は必死だったそうだ。
「ふむ、まさかそういう展開になるとはな――」
鐘崎は伊三郎らの地下街で見聞きしてきたことを詳しく話して聞かせることにした。
源次郎にとっては驚きも驚きだ。まさか三浦屋伊三郎と汰一郎の双方から同じ案件で相談を受けるとは思ってもみなかったからだ。
「おそらくだが、汰一郎の方では俺たちが伊三郎の親父さんから依頼を受けたことは知らねえはずだ。たまたま偶然――という可能性もゼロではねえが、どうにもタイミングが良過ぎやしねえか?」
汰一郎には何か思惑があるのか、はたまた本当にただの偶然なのか――迷うところではあるが、盗聴器を仕掛けていったことがどうにも引っ掛かる。その盗聴器だが、今日も回収せずに帰ったという。
「では第一応接室にはまだ盗聴器が仕掛けられたままということか」
「は――申し訳ございません。もしかしたら我々が本当に力になってくれそうかということを探りたかったのやも知れませんが……」
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◇ ◇ ◇
その夜、鐘崎は紫月と組員数名を連れて再び地下の遊郭街を訪れたものの、代田らは顔を見せないまま何事もなく一夜が明けた。ただし、客足がめっきり減っているのは確かなようで、街は何とも奇妙なほどに閑散とした雰囲気であった。
「こうなりゃ例の盗聴器を逆手に利用して一芝居打ってみるしかねえか――」
汰一郎に同情する素振りを見せて、遊郭街を荒らしている代田らを成敗する段取りを聴かせるのである。組を上げて動いてくれると知れば、何かしら動きを見せるかも知れない。そこで汰一郎の真の目的が掴めるだろうと思うのだ。
翌朝を迎え、地下遊郭街からの帰り道、鐘崎は組員たちを伊三郎の元へ残すと、紫月を連れて汐留の周邸を訪ねることにした。
ちょうど週末の連休に入ったばかり、周と冰も動向が気になっていたようで、快く迎えてくれた。
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