1,108 / 1,212
三千世界に極道の涙
8
しおりを挟む
頭取の息子の名は代田憲といった。歳は三十七――、二十年前に事件を起こした時は十七歳の高校生だったということになる。汰一郎より七つほど上だが、現在は父親が頭取を務める見晴銀行で営業を担当しているようだ。
「同じ営業マン同士、接点があったのかも知れんな」
この地下街での接待を口実に代田に近付き、交友を深めることで探りを入れているのかも知れない。
「俺が調べたところでは、代田憲は四十近くになった今でも昔からの気質はあまり変わっていないようだ。頭取の息子という立場をいいことに、仕事はいい加減。態度もデカく、社内での評判はあまり良いとは言えんな」
そんな男だ、この地下街で無体を働いたとしても不思議はない。
「問題は汰一郎とその代田がどのように関わっているかということだ。仮に代田と近付きになる為に汰一郎がここへの出入りを手引きしたとして、目的は何だというのだ」
おそらく代田の方では汰一郎の顔さえ覚えていないのだろうから、よもや親の仇として狙われているなどとは夢にも思っていないだろう。
皆で考え込む中、紫月がとある仮定を口にしてみせた。
「なあ、こういうのはどうだ? 汰一郎は代田憲が大人になった今も相変わらずのならず者と知って、敢えてここを紹介した。おそらく代田のことだから、ここでもイチャモンをつけたり芸妓に手を出したり、迷惑行為をするだろうことを予想して――だ。それによって代田がパクられれば、親父の頭取もろとも失脚させられる。イコール復讐になると考えた――とか」
確かに一理あるかも知れない。
「だが、源さんを訪ねて盗聴器まで仕掛けた理由は何だ。それに――もしも復讐を考えているんだとすれば、暴行騒ぎでパクられる程度で気が済むだろうか。見晴銀行といえば国内じゃ有名どころだからな。そこの頭取の息子となればマスコミも一時は騒ぎ立てるだろうが、実際罪としてはそう重くもならんだろう。せいぜい執行猶予がつくか、実刑を食らったとしてもすぐにシャバへ出てくるのは目に見えてる」
その程度で汰一郎の気が済むかというところだ。
「源さんを訪ねて来たのは……本当にこれまでの礼を言いたかっただけとか……? あ、けどそれなら盗聴器の意味が分かんねえか……」
「いずれにせよ、代田の一味がこの地下街を荒らしているのは事実だ。まずはそれを制圧するとして、汰一郎の出方を待つしかあるまい。うちの応接室に仕掛けた盗聴器を回収しにヤツが再び姿を現した時は、俺も源さんと共に会ってみようと思う」
ひとまず今晩から早速用心棒として鐘崎組の若い衆数人をこの地下街に常駐させることに決めた。
「それから――伊三郎の親父さん。町永汰一郎の証券会社が贔屓にしていた置屋が分かれば教えていただけないか」
「はい。大空証券様でございますな。その方々にご贔屓いただいているのは最上屋という店でございます。この街のちょうど半ば辺りに位置しておりましてな。涼音という芸妓が御職を張っており、なかなかに人気が高うございます。店のご主人も昔からよう存じておりますが、芸事のレベルも高く、粋を重んじるたいへんいい店でございますよ」
「最上屋か――。その店で少し話を聞きたいのだが――」
「ではご案内いたしましょう」
鐘崎らは最上屋に出向いて汰一郎らの様子を訊くことにした。
「同じ営業マン同士、接点があったのかも知れんな」
この地下街での接待を口実に代田に近付き、交友を深めることで探りを入れているのかも知れない。
「俺が調べたところでは、代田憲は四十近くになった今でも昔からの気質はあまり変わっていないようだ。頭取の息子という立場をいいことに、仕事はいい加減。態度もデカく、社内での評判はあまり良いとは言えんな」
そんな男だ、この地下街で無体を働いたとしても不思議はない。
「問題は汰一郎とその代田がどのように関わっているかということだ。仮に代田と近付きになる為に汰一郎がここへの出入りを手引きしたとして、目的は何だというのだ」
おそらく代田の方では汰一郎の顔さえ覚えていないのだろうから、よもや親の仇として狙われているなどとは夢にも思っていないだろう。
皆で考え込む中、紫月がとある仮定を口にしてみせた。
「なあ、こういうのはどうだ? 汰一郎は代田憲が大人になった今も相変わらずのならず者と知って、敢えてここを紹介した。おそらく代田のことだから、ここでもイチャモンをつけたり芸妓に手を出したり、迷惑行為をするだろうことを予想して――だ。それによって代田がパクられれば、親父の頭取もろとも失脚させられる。イコール復讐になると考えた――とか」
確かに一理あるかも知れない。
「だが、源さんを訪ねて盗聴器まで仕掛けた理由は何だ。それに――もしも復讐を考えているんだとすれば、暴行騒ぎでパクられる程度で気が済むだろうか。見晴銀行といえば国内じゃ有名どころだからな。そこの頭取の息子となればマスコミも一時は騒ぎ立てるだろうが、実際罪としてはそう重くもならんだろう。せいぜい執行猶予がつくか、実刑を食らったとしてもすぐにシャバへ出てくるのは目に見えてる」
その程度で汰一郎の気が済むかというところだ。
「源さんを訪ねて来たのは……本当にこれまでの礼を言いたかっただけとか……? あ、けどそれなら盗聴器の意味が分かんねえか……」
「いずれにせよ、代田の一味がこの地下街を荒らしているのは事実だ。まずはそれを制圧するとして、汰一郎の出方を待つしかあるまい。うちの応接室に仕掛けた盗聴器を回収しにヤツが再び姿を現した時は、俺も源さんと共に会ってみようと思う」
ひとまず今晩から早速用心棒として鐘崎組の若い衆数人をこの地下街に常駐させることに決めた。
「それから――伊三郎の親父さん。町永汰一郎の証券会社が贔屓にしていた置屋が分かれば教えていただけないか」
「はい。大空証券様でございますな。その方々にご贔屓いただいているのは最上屋という店でございます。この街のちょうど半ば辺りに位置しておりましてな。涼音という芸妓が御職を張っており、なかなかに人気が高うございます。店のご主人も昔からよう存じておりますが、芸事のレベルも高く、粋を重んじるたいへんいい店でございますよ」
「最上屋か――。その店で少し話を聞きたいのだが――」
「ではご案内いたしましょう」
鐘崎らは最上屋に出向いて汰一郎らの様子を訊くことにした。
9
お気に入りに追加
879
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!
ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生!
せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい!
魔法アリなら色んなことが出来るよね。
無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。
第一巻 2022年9月発売
第二巻 2023年4月下旬発売
第三巻 2023年9月下旬発売
※※※スピンオフ作品始めました※※※
おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる