極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の涙

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「汰一郎君の話では証券会社に勤めて営業として働いているとか――。上司にも恵まれて真っ当に生きている、これも今まで気に掛けてくれた私のお陰だと言ってくれたのですが……まさか盗聴器を仕掛けて帰るなど……」
 今は現役を退いたといえど精鋭の源次郎だ。素人の青年がソファに盗聴器を仕込むのを見逃すはずもなかった。
「汰一郎君の言うには近々身を固めるとかで、相手の女性を私にも紹介したいと言っておりましたから……おそらくは再度ここを訪ねて来るつもりでいるものと思われます」
 盗聴器自体は始末しようと思えば容易だが、彼の目的を探る為にもしばらくは気付かぬふりをすべきかとも思っている――源次郎はそう言って肩を落とした。
「彼はこの邸の造りなど把握しているわけもないでしょうから、応接室に仕掛ければ何らかの情報が拾えるとでも思ったのでしょうが……」
 鐘崎はそこまで黙って話を聞いていたが、一通りの状況が分かった時点でようやくと口を開いた。
「だが、その町永汰一郎にとって源さんはいわば恩人でもあるわけだろう? ヤツがこの邸を探りたい理由は何だと思う」
 源さんには心当たりがあるかと訊いたところ、思いもよらない答えが返ってきて、鐘崎は驚かされてしまった。
「――おそらくは復讐かと」
「…………!? 復讐?」
「あの時、彼の両親だけを救ってやることができなかったわけですが、他の三家族は皆、汰一郎の同級生の家族でした。両親亡き後も彼らは級友として同じ小学校に通ったわけですが――そんな中で汰一郎はこれまでと何ら変わりのない友達を目の当たりにし、何故に自分だけがこのような不幸に見舞われなければならないのかと思ったはずです。あの時、彼の両親だけを救えなかった私を恨んだとしても不思議はありません」

 結局、鐘崎は応接室の盗聴器をそのままにすることに同意し、しばらくは様子を見ようということになった。
 父の僚一は例によって海外での仕事に出ていて留守である。彼がいれば何かと知恵を授けてくれそうだが、とにかくは自室へ戻り、夕卓を囲みながら紫月にもその旨を伝えた。
「そんなことがあったんか……。けどよ、その汰一郎ってヤツにとって源さんは成人するまで生活費を欠かさず援助してくれた恩人だべ? 彼の両親だけが亡くなっちまったのは気の毒としか言いようがねえが、そいつぁ源さんのせいじゃねえ。恨むとしてもその時財布を掏ったっていう少年グループに向けられるべきじゃねえか?」
 確かに紫月の言うことも一理ある。
「まあ復讐ってのは単に源さんの想像ともいえる。もしかしたら目的は復讐ではなく、源さんにその時の少年グループを見つけ出して欲しいと思っている――ということも考えられる」
「その汰一郎ってヤツは源さんの――ってよりもウチの、鐘崎組の素性を知ってんのか?」
「おそらくはな。源さんが彼らの仲裁に入った事件の時、一応は警察も介入している。当時十歳そこらの子供だったとしても、生活費の援助まで続けてくれていたんだ。源さんがどこの誰なのかということを、施設を通して汰一郎はその素性を知ったはずだ。極道と言われているうちの組ならば、当時の犯人たちを捜すことも可能だと思ったのかも知れん。だが、もしそれが目的だとしたら、少年グループを捜し当てた段階で復讐を成し遂げるという可能性も出てくるがな」
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