極道恋事情

一園木蓮

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陰謀

44(陰謀 完結)

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「い、いやぁ……すまんな……。俺たちもその、今二人で反省してたところだ……」
 真田に喝を食らって、言い訳も逃げ場も失った周はボリボリと尻を掻きながら視線を泳がせるしかできず仕舞い――冰もまた慌ててベッドから飛び降りては、平身低頭で二人揃ってうなだれた。
「……すみません! ご、ご迷惑をお掛けしました!」
「この通りだ! 明日からはシャンとする」
 パンッと胸前で手を合わせ、シュンと肩を落とす夫婦を前に、
「よろしい。ではまず湯に浸かってお身体をお癒しなされ! その後にしっかり栄養を摂られること!」
 堂々、胸を張った真田にそう言われて、夫婦はちらりと互いを見やってはペロリと舌を出した。
「はは、親父に雷食らっちまったな」
「だね! そういえば真田さんに叱られたの初めてかも……?」
「俺はガキの頃から割としょっちゅう小言を食らっているぞ。真田はああ見えて意外に厳しいんだ」
「そうなの? ふふ、何となく黄のじいちゃんの怒った顔思い出しちゃった」
 そういえば小さい頃は黄老人に叱られたこともあったなぁと、冰は懐かしそうに頬をゆるめている。
「坊っちゃまぁ、冰さんー……」
 コソコソと小声で苦笑いを交わす二人のお尻を持っていたハタキで軽くペシッと叩き、
「はい、行った行った! 湯が冷めない内にお早く風呂を済ませて来なされ! その後はお食事ですぞ! しっかり栄養を摂ってサボった二日分のお仕事を取り戻されますように!」
 ガラガラとわざとらしい音を立てながら銀のワゴンを引いて寝室へと向かう真田を見つめながら、二人肩をすくめて再びペロリと舌を出し合った。
「是! 親父殿! 了解だ」
「精進いたしまーす!」
「よろしい! お風呂とお食事が済んだら李さんと劉さんにもご挨拶に出向かれますよう」
「ああ、合点だ!」
「反省してます、爹!」
 ポリポリ、タジタジと頭を掻きながら風呂場へと向かう若夫婦の後ろ姿を横目に、真田は「ふう」と苦笑まじりに溜め息をもらした。
「まあ、このくらいで勘弁して差し上げましょうな。まったく……仲良きことはよいことではありますがな」
 そう独りごちながらフッと笑む。
 あんな事件のあった後だ。真田とて夫婦の気持ちは充分過ぎるほど分かっているし、二人が丸一日中離れたくなかったという想いも、裏を返せば事件によって夫婦の間に溝ができずに済んだ証といえる。真田にとっても安心できるし、喜ばしいことなのだ。
 そこを敢えて叱るのは、二人してサボってしまったという後ろめたさを和らげてやる一種の潤滑油に他ならない。いわばこれも真田の愛情表現なのだ。
 周も冰もそんな真田の気持ちをよくよく理解しているから、ペロリと舌を出しつつ有り難いと思うのだった。
「さて――と! では始めますかな」
 やれやれと表情をゆるませながら、ぐちゃぐちゃに乱れたベッドリネンを頼もしげに取り変える真田であった。

 その頃、風呂場では二日ぶりの湯に浸かりながら若夫婦は二人まったりと頬を茜色に染めていた。
「ね、白龍。幸せだね、俺たち」
 何も言わずに社を守ってくれた李と劉。わざとらしい大袈裟な挙動で、コミカルに叱咤の言葉を口にしながらもせっせと世話を焼いてくれる真田。
 今回のような窮地に陥っても全力で支えてくれる鐘崎や紫月ら周囲のあたたかい思い。それらすべてに包まれて、こうして共にいられる幸せをしみじみと痛感する。
「ああ、本当にな。俺たちは――」

 こうして皆に支えられながら生きているのだな。

 この幸せがいつまでも永く続くようにまた明日からがんばろう。手と手を取り合って、精一杯生きていこう。
 そんな思いに微笑み合い、幸せを噛み締め合う一心同体の周と冰であった。

陰謀 - FIN -
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