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陰謀
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帰りの車中で周は愛しい冰の肩をしっかりと抱き寄せたままで李らに状況を話していた。
「あの女の言っていることはほぼ嘘だ。中国語はしっかりと理解していて言葉も流暢だった。息子が俺の子かどうかというのは置いておいて、あの母子が何か目的を持って俺に近付いて来たのは確かだろう。正直なところあの女は何か余程の事情を抱えているか、誰かに脅されて操られているように思えてならん」
「――とすると、やはり裏であの母子を動かしている者がいると?」
「今の段階ではまだ憶測に過ぎんがな。とにかくもう少し様子を見るしかなかろう。カネと曹さんも調べを進めてくれているから、そう時を待たずにあの女の目的が明らかになるだろう。俺たちは女に直接接触してくる者がいないか目を光らせるとしよう」
「――かしこまりました。鄧の方でもブライトナー医師のご助力によって新たな事実が上がってくるやも知れませんし」
「ふむ、そうだな。それから――これも俺の勘に過ぎんが、女には大切に思っている相手がいるように思える」
「大切な相手――でございますか?」
「おそらく男だろう。あの女には心から好いた男がいる――。それがどこの誰なのかは分からんが、もしかしたらその男の為に必死に動いているのかも知れん」
「といいますと――?」
「その男を盾に取られて俺と接触を図るように脅されている――という可能性もある。兄貴からの情報で、あの息子には俳優をしている父親がいるということだが、もしかしたらその男を好いていると仮定すれば全体像が見えてくるような気がしてな」
「ではあの息子さんはその男性との間にできた子供かも知れないと――?」
「可能性としては無くはないかもな」
それまで黙ってやり取りを聞いていた冰も、先程話した息子との会話で不思議に思ったことがあると言う。
「俺も……あのアーティット君が何となく寂しそうに思えたっていうか……。言葉じりは確かに乱暴と思えるところもあるんだけど、あれは彼がわざとそういうふうに繕っているんじゃないかなって感じたんだよね。そんなふうに……粋がった言い方をしなきゃならない自分を責めているようにも思えてさ」
やはり彼ら母子には何かこちらに言えない理由があるように思えてならないと言うのだ。
「でもあの女の人が十五年前に白龍を助けてくれたのは事実だもの。もしも何か困っていることがあるなら力になってあげたいって思うんだ」
本当に、冰というのはどこまでも気持ちのやさしい男だ。普通ならば自分の夫に隠し子がいたかも知れないなどと聞けば、錯乱し取り乱して当然のところ、自分の気持ち以前に相手のことを思いやるのを忘れない。それも無理をしてそう装っているのではなく、本心から力になれることがあればと思っているのが分かるから、周にとっては何ものにも代え難い気持ちになるわけだ。
「冰、ありがとうな。こんな事態だってのにお前はそうして皆を気遣い、俺を支えてくれる――。本当に有難いと思っている」
抱き寄せていた肩を更に強く引き寄せて、周は心から愛しいと思う気持ちのまま黒髪にくちづけた。
「ううん、そんなの――」
俺たちは一心同体の夫婦だもの。当たり前だよ。
やわらかに微笑んだ視線がそう言っているようで、周は堪らない気持ちにさせられるのだった。
「あの女の言っていることはほぼ嘘だ。中国語はしっかりと理解していて言葉も流暢だった。息子が俺の子かどうかというのは置いておいて、あの母子が何か目的を持って俺に近付いて来たのは確かだろう。正直なところあの女は何か余程の事情を抱えているか、誰かに脅されて操られているように思えてならん」
「――とすると、やはり裏であの母子を動かしている者がいると?」
「今の段階ではまだ憶測に過ぎんがな。とにかくもう少し様子を見るしかなかろう。カネと曹さんも調べを進めてくれているから、そう時を待たずにあの女の目的が明らかになるだろう。俺たちは女に直接接触してくる者がいないか目を光らせるとしよう」
「――かしこまりました。鄧の方でもブライトナー医師のご助力によって新たな事実が上がってくるやも知れませんし」
「ふむ、そうだな。それから――これも俺の勘に過ぎんが、女には大切に思っている相手がいるように思える」
「大切な相手――でございますか?」
「おそらく男だろう。あの女には心から好いた男がいる――。それがどこの誰なのかは分からんが、もしかしたらその男の為に必死に動いているのかも知れん」
「といいますと――?」
「その男を盾に取られて俺と接触を図るように脅されている――という可能性もある。兄貴からの情報で、あの息子には俳優をしている父親がいるということだが、もしかしたらその男を好いていると仮定すれば全体像が見えてくるような気がしてな」
「ではあの息子さんはその男性との間にできた子供かも知れないと――?」
「可能性としては無くはないかもな」
それまで黙ってやり取りを聞いていた冰も、先程話した息子との会話で不思議に思ったことがあると言う。
「俺も……あのアーティット君が何となく寂しそうに思えたっていうか……。言葉じりは確かに乱暴と思えるところもあるんだけど、あれは彼がわざとそういうふうに繕っているんじゃないかなって感じたんだよね。そんなふうに……粋がった言い方をしなきゃならない自分を責めているようにも思えてさ」
やはり彼ら母子には何かこちらに言えない理由があるように思えてならないと言うのだ。
「でもあの女の人が十五年前に白龍を助けてくれたのは事実だもの。もしも何か困っていることがあるなら力になってあげたいって思うんだ」
本当に、冰というのはどこまでも気持ちのやさしい男だ。普通ならば自分の夫に隠し子がいたかも知れないなどと聞けば、錯乱し取り乱して当然のところ、自分の気持ち以前に相手のことを思いやるのを忘れない。それも無理をしてそう装っているのではなく、本心から力になれることがあればと思っているのが分かるから、周にとっては何ものにも代え難い気持ちになるわけだ。
「冰、ありがとうな。こんな事態だってのにお前はそうして皆を気遣い、俺を支えてくれる――。本当に有難いと思っている」
抱き寄せていた肩を更に強く引き寄せて、周は心から愛しいと思う気持ちのまま黒髪にくちづけた。
「ううん、そんなの――」
俺たちは一心同体の夫婦だもの。当たり前だよ。
やわらかに微笑んだ視線がそう言っているようで、周は堪らない気持ちにさせられるのだった。
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