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陰謀
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兄夫婦からの連絡を受けた周と冰は、驚きつつも一歩前進できたことにホッと胸を撫で下ろす思いでいた。
「あのボウズが子役をしていたとはな――」
『今、こちらでは曹来が更に詳しい経歴を洗ってくれている。素性の洗い出しはヤツの十八番分野だから早々にいろいろと明らかになろう』
「すまない、兄貴。俺の方でもその子役について早速調べることにする!」
『ああ、それがいい。双方から調べれば新たな事実が上がってくるやも知れんしな。それで、名前はどうなのだ? スタッフロールにあった子役の名はチャンサンだったが』
「女から紹介された名とは違うようだな……。あの娘、スーリャンからはアーティットという名だと聞かされた。映画には芸名で出ていたのかも知れません」
『そうか。まあ映画に出るくらいだ。所属事務所を当たれば素性はすぐに知れるだろうからな。その点、曹来は本業だ。弁護士という立場で顔も利く。二、三日もあればすっかり調べはつくはずだ』
「兄貴、手を煩わせてすまない……」
『そんなことは気にするな。お互い様だ。すまないなんて思わずに頼ってくれた方が俺たちも嬉しいさ』
兄の厚情に、側で聞いていた冰もまた真摯に礼を述べた。
「お兄様、お姉様、ありがとうございます! お手を煩わせて恐縮ですが、本当に有り難く思っております!」
すると風の後ろから心配そうな顔つきの美紅が顔をのぞかせた。
『冰、白龍! ご心配でしょうけど、くれぐれも身体には気をつけるのよ。何かあれば……夜中でも全然構わないわ。遠慮なくいつでも連絡してちょうだいね』
美紅は生まれたばかりの赤ん坊にミルクを与えたり、夜泣きであやしたりしているので、昼夜問わずいつでも連絡して欲しいと言ってくれる。周も冰もそんな義姉の気持ちを心底有り難く、また頼りにも思うのだった。
『それで焔、親父たちのことだが――。事実がはっきりするまでは親父たちには黙っていた方が良いか?』
いずれにせよ、いつかは報告せねばならないだろうが、ある程度調査が進んでからでも構わないと言った兄に、周もまたその心遣いを有り難く思う。
「……そうだな。既にカネと僚一が動いてくれているから――遅かれ早かれ親父の耳には入るだろう。他所から噂が届くよりも俺本人から親父には報告すべきと思っています」
『そうか。まあ確かにな。それがいいかも知れん。裏の世界は情報が伝わるのも早い。お前の言うように横から話が耳に届くよりはいいかも知れんな』
風はリモートで報告するなら自分も一緒に立ち会うぞと言ってくれた。
「すまない、兄貴。助かります。本来俺が香港を訪れて直に報告すべきですが――」
『構わん。今は女と息子もそちらに――日本にいるのだろう? これが陰謀だとすれば、どこからか女にコンタクトを試みてくるような動きがあるかも知れん。お前の方ではそちらの様子にしっかり専念してくれ。調査は俺たちの方でも全力を尽くす』
心強い言葉に胸を熱くする周と冰だった。
「あのボウズが子役をしていたとはな――」
『今、こちらでは曹来が更に詳しい経歴を洗ってくれている。素性の洗い出しはヤツの十八番分野だから早々にいろいろと明らかになろう』
「すまない、兄貴。俺の方でもその子役について早速調べることにする!」
『ああ、それがいい。双方から調べれば新たな事実が上がってくるやも知れんしな。それで、名前はどうなのだ? スタッフロールにあった子役の名はチャンサンだったが』
「女から紹介された名とは違うようだな……。あの娘、スーリャンからはアーティットという名だと聞かされた。映画には芸名で出ていたのかも知れません」
『そうか。まあ映画に出るくらいだ。所属事務所を当たれば素性はすぐに知れるだろうからな。その点、曹来は本業だ。弁護士という立場で顔も利く。二、三日もあればすっかり調べはつくはずだ』
「兄貴、手を煩わせてすまない……」
『そんなことは気にするな。お互い様だ。すまないなんて思わずに頼ってくれた方が俺たちも嬉しいさ』
兄の厚情に、側で聞いていた冰もまた真摯に礼を述べた。
「お兄様、お姉様、ありがとうございます! お手を煩わせて恐縮ですが、本当に有り難く思っております!」
すると風の後ろから心配そうな顔つきの美紅が顔をのぞかせた。
『冰、白龍! ご心配でしょうけど、くれぐれも身体には気をつけるのよ。何かあれば……夜中でも全然構わないわ。遠慮なくいつでも連絡してちょうだいね』
美紅は生まれたばかりの赤ん坊にミルクを与えたり、夜泣きであやしたりしているので、昼夜問わずいつでも連絡して欲しいと言ってくれる。周も冰もそんな義姉の気持ちを心底有り難く、また頼りにも思うのだった。
『それで焔、親父たちのことだが――。事実がはっきりするまでは親父たちには黙っていた方が良いか?』
いずれにせよ、いつかは報告せねばならないだろうが、ある程度調査が進んでからでも構わないと言った兄に、周もまたその心遣いを有り難く思う。
「……そうだな。既にカネと僚一が動いてくれているから――遅かれ早かれ親父の耳には入るだろう。他所から噂が届くよりも俺本人から親父には報告すべきと思っています」
『そうか。まあ確かにな。それがいいかも知れん。裏の世界は情報が伝わるのも早い。お前の言うように横から話が耳に届くよりはいいかも知れんな』
風はリモートで報告するなら自分も一緒に立ち会うぞと言ってくれた。
「すまない、兄貴。助かります。本来俺が香港を訪れて直に報告すべきですが――」
『構わん。今は女と息子もそちらに――日本にいるのだろう? これが陰謀だとすれば、どこからか女にコンタクトを試みてくるような動きがあるかも知れん。お前の方ではそちらの様子にしっかり専念してくれ。調査は俺たちの方でも全力を尽くす』
心強い言葉に胸を熱くする周と冰だった。
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