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身勝手な愛
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その夜は周の実母のあゆみも交えて家族皆で賑やかな食卓を囲むこととなった。兄夫婦の生まれたばかりの赤ん坊を取り囲んでは、皆で抱っこの順番待ちとなったり、久しぶりに和気藹々とした幸せなひと時を過ごすことができて、誰もが笑顔であふれる団欒の会食会は夜遅くまで続いたのだった。
そうしてそれぞれの寝室へと戻った後、周と冰もまた忙しなかった数日を振り返りながら、無事に平穏が戻ってきたことを安堵し合っていた。
「白龍……今回もまた心配を掛けちゃって……ごめんなさい。俺……ほんとに……」
「冰――」
ふわりと抱き寄せ、艶のある黒髪に口づける。
「謝るのは俺の方だ。怖い思いをさせた。お前を守ってやる、愛していると言いながら――いつも俺の関係でお前を巻き込んでしまいすまないと思っている」
「白龍……ううん、そんなこと……。元はといえば俺がボケっとしてたせいで皆さんにもご迷惑を掛けることになっちゃって」
冰としては重鎮方の捜索に助力するどころか、逆に面倒事を増やして周の立場を窮地に追い込んでしまったのではないかと反省しきりなのだ。
「今回はたまたま重鎮の皆さんとお会いできたから良かったけど……もし拉致した相手が全く別の人だったらと思うと……」
「まあな。そういった可能性も確かにあったわけだが、俺も気配りが足りなかった。正直なところ日本での平穏な日々に慣れ過ぎていた感もあるのだろうな」
お互い様だと言って周は再びその懐に愛しき者を抱き締めた。
「それはそうと――お前、あの重鎮方から俺の両親の経緯を聞かされたそうだが」
あの後、ファミリーの拠点である高楼に戻るとすぐに重鎮方から呼び止められて、隼とあゆみの馴れ初めについて冰に話して聞かせたのだと報告があったのだそうだ。
「あ……うん、そう。皆さん、当時お父様と一緒に鉱山の視察について行かれたって」
「そういえば両親の出会いについてはお前に話したことがなかったな」
周はわずか苦笑と共に小さな溜め息をついては窓の外に視線をやった。
「両親の馴れ初めを知ったのは俺がまだガキの頃だった。当時親父と継母から聞いた話では実母が親父の命の恩人で、兄貴と俺は母親が違うんだということだけだった。大人になってから親父と実母の間に子供――つまり俺が生まれるような出来事があったと理解した時は複雑な気持ちになったものだ」
周は物心ついた時から継母の香蘭には大切にされている自覚があったし、何かにつけて側にいる実母の存在についても、彼女もまた母親の一人であるのだということはおぼろげに理解していたらしい。継母に対して申し訳ないという思いを抱くようになったのは思春期の終わり頃だったそうだ。
そうしてそれぞれの寝室へと戻った後、周と冰もまた忙しなかった数日を振り返りながら、無事に平穏が戻ってきたことを安堵し合っていた。
「白龍……今回もまた心配を掛けちゃって……ごめんなさい。俺……ほんとに……」
「冰――」
ふわりと抱き寄せ、艶のある黒髪に口づける。
「謝るのは俺の方だ。怖い思いをさせた。お前を守ってやる、愛していると言いながら――いつも俺の関係でお前を巻き込んでしまいすまないと思っている」
「白龍……ううん、そんなこと……。元はといえば俺がボケっとしてたせいで皆さんにもご迷惑を掛けることになっちゃって」
冰としては重鎮方の捜索に助力するどころか、逆に面倒事を増やして周の立場を窮地に追い込んでしまったのではないかと反省しきりなのだ。
「今回はたまたま重鎮の皆さんとお会いできたから良かったけど……もし拉致した相手が全く別の人だったらと思うと……」
「まあな。そういった可能性も確かにあったわけだが、俺も気配りが足りなかった。正直なところ日本での平穏な日々に慣れ過ぎていた感もあるのだろうな」
お互い様だと言って周は再びその懐に愛しき者を抱き締めた。
「それはそうと――お前、あの重鎮方から俺の両親の経緯を聞かされたそうだが」
あの後、ファミリーの拠点である高楼に戻るとすぐに重鎮方から呼び止められて、隼とあゆみの馴れ初めについて冰に話して聞かせたのだと報告があったのだそうだ。
「あ……うん、そう。皆さん、当時お父様と一緒に鉱山の視察について行かれたって」
「そういえば両親の出会いについてはお前に話したことがなかったな」
周はわずか苦笑と共に小さな溜め息をついては窓の外に視線をやった。
「両親の馴れ初めを知ったのは俺がまだガキの頃だった。当時親父と継母から聞いた話では実母が親父の命の恩人で、兄貴と俺は母親が違うんだということだけだった。大人になってから親父と実母の間に子供――つまり俺が生まれるような出来事があったと理解した時は複雑な気持ちになったものだ」
周は物心ついた時から継母の香蘭には大切にされている自覚があったし、何かにつけて側にいる実母の存在についても、彼女もまた母親の一人であるのだということはおぼろげに理解していたらしい。継母に対して申し訳ないという思いを抱くようになったのは思春期の終わり頃だったそうだ。
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