極道恋事情

一園木蓮

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身勝手な愛

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「ご心配には及びません。どうせまたウチのやつがやらかしたことでしょうからな」
 チラリと冰を見やりながらニッと笑む。その微笑みに深い夫婦の絆を感じてか、重鎮方は『そうか、そうか』といったように目頭を熱くした。
「焔君、赦してくだされ――。わしらが愚かじゃった」
「この通りじゃ。じゃが――誠、あなた方ご夫婦は……見事であられる。このような立派なご伴侶を持たれた焔君は幸せじゃの」
 重鎮方はそう言うと、皆揃って冰を見つめ、深々と頭を下げてよこした。
「ありがとうございましたじゃ、姐様――!」
 それには救助にやって来たファミリーの側近たちも驚いた様子で目を丸めてしまったほどだ。冰を『姐様』と呼んだことはもちろんだが、重鎮方六人が六人とも目頭を熱くしながら感動の笑みを浮かべて涙ぐんでいるのだ。冰がどのように彼らを守り通したのか、聞かずとも窺えるようだった。

 そうして重鎮方が無事に保護されて行った後、だだっ広い倉庫内には周と冰、それに鐘崎と紫月、李に源次郎といったお馴染みの面々だけが郭芳を取り囲むようにして佇んでいた。
「さて――郭芳。言い訳があれば聞いてやる」
 周の低い声音に郭芳はビクリと身体を震わせた。
「も、申し訳ありません……! か、覚悟は……できています……」
「何の覚悟だ」
「……は! その……」
「俺の一等大事な者に手を出した覚悟か?」
「……は、その通りで……。ボスのご側近方と……老板の奥方様を拐って監禁したのは私です。ど……うぞ、如何なるご制裁も……厭いませぬ……」
「如何なる――ね。父の側近を監禁した償いは俺の感知するところではない。後程父と兄から直々に沙汰が降ろうが、俺の妻を拐ったケジメはこの俺の手でつけさせてもらう」
「……は、も、申し訳ございません……! あなたに始末される覚悟はとうにできております……」
「よろしい。では望み通りあの世へ送ってやろう」
 言うか終わらない内に周は初動なく郭芳の襟元を掴み上げては、重い一撃の拳を見舞った。
 郭芳は数メートルほど吹っ飛び、倉庫床にぐん伸びてしまった。かろうじて意識はあったものの、既に今の一撃で立ち上がることさえできない虫の息だ。朧げな視界の先にぼんやりと映り込んだのは、気の毒そうに眉を八の字に寄せた冰の顔だった。
「郭芳さん、しっかり!」
「……あ……んた……」
「うん。もう大丈夫。痛かっただろうけど、これくらいは我慢してよね? あの人にもケジメってもんがあるんだからさ」
 そう言って申し訳なさそうに笑む。
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