極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
上 下
1,044 / 1,212
身勝手な愛

33

しおりを挟む
「ふぅん、そう……。だったら質問。ねえ郭芳さん、もしも俺が本気であの次男坊に惚れてて、あの人も本当に俺を妻にしたいほど愛してたとしたら、どうするつもりだったわけ? 男同士で愛してるだの何だのとやってるせいであの人がマフィアの心を失くしちゃったと考える? それともマフィアの心さえ忘れてなければ、あの人に妻がいようがアンタはそれで満足できるってこと?」
 まあ、その妻というのが『俺』に限った話じゃなく、別の誰かだったとしてもだけど――と冰は訊いた。
「そ……れは、もちろんだ。あの人がマフィアの心を忘れてさえいなければ――私は充分満足だ。私がファミリーを抜けてヨーロッパでモデルになろうとしたのも、元はと言えばもっと大きな世界の舞台で通用するモデルになって……もっと重要な情報提供ができると思ったからだ。そうすればあの人のお立場ももっと上がる。いずれはファミリーのトップに立ってくださる日が来るかも知れないと。その為なら私にできることは何でもしたいと本気でそう思っていた――! なのに……私はモデルとしても芽が出ず、東南アジアに逃れて大きなヤマを踏もうとして失敗。十年の刑を食らって辛酸を舐めた……。あの人の役に立ちたい気持ちはあるのに――いつも上手くいかずに、李狼珠のようにあの人のお側に立つことすら許されない……。こんな私だ……」
 ともすれば涙をこぼしそうになりながらも郭芳は続けた。
「あの人がボスの後を継いで……この香港の裏の世界で君臨してくださるのなら、他には何も望まない。キミがあの人の妻というなら私にとっては大事な姐さんだ。この老人方がどんなに邪魔しようが反対しようが、私はキミとあの人を守る為なら身を捨てて闘う覚悟だ!」
 床に手をついて嗚咽する郭芳に、冰はやれやれと苦笑させられてしまった。
 もしかしたら彼も自分と同様、嘘ハッタリの出まかせを言っている可能性がゼロとは言えないが、これまでの彼の態度や言葉に嘘は無さそうだ。もしもこれが自分と同じく彼の演技であるとすれば狐と狸の化かし合いだ。勝負は互角――その時は素直に両手を上げて覚悟するしかない。
「――なるほど。それにしても、随分とまた惚れ込まれたものだね」
 ポン、と腰掛けていた木箱から飛び降りると、床で突っ伏している郭芳の側に屈みながら冰は言った。
「郭芳さん、アンタそんなにあの次男坊をボスにしたいわけ?」
「……え?」
 顔を上げた郭芳の瞳は真っ赤に潤んで涙目になっていた。察するに、これが彼の本心であって、演技でも嘘でもないと理解できる。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

空と傷

Kyrie
BL
南の大国メリニャの王都で薬師見習いをしているルーポは困った状況に陥り、手立てもなく泣いていた。そこに現れたのは元騎士のカヤだった。 * 専門的な知識がないので、ふんわりと読んでいただけるとありがたいです。 * 王道展開になると思います。 どこかで見たことあるような名称がちらちらします。 * 他サイトにも掲載。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...