1,034 / 1,212
身勝手な愛
23
しおりを挟む
「わしらが焔君を――あんたのご亭主を快く思っていなかったのは本当なんじゃ。というよりも――先行きが不安じゃったと言うべきか。焔君自体をどうこう思っておったわけではないのじゃがな。ファミリーの後継のことを考えれば、確かに疎ましいと思う気持ちが無かったとは言い切れん」
「わしらもまだ若かったからの。自分たちはファミリーの要だなどと意気込んでおった頃もあったんじゃ。今考えると粋がった若造の集まりじゃったと――懐かしくも恥ずかしい思いじゃがの」
「その通りじゃのう。あの頃――そう、あれは焔君が生まれる前のことじゃった。お父上の周隼殿、つまり現在のボスだが、彼がまだトップになる前のことじゃ」
というと、周隼の父――つまり周と冰にとっては祖父に当たる人が現役のボスだった頃のことだ。
「わしらは皆、隼坊っちゃんの御父上の側近じゃった。隼坊っちゃんが今の焔君たちと同じくらいの年頃のな」
「当時、わしら六人はボスから頼まれて隼坊っちゃんと共に過疎地の村へ道路を通すという事業の視察に行ったことがあっての。そこで焔君が生まれるきっかけとなるお人に出くわすことになったんじゃ」
「隼坊っちゃんは視察中に滞在していた村で一人の娘御と出会った。日本から来ていた氷川財閥というところの娘さんでな、歳は坊ちゃんより少々下じゃった。とても綺麗な、美しい娘さんでな」
「それが氷川あゆみ殿――焔君の母君だったのじゃ」
つまり、周の両親が出会ったきっかけの話である。冰は驚きに大きく瞳を見開いてしまった。
これまで亭主の周からも聞いたことのなかった両親の馴れ初め――。周が話さないということは彼自身もその馴れ初めを知らないか、もしくは言う必要のないことと思っているのかも知れないが、やはり興味を覚えずにはいられなかった。
「当時、隼坊っちゃんは既にご結婚されていらしてな。奥方は――ご存知と思うが香蘭様じゃ。長男の風君も生まれておった。ご夫婦はたいそう仲が良うてな。まさかわしらもあんなことになるとは思ってもみなかったんじゃ」
周隼のお付きでこの重鎮たちが過疎地の村に偵察に行ったのは今から三十余年前のことだったそうだ。周一族は祖父の時代からそうした支援事業に力を注いできたようで、今でもその事業は続いているとのことだった。例の鉱山がある中国南部の山の村のことである。
開発事業の傍らで珍しい鉱石が発見されたことから、今では道路開発を別の場所に移し、鉱山として本格的に運営することになったわけだが、当時はまだ鉱石も見つかっていなかったらしい。
この事業には周一族の他に近隣諸国からも財閥系企業が携わっていて、その内の日本企業が氷川財閥だったそうだ。つまり周の実母である氷川あゆみの実家である。彼女もまた、父の代理として視察に訪れていたとのことだった。
「わしらもまだ若かったからの。自分たちはファミリーの要だなどと意気込んでおった頃もあったんじゃ。今考えると粋がった若造の集まりじゃったと――懐かしくも恥ずかしい思いじゃがの」
「その通りじゃのう。あの頃――そう、あれは焔君が生まれる前のことじゃった。お父上の周隼殿、つまり現在のボスだが、彼がまだトップになる前のことじゃ」
というと、周隼の父――つまり周と冰にとっては祖父に当たる人が現役のボスだった頃のことだ。
「わしらは皆、隼坊っちゃんの御父上の側近じゃった。隼坊っちゃんが今の焔君たちと同じくらいの年頃のな」
「当時、わしら六人はボスから頼まれて隼坊っちゃんと共に過疎地の村へ道路を通すという事業の視察に行ったことがあっての。そこで焔君が生まれるきっかけとなるお人に出くわすことになったんじゃ」
「隼坊っちゃんは視察中に滞在していた村で一人の娘御と出会った。日本から来ていた氷川財閥というところの娘さんでな、歳は坊ちゃんより少々下じゃった。とても綺麗な、美しい娘さんでな」
「それが氷川あゆみ殿――焔君の母君だったのじゃ」
つまり、周の両親が出会ったきっかけの話である。冰は驚きに大きく瞳を見開いてしまった。
これまで亭主の周からも聞いたことのなかった両親の馴れ初め――。周が話さないということは彼自身もその馴れ初めを知らないか、もしくは言う必要のないことと思っているのかも知れないが、やはり興味を覚えずにはいられなかった。
「当時、隼坊っちゃんは既にご結婚されていらしてな。奥方は――ご存知と思うが香蘭様じゃ。長男の風君も生まれておった。ご夫婦はたいそう仲が良うてな。まさかわしらもあんなことになるとは思ってもみなかったんじゃ」
周隼のお付きでこの重鎮たちが過疎地の村に偵察に行ったのは今から三十余年前のことだったそうだ。周一族は祖父の時代からそうした支援事業に力を注いできたようで、今でもその事業は続いているとのことだった。例の鉱山がある中国南部の山の村のことである。
開発事業の傍らで珍しい鉱石が発見されたことから、今では道路開発を別の場所に移し、鉱山として本格的に運営することになったわけだが、当時はまだ鉱石も見つかっていなかったらしい。
この事業には周一族の他に近隣諸国からも財閥系企業が携わっていて、その内の日本企業が氷川財閥だったそうだ。つまり周の実母である氷川あゆみの実家である。彼女もまた、父の代理として視察に訪れていたとのことだった。
21
お気に入りに追加
879
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる