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身勝手な愛
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「冰さん……あんた……何故サインを? わしらの為とはいえボスがせっかく入れてくれたファミリーの姓を捨てるなど……」
「も、もちろんわしらが解放された暁には……ボスに経緯を話してあんたに周姓を取り戻してもらえるよう頼むつもりじゃが……」
「それにしても――あんな書面を見れば焔君は少なからず動揺するじゃろうて。あんた方ご夫婦の仲に溝ができてしまうのではと心配じゃ」
重鎮方の気持ちは有り難いが、冰は心配には及ばないと言って笑顔を見せた。
「大丈夫です。白……いえ、焔さんはあのような書面を見たところで驚くようなことはございません。それよりも今はここを無事に脱出することが第一です。あの郭芳さんという方ですが、どういった方なのですか?」
冰は郭芳と会うのは初めてだ。当然だが彼の素性も知らない。
とにかくは彼がこの場にいない内にできる限りの情報を手に入れることが必須といえる。重鎮方はあの男のことをよく知っているようだったし、聞けることは聞いておかねばと思うのだった。
その重鎮方の話によると、あの郭芳は以前ファミリーに与していた者ということだった。しかも周の配下に置かれていたらしい。
「もう十年以上も前になりますかな。焔君がまだ香港のご実家にいた頃の話です。郭芳――あやつは少々見てくれが良かったこともあり、ファッションモデルとして主には芸能界や社交界で耳に入る様々な情報や噂話を収集して歩くのが役目でした。我々にとって情報というのは命ですからな。まあ彼もまだ若かったですし、情報収集とはいえ実際は大して役に立つ話を持って来られるわけもないということで――一番若い焔君の直下に置かれたわけです」
ボスの周隼からすればそれも若手を育てる為の教育期間的な考え方で、年頃の近い次男坊、焔の直下としたらしい。
「ところがあやつはもっと大きい――世界の檜舞台で本格的なモデルとして活躍したいとぬかしましてな。ファミリーを去ってヨーロッパへと渡ったのです。その後はどこでどうしていたか我々もよくは知りませなんだ」
それが突然降って湧いたように姿を現したかと思えば、次男坊の周焔が兄の周風を差し置いてファミリートップの座を狙っているなどという情報を持ってきたというのだ。冰は驚いてしまった。
「も、もちろんわしらが解放された暁には……ボスに経緯を話してあんたに周姓を取り戻してもらえるよう頼むつもりじゃが……」
「それにしても――あんな書面を見れば焔君は少なからず動揺するじゃろうて。あんた方ご夫婦の仲に溝ができてしまうのではと心配じゃ」
重鎮方の気持ちは有り難いが、冰は心配には及ばないと言って笑顔を見せた。
「大丈夫です。白……いえ、焔さんはあのような書面を見たところで驚くようなことはございません。それよりも今はここを無事に脱出することが第一です。あの郭芳さんという方ですが、どういった方なのですか?」
冰は郭芳と会うのは初めてだ。当然だが彼の素性も知らない。
とにかくは彼がこの場にいない内にできる限りの情報を手に入れることが必須といえる。重鎮方はあの男のことをよく知っているようだったし、聞けることは聞いておかねばと思うのだった。
その重鎮方の話によると、あの郭芳は以前ファミリーに与していた者ということだった。しかも周の配下に置かれていたらしい。
「もう十年以上も前になりますかな。焔君がまだ香港のご実家にいた頃の話です。郭芳――あやつは少々見てくれが良かったこともあり、ファッションモデルとして主には芸能界や社交界で耳に入る様々な情報や噂話を収集して歩くのが役目でした。我々にとって情報というのは命ですからな。まあ彼もまだ若かったですし、情報収集とはいえ実際は大して役に立つ話を持って来られるわけもないということで――一番若い焔君の直下に置かれたわけです」
ボスの周隼からすればそれも若手を育てる為の教育期間的な考え方で、年頃の近い次男坊、焔の直下としたらしい。
「ところがあやつはもっと大きい――世界の檜舞台で本格的なモデルとして活躍したいとぬかしましてな。ファミリーを去ってヨーロッパへと渡ったのです。その後はどこでどうしていたか我々もよくは知りませなんだ」
それが突然降って湧いたように姿を現したかと思えば、次男坊の周焔が兄の周風を差し置いてファミリートップの座を狙っているなどという情報を持ってきたというのだ。冰は驚いてしまった。
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