極道恋事情

一園木蓮

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身勝手な愛

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「良かった、気がつかれましたか」
「お加減は? どこか具合の悪いところはなかろうか?」
 皆が口々に話し掛けてくる。意識がはっきりしてくるごとに、ぼんやりと霞んでいた老人方の顔や声が鮮明に感じられるようになっていった。
「あの……俺はいったい……? 皆さんは……」
 上半身を起こして周りを見渡せば、まるで自分を取り囲むようにして不安顔の老人が数人いることに気がついた。それもどこかで見た覚えのある顔ぶればかりだ。
「……皆さんは……」
「気がつかれて良かった! わしらは皆、周ファミリーの者じゃ」

「……あ!」

 そういえば思い出した。彼らは義父の周隼についている側近たちだ。
 周と共に香港の実家を訪れた際に何度か顔を合わせたことがある。しかも確か側近の中でも非常に高い立場の重鎮たちだったはずである。冰自身は彼らと直接話をしたことはなかったものの、帰省時には義父の側にいる彼らと周が挨拶を交わしていたことを思い出す。
「皆さん、お父様の……」
「そうじゃ。周隼のお側にお仕えしている者たちじゃ」
 冰は慌てて姿勢を正すと、床に両手をついてガバリと深々頭を下げた。
「は……! ど、どうも失礼を! 雪……」
 雪吹冰ですと言い掛けて、慌てて言い直した。
「ひょ、冰と申します! い、い、いつもお世話になっております……!」
 冰にとって義父の側近といえば畏れ多い存在だ。しかもここにいるのは目上も目上のご高齢揃い、それこそ身の縮む思いにもなろうというものだ。
 老人方もそんな冰の態度に好感を覚えたのか、皆揃って軽く会釈をしながらも笑みを見せてくれたことにホッとする。と同時にハタと気がついて冰は大きく瞳を見開いてしまった。
「皆さん……もしかして今行方不明になっているファミリーの……」
 そう、それこそ彼らを捜すべく周も鐘崎もこの香港に召集されて来た。まさにその当人たちが顔を揃えていることに驚きを隠せない。
 そういえば、今いるこの場所もまるで廃墟といった雰囲気の倉庫のような所であることに気付く。天井は遥か見上げるほどに高く、声も響くほどにだだっ広い。薄暗がりで灯りはなく、ガラスの割れた天窓から差し込む陽の光がこの巨大な空間の塵や埃を浮かび上がらせているといったふうな状況だ。よくよく見れば、老人方の誰もが酷くやつれたような風貌でいる。
「……あの、皆さんに何があったのですか? 今、ファミリーの方々が総出で皆さんの行方を捜しておられるんです……。僕も……実は白……いえ、焔さんと一緒に皆さんの捜索に出ていたところだったんですが、その途中で知らない男の方に声を掛けられまして……」
「そうじゃったのか……。ボスにも皆にも迷惑を掛けてすまないと思っている。実はわしらも――」
 ――と、その時だった。倉庫端の扉が鈍い音を立てて開けられ、一人の男が姿を現した。郭芳グォ ファンである。
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