1,013 / 1,212
身勝手な愛
2
しおりを挟む
「――心掛けは立派だな。だが実績が伴わないのでは身勝手と思われても仕方あるまい」
李の言葉には容赦も遠慮のかけらもない。正直なところこうして飲みに付き合っているのも気が進まないという胸中そのままである。
「本当に……あなたは相変わらず手厳しいですね、李さん。香港にいた頃から精鋭と言われていたあなたらしいと言えばそうですが。けれど私だって何ものうのうと過ごしていたわけではないんです。モデルを辞めたことは――まあ不甲斐ないと認めるところですが、東南アジアに渡ってからもファミリーのお役に立ちたいと常々思ってはいた。巨額の富を得られるブツを見つけて手掛けたまでは良かったんですが、結局しくじってお縄にされ、シャバへ出るまでに十年も費やすことになろうとは――。さすがに痛手でした」
彼曰く、そのヤマが成功したら、報酬である巨額の富を香港のファミリーの下へ持ち帰って役に立ちたいと、本気でそう思っていたと言うのだ。ところが結果は失敗に終わり、地元当局に逮捕されて監獄にぶち込まれ、出て来られるまでに十年かかった――とまあそういうわけだったそうだ。
出所後すぐに香港に舞い戻り、昔の仲間の伝手で頭領次男坊の周焔が日本の東京に移り住んで起業していることを知り、訪ねて来たという。それが今日の夕刻のことだった。得意先との商談が済んで周自らロビーまで見送りに出た時にちょうど訪ねて来たこの男と鉢合わせたのだ。
幸い冰は社長室で茶器などの片付けをしていてその場にいなかったので、それだけは良かったと思った李である。いかに昔の同胞とはいえ一度ファミリーを裏切るような身勝手をした男だ。そんな人間が周と冰の関係を知ったところで、どうせろくでもない噂を立てるくらいしか脳がないと思うからである。
周は突然の来訪に驚きつつも特には嫌味のようなことも言わなかったし、達者で何よりだと温情のある言葉を掛けていたが、その後すぐに接待の会食が入っていた為、ほんの挨拶程度で済んだことは幸いだった。
ところが郭芳の方ではせっかく訪ねて来たのにそれでは物足りなかったのだろう、周の都合がつかないのなら李とだけでも話がしたいと言い出した。一緒に酒でもどうかと誘われ、気は進まなかったが了承したのは、この男が何の目的でわざわざ周を訪ねて来たのかを探る意味合いもあってのことだった。
李はハナからこの男を信用していない。面倒事の芽は早い内に摘んでおくに限るということだ。
李の言葉には容赦も遠慮のかけらもない。正直なところこうして飲みに付き合っているのも気が進まないという胸中そのままである。
「本当に……あなたは相変わらず手厳しいですね、李さん。香港にいた頃から精鋭と言われていたあなたらしいと言えばそうですが。けれど私だって何ものうのうと過ごしていたわけではないんです。モデルを辞めたことは――まあ不甲斐ないと認めるところですが、東南アジアに渡ってからもファミリーのお役に立ちたいと常々思ってはいた。巨額の富を得られるブツを見つけて手掛けたまでは良かったんですが、結局しくじってお縄にされ、シャバへ出るまでに十年も費やすことになろうとは――。さすがに痛手でした」
彼曰く、そのヤマが成功したら、報酬である巨額の富を香港のファミリーの下へ持ち帰って役に立ちたいと、本気でそう思っていたと言うのだ。ところが結果は失敗に終わり、地元当局に逮捕されて監獄にぶち込まれ、出て来られるまでに十年かかった――とまあそういうわけだったそうだ。
出所後すぐに香港に舞い戻り、昔の仲間の伝手で頭領次男坊の周焔が日本の東京に移り住んで起業していることを知り、訪ねて来たという。それが今日の夕刻のことだった。得意先との商談が済んで周自らロビーまで見送りに出た時にちょうど訪ねて来たこの男と鉢合わせたのだ。
幸い冰は社長室で茶器などの片付けをしていてその場にいなかったので、それだけは良かったと思った李である。いかに昔の同胞とはいえ一度ファミリーを裏切るような身勝手をした男だ。そんな人間が周と冰の関係を知ったところで、どうせろくでもない噂を立てるくらいしか脳がないと思うからである。
周は突然の来訪に驚きつつも特には嫌味のようなことも言わなかったし、達者で何よりだと温情のある言葉を掛けていたが、その後すぐに接待の会食が入っていた為、ほんの挨拶程度で済んだことは幸いだった。
ところが郭芳の方ではせっかく訪ねて来たのにそれでは物足りなかったのだろう、周の都合がつかないのなら李とだけでも話がしたいと言い出した。一緒に酒でもどうかと誘われ、気は進まなかったが了承したのは、この男が何の目的でわざわざ周を訪ねて来たのかを探る意味合いもあってのことだった。
李はハナからこの男を信用していない。面倒事の芽は早い内に摘んでおくに限るということだ。
9
お気に入りに追加
871
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる