極道恋事情

一園木蓮

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倒産の罠

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 その後、冰の希望通りにアパートへと戻ることにし、ただし真田には李らと共に汐留へ引き上げてくれるようにと頼んだ。当の真田も最初は首を傾げていたものの、二人がわざわざアパートへ戻りたいという理由が分かってしまったようだ。
「ほほ、ご夫婦仲のよろしいことは実に良きことでございますな!」
 ニシシというふうに口元に手をやって微笑んでいる。
「ではお邪魔虫はお先に失礼させていただきましょうぞ」
 まるでステップを踏む勢いで真田が李の車に乗り込んだのを見て、鐘崎と紫月にもようやくと事の次第が理解できたようだった。とかく鐘崎の方は羨ましい思いがムクムクと顔を出し始めたようだ。周が張り切るというなら自分も負けてはいられないとばかりに、『男の沽券』を意識した勝負心に火が点いてしまったらしい。
「ふむ――それじゃ紫月、俺たちもこいつらのアパートに邪魔させてもらおうか? 真田さんが住んでた部屋も空いたことだしな。今夜は四人で打ち上げってのもオツだろう」
 鐘崎としては普段と違う環境で自分たちも燃え上がりたいと思っているようだが、周からすればとんだお邪魔虫もいいところだ。
「バ……ッ! っざけんな、カネ! あんな壁の薄い部屋だぞ? せっかく上手いこと真田を追い返したってのに、てめえらが乱入して来やがったら……台無しじゃねえか」
「ほう? ほーお、ほーーーお? 何が台無しだって? 壁が薄いと困ることでもあんのか? 俺らはただ打ち上げで飲んで、そのまま泊まらせてくれればと思っただけなんだがなぁ……」
 ニヤニヤと目をカマボコ形にして肘で突く。
「何が打ち上げだ。歩いて二分と掛からねえくせに。てめえの考えてることなんざ見え見えなんだよ……」
「そうケチケチすんな。せっかくデカい山ひとつ片付いたんだぜ? 俺たちも――つーか、今回はおめえらが一番苦労続きだったわけだからな。労を労いつつ共に祝おうじゃねえか」
「は? なに都合のいいこと抜かしてやがる……! ってよりも……誰がケチだ、誰がー!」
 旦那二人のアホらしい言い合いに紫月と冰は呆れ顔だ。
「い、いいじゃない白龍。皆んなで打ち上げやるのも楽しいじゃない! アパートに食材も残ってるしさ。俺、何かおつまみとおかずでも作るよ!」
 まあまあ――といった調子で宥めた冰に、
「何言ってんだ、俺のおかずはお前……。いや、違う違う! おめえは極上のメインディッシュっつーか……」
 アタフタとし始まった周に鐘崎はかまぼこ目を更に細くしてしたり顔だ。紫月はといえば、亭主の考えていることなど当にお見通しなのか、いつもと違うシチュエーションに燃えられて猛獣化されては身が持たないと冷や汗状態――。
「遼ぉー、大人げねえぜ! ンなことしてっと馬に蹴られて何とやらって言うじゃね?」
 邪魔せずにおとなしく帰ろうとうながすも、当のご亭主はむくれ気味だ。
「言っておくがな紫月。ウチでナニするよりも、こいつらのアパートの方がおめえにとっちゃ楽かも知れんぞ」
「は……? つか、ナニするって何? まさかとは思うがてめ……」
「当然だろう。労いの夜だ。おめえにも苦労を掛けたことだし、皆んなでお疲れさん会した後は――まあ、そういう雰囲気にもなるだろ? 俺ァな、そういうシチュになってもなるべくおめえに負担を掛けまいと思っているわけだ」
 アパートは壁が薄い上に二階だ。階下や隣室にも気遣いながらとなれば、猛獣化するどころか逆におとなしめになるだろうと鐘崎は訴えているのだ。
「あ……なるほど。そーゆう考え方もアリか」
 周にとってはあまりにもバカバカしい鐘崎の説得に、呆れを通り越してお手上げ状態だ。
「……ったく! 仕方ねえ。んじゃ今夜は打ち上げと腹を括るか」
 どうせ一晩泊まれば満足するだろうから、ここは素直に引き下がるのも手だ。
 結局四人で打ち上げをすることに決まり、皆揃ってアパートへと引き上げたのだった。
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