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倒産の罠
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『冗談じゃない! 刑事さん、アンタら頭大丈夫か? 犯人がわざわざご丁寧にこちらでございますなんて教えるとでも思ってんのかよ! くだらねえ引き延ばしはいらねえ! さっさと金を用意しやがれ!』
丸中が憤っているのが分かる。
「修司坊、とにかく会話を繋いで引き延ばせ! その間に必ず侵入経路を突き止める!」
僚一がそう指示を出したその時だった。動画のカメラの前に突如一人の人質が歩み出て、何やらわめき出したのだ。
『すみません! 犯人さん! 僕にも話をさせてください!』
わめいているのは何と――冰であった。
「冰――ッ! 何を……。危ねえことはするな……!」
画面に食いつくようにして周が拳を握り締める。だが、冰は後ろ手に縛られたまま床を這いずるようにしてカメラの前へと歩み出て来た。
そして犯人たちを押し退ける勢いで喋り出した。
『刑事さん! お願いです! すぐに助けに来てください! 犯人さんたちの言うことを聞いてお金を揃えて……僕たちを助けてくださいッ!』
まるで涙目になりながら必死の形相でそう叫ぶ。驚くべき行動だが、丸中らにとってはやぶさかでもないようだ。人質が必死になって助けを求める様子は、動画として残しておけば後々マスコミにバラ撒いた際に有利となるからだ。
丸中らは咎めるどころか『良く言った』とでも言うようにして冰に喋り続けるよう顎をしゃくってみせた。
冰はますます必死の様子で懇願を続け始めたのだが、その訴えは誰もが耳を疑うような代物だった。
何と彼は自分の飼っている愛犬の様子が気になって仕方ないから、早く助けに来て犬に会わせて欲しいと言い出したのだ。
『お願いです、刑事さん! 犬たちは僕にとって家族も同然なんです! この世で一番大事な友達なんですよぅー! ウィスキーちゃんはまだ仔犬で……元気いっぱいだから心配ないけど、もう一匹のエコー君はもう老犬で……いつ死んでもおかしくないんです! 僕がこんなところにいる間にエコー君が死んじゃったらと思うと……居ても立っても居られないんです! だからお願い! すぐにお金を用意して僕たちをここから助け出して! お願い刑事さん!』
しまいには床に突っ伏して号泣の勢いだ。
これには丸中らはもちろんのこと、一緒に捕らわれている人質たちも苦虫を噛み潰したような表情で互いを見つめてしまった。冰の後方に映っている彼らが、まるで『こいつ、頭おかしんじゃねえか?』とでも言いたげに眉根を寄せているのが見て取れる。
『は――! さすがに大企業のお坊ちゃんは考えることがぶっ飛んでるぜ! この緊急事態に犬の心配ときたもんだ! てめえの命がどうなるかも分からねえ瀬戸際だってのによ!』
丸中は呆れたように高笑いをしていたが、ロビーでその様子を窺っていた周や鐘崎らにはその意図がしっかりと伝わったようだった。
「ウィスキーにエコーか! 死に掛かっているのがエコーなら――爆弾は東扉か!」
僚一が瞳を輝かせる。
「ふ――さすがは冰だな! 相変わらずに考えることがハンパじゃねえ」
鐘崎が脱帽だとばかりにそう讃えると、その場の誰もが興奮したように不適な笑みを交わし合う。周などはやれやれと頭を抱えてうなだれてしまったほどだ。
そう、冰の今の訴えには周らに向けた暗号が組み込まれていたことに気付いたからだった。
ウィスキーとは『W』の頭文字、つまり西側の扉を指している。エコーは『E』で東扉。そのエコーが死に掛かっているなら、死に直結するのは東扉――。冰は犬の名前をフォネティックコードにして、安全なのは西扉だと知らせてきたのである。
丸中が憤っているのが分かる。
「修司坊、とにかく会話を繋いで引き延ばせ! その間に必ず侵入経路を突き止める!」
僚一がそう指示を出したその時だった。動画のカメラの前に突如一人の人質が歩み出て、何やらわめき出したのだ。
『すみません! 犯人さん! 僕にも話をさせてください!』
わめいているのは何と――冰であった。
「冰――ッ! 何を……。危ねえことはするな……!」
画面に食いつくようにして周が拳を握り締める。だが、冰は後ろ手に縛られたまま床を這いずるようにしてカメラの前へと歩み出て来た。
そして犯人たちを押し退ける勢いで喋り出した。
『刑事さん! お願いです! すぐに助けに来てください! 犯人さんたちの言うことを聞いてお金を揃えて……僕たちを助けてくださいッ!』
まるで涙目になりながら必死の形相でそう叫ぶ。驚くべき行動だが、丸中らにとってはやぶさかでもないようだ。人質が必死になって助けを求める様子は、動画として残しておけば後々マスコミにバラ撒いた際に有利となるからだ。
丸中らは咎めるどころか『良く言った』とでも言うようにして冰に喋り続けるよう顎をしゃくってみせた。
冰はますます必死の様子で懇願を続け始めたのだが、その訴えは誰もが耳を疑うような代物だった。
何と彼は自分の飼っている愛犬の様子が気になって仕方ないから、早く助けに来て犬に会わせて欲しいと言い出したのだ。
『お願いです、刑事さん! 犬たちは僕にとって家族も同然なんです! この世で一番大事な友達なんですよぅー! ウィスキーちゃんはまだ仔犬で……元気いっぱいだから心配ないけど、もう一匹のエコー君はもう老犬で……いつ死んでもおかしくないんです! 僕がこんなところにいる間にエコー君が死んじゃったらと思うと……居ても立っても居られないんです! だからお願い! すぐにお金を用意して僕たちをここから助け出して! お願い刑事さん!』
しまいには床に突っ伏して号泣の勢いだ。
これには丸中らはもちろんのこと、一緒に捕らわれている人質たちも苦虫を噛み潰したような表情で互いを見つめてしまった。冰の後方に映っている彼らが、まるで『こいつ、頭おかしんじゃねえか?』とでも言いたげに眉根を寄せているのが見て取れる。
『は――! さすがに大企業のお坊ちゃんは考えることがぶっ飛んでるぜ! この緊急事態に犬の心配ときたもんだ! てめえの命がどうなるかも分からねえ瀬戸際だってのによ!』
丸中は呆れたように高笑いをしていたが、ロビーでその様子を窺っていた周や鐘崎らにはその意図がしっかりと伝わったようだった。
「ウィスキーにエコーか! 死に掛かっているのがエコーなら――爆弾は東扉か!」
僚一が瞳を輝かせる。
「ふ――さすがは冰だな! 相変わらずに考えることがハンパじゃねえ」
鐘崎が脱帽だとばかりにそう讃えると、その場の誰もが興奮したように不適な笑みを交わし合う。周などはやれやれと頭を抱えてうなだれてしまったほどだ。
そう、冰の今の訴えには周らに向けた暗号が組み込まれていたことに気付いたからだった。
ウィスキーとは『W』の頭文字、つまり西側の扉を指している。エコーは『E』で東扉。そのエコーが死に掛かっているなら、死に直結するのは東扉――。冰は犬の名前をフォネティックコードにして、安全なのは西扉だと知らせてきたのである。
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