極道恋事情

一園木蓮

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倒産の罠

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「で、ではあなた方は……その為に僕らの親が経営していた会社を乗っ取って……僕らを誘拐したとおっしゃるんですか……?」
「そういうことだ。有り難く思ってくれよー」
「……そんな……何故そんなことを……」
 すると、これまでの成り行きを聞いていた別の人質が恐る恐る口を挟んだ。今度は女性だ。
「もしかして……あなたたちも……私たちと同じように誰かに会社を潰された被害者とか……?」
 女性の言葉に犯人たちは揃って眉根を寄せては苦々しく表情を歪めてみせた。
「勘がいいな、お嬢さん。その通りよ――」
「俺たちの親もアンタらの家と同じように会社を経営していた。だが……面の皮の厚いクズ共に騙されて……社を乗っ取られたり潰されたり……。それを苦に俺の両親は首を括って死んじまったんだ……!」
 吐き捨てるようにそう言ったのは中橋だった。
「だが警察は乗っ取り犯を捕まえることもせず……通りいっぺんの捜査で事情聴取に来ただけだった……。両親が死んだ時も……何だ、自殺かと苦笑い……まるで手間掛けさせやがってってな態度だった……! そん時の俺の気持ちが分かるかッ! はらわたが煮えくりかえるなんてもんじゃ到底言い表せねえ! 今だって俺は……あの日の……両親の死に顔を忘れたことはねえんだ!」
「こいつの言う通りだ。俺たちは皆、同じ境遇に辛酸を舐めてきた者の集まりだ。だからアンタらの会社を乗っ取ってアンタらを拉致した。人命がかかっていりゃあ警察も少しは本気で動かざるを得ねえだろうからな。もしも警察がアンタらを見捨てるようなら……この動画を世間に公表してヤツらの怠慢さを知らしめるつもりだ!」
 まるで苦渋を呑み込むようにそう言った犯人たちに、誰も返す言葉を失くし、場は静まり返ってしまった。
 確かに言い分は分かるし同情もするが、だからといってまったく関係のない自分たちの企業を乗っ取ったり潰したりすることが褒められるとは思えない。
 先程の女性がまたも口を挟んだ。
「……ねえ、だったらどうしてアタシたちのようなまったく関係ない企業をターゲットにしたの? どうせなら……あなたたちの会社を潰したっていう張本人に復讐してやるべきじゃない……。それなのに何の関係もない、あなたたちには何もしていないアタシたちがこんな目に遭わされるなんて……それは違うと思う!」
 悔しさ余ってかそう叫んだ彼女に、隣にいた別の男性が『よせ!』というように肘で突く。
「ふん! お嬢さん、アンタの言うことは尤もだ。だがな、もう後戻りはできねえんだ。アンタたちが失った生活は――今度こそ無能な警察に取り戻してもらうこった」
 犯人たちはそう言うと、カメラを皆に向けて警察との交渉に取り掛かった。
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