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倒産の罠
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「――とすると、やはりヤツらの目的は自分たちを倒産に追い込んだ者への復讐というわけか」
だが、彼らが引っ掛けているのは倒産に追い込んだ相手そのものというよりはターゲットが点々バラバラである。
「そこのところが今一つ理解できんな。経営の苦しい企業を乗っ取って潰せば、昔の自分たちと同じく辛酸を舐める者が出るというのは分かっているはずだ。ヤツらのやり口を見ていると、明らかに関係のない企業ばかりを狙っている」
それどころか、肝心の――彼らを倒産に追い込んだ相手の企業は未だどこも狙われていないというのだ。
「――いったいどういうことだ。ヤツらにとってこれまでの犯行は本星を狙う前の予行演習といった意味合いなのか」
「我々警視庁もそう睨んでいる。今まで中小企業ばかりを狙ってきたのは、鐘崎の言うように予行演習とも考えられる。このやり口で上手くいきそうだと踏んだ段階でいよいよ本星を狙ってくると仮定して、対象企業には注意喚起を促すかどうか検討中だ」
「うむ、それにしてはこれまでに乗っ取ってきた企業の数が多過ぎるような気もするが――まあ、念には念を入れてのことなのか……」
「あるいは本星を狙うに当たって資金繰りの面でも相応の数をこなす必要があったか――。もしくは自分たちが失った生活を取り戻す為に多額の金が必要だったということも考えられる」
とにかく丹羽ら警視庁の方で、ターゲットにされるだろう本星の企業については密かに目を光らせていくとのことだった。曹と鐘崎の方でも引き続き粟津財閥乗っ取りの件を中橋らに打診していくことになった。
「焔老板たちにもご苦労を強いて申し訳ない限りだが……」
「その点は致し方ないでしょう。氷川のヤツにも逐次状況を報告しながら、もうしばらく様子見するしかないでしょうな」
「ああ――。香港の親父さんたちもご心配なされているだろうし、なるべく早く事を進めたいものだな」
「ええ、まったくです」
曹と鐘崎が心痛めながらも決意を新たにしていた、そんな中で事件は起こったのである。
何とその日の夜になっても冰が戻らないと連絡が入ったからである。
◇ ◇ ◇
「冰がまだ帰って来ねえだと? どういうことだ」
汐留から鐘崎が帰宅した時は周と真田も顔を揃えていて、既に組中が蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていた。時刻は午後の八時を過ぎたところだ。
「図書館や近隣のスーパーを当たってみたんだが見当たらねえんだ」
周が飯場から帰宅したのは通常通り午後の六時半頃だったという。最初は図書館での残業だろうかと思い、真田と共に夕飯の支度をしながら待っていたものの、七時を過ぎても何の連絡もない。例え残業があったとしても、これまでは大概六時過ぎには帰宅していた。そこで周が図書館へ様子を見に行ったところ、既に閉館していて灯りも消えていたとのことだった。
「図書館に人の気配は無かった。念の為警備室に聞いてみたところ、今日は残業もなく、全員定時の五時過ぎには退社したはずだと――」
その後、いつも買い出しに寄るスーパーや道すがらのコンビニなども見て回ったが、見つからないというのだ。
だが、彼らが引っ掛けているのは倒産に追い込んだ相手そのものというよりはターゲットが点々バラバラである。
「そこのところが今一つ理解できんな。経営の苦しい企業を乗っ取って潰せば、昔の自分たちと同じく辛酸を舐める者が出るというのは分かっているはずだ。ヤツらのやり口を見ていると、明らかに関係のない企業ばかりを狙っている」
それどころか、肝心の――彼らを倒産に追い込んだ相手の企業は未だどこも狙われていないというのだ。
「――いったいどういうことだ。ヤツらにとってこれまでの犯行は本星を狙う前の予行演習といった意味合いなのか」
「我々警視庁もそう睨んでいる。今まで中小企業ばかりを狙ってきたのは、鐘崎の言うように予行演習とも考えられる。このやり口で上手くいきそうだと踏んだ段階でいよいよ本星を狙ってくると仮定して、対象企業には注意喚起を促すかどうか検討中だ」
「うむ、それにしてはこれまでに乗っ取ってきた企業の数が多過ぎるような気もするが――まあ、念には念を入れてのことなのか……」
「あるいは本星を狙うに当たって資金繰りの面でも相応の数をこなす必要があったか――。もしくは自分たちが失った生活を取り戻す為に多額の金が必要だったということも考えられる」
とにかく丹羽ら警視庁の方で、ターゲットにされるだろう本星の企業については密かに目を光らせていくとのことだった。曹と鐘崎の方でも引き続き粟津財閥乗っ取りの件を中橋らに打診していくことになった。
「焔老板たちにもご苦労を強いて申し訳ない限りだが……」
「その点は致し方ないでしょう。氷川のヤツにも逐次状況を報告しながら、もうしばらく様子見するしかないでしょうな」
「ああ――。香港の親父さんたちもご心配なされているだろうし、なるべく早く事を進めたいものだな」
「ええ、まったくです」
曹と鐘崎が心痛めながらも決意を新たにしていた、そんな中で事件は起こったのである。
何とその日の夜になっても冰が戻らないと連絡が入ったからである。
◇ ◇ ◇
「冰がまだ帰って来ねえだと? どういうことだ」
汐留から鐘崎が帰宅した時は周と真田も顔を揃えていて、既に組中が蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていた。時刻は午後の八時を過ぎたところだ。
「図書館や近隣のスーパーを当たってみたんだが見当たらねえんだ」
周が飯場から帰宅したのは通常通り午後の六時半頃だったという。最初は図書館での残業だろうかと思い、真田と共に夕飯の支度をしながら待っていたものの、七時を過ぎても何の連絡もない。例え残業があったとしても、これまでは大概六時過ぎには帰宅していた。そこで周が図書館へ様子を見に行ったところ、既に閉館していて灯りも消えていたとのことだった。
「図書館に人の気配は無かった。念の為警備室に聞いてみたところ、今日は残業もなく、全員定時の五時過ぎには退社したはずだと――」
その後、いつも買い出しに寄るスーパーや道すがらのコンビニなども見て回ったが、見つからないというのだ。
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