極道恋事情

一園木蓮

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倒産の罠

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「――ふん! 香港なんぞに用はないさ。アイス・カンパニーを乗っ取った手腕は大したものだが、正直なところあれほどの企業が手に入ればそろそろ我々も本題に取り掛かってもいい頃合いだ」
「では別の企業の乗っ取りはとりあえず必要ないということですか? あの曹田とかいう男の申すには、少し時間をもらえれば日本国内で新たなターゲットを見繕うということでしたが」
「ふむ……。その曹田だがな――元はと言えば香港や台湾の企業の株をかなり所有しているとかで我々の計画に乗っかってきたらしいが、正直なところ胡散臭いのも確かだ。これまではトレーダーで稼いできたと聞いているが、得体の知れないところがある。あまり深入りするとこちらが危険になり兼ねない。アイス・カンパニーが手に入った時点で計画としては充分とも言える。早いところ本筋を実行に移して、曹田を追い出すことも考えた方がいいだろう」
 曹はこれまでのところ一切の素性を明かしてはいなかったわけだが、実際はマフィアの時代継承者の第一側近である。いかに素性を隠しているとはいえ、纏っている雰囲気がただならぬものを感じさせてしまうのだろう。鐘崎についても印象的には同様のようだ。
「その点については私も同感です。あの曹田にやらせておけば今後も金儲けという点では期待できそうですが、今日会った感じだとその内に我々を出し抜いて金を独り占めしそうな雰囲気も感じられましたし……。秘書の金山とかいうのも――外面は丁寧でしたが、体格もいい上に強面というか……。二人の様子から昨日今日知り合った仲というわけでもないようでしたし、これまで何で食ってきたのか掴めないような雰囲気を感じました。あなたのおっしゃるように早いところ本筋の計画を実行した方がいいかと」
「やはりお前もそう感じたか……」
「実はそのことでちょっといい案があるんです。昨日、下の連中をアイス・カンパニーの元経営者たちが現状どうしてるかと偵察にやったんですが、使えそうな男が見つかりました」
「使えそうな男だと?」
「ええ。あそこの社長は確か氷川とかいいましたよね? そいつの方は論外ですが、従弟で秘書だった雪吹とかいう野郎がどうも都合よく使えそうだって話なんです」
「――と言うと?」
「ヤツは今、川崎の図書館に勤めているようなんですが、その雪吹ってのがえらく優男らしく、あれなら拉致するのも簡単じゃないかと偵察に行った連中が口を揃えています。社長の氷川は日雇いで工事現場にいるようですが、それこそ体格も良く、雰囲気的に図々しいというか……腕っ節も強そうに思えたとか。ですから雪吹って秘書の方をとっ捕まえてくれば、計画もスムーズにいくと思うんですが」
「雪吹か――。本当に簡単にいきそうなのか?」
「ええ。社長の氷川に比べれば華奢なようですし、性質も優しいと言えば聞こえがいいですが、要は弱っちい雰囲気の男だそうです。あれなら男を三人も向かわせれば簡単に拉致できそうですぜ」
「――そうか。まあこのままズルズルしていて曹田にデカい顔をされない内に計画を進めた方が無難だろうな。では早速実行に移すとするか」
「じゃあこっちでは実行部隊を用意しときます」
 彼らの言う本筋の計画とはいったい何か――未だそれを知らぬ鐘崎らにとって、新たな苦難に直面しようとしていた。
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