981 / 1,212
倒産の罠
18
しおりを挟む
「は、なるほど面白えこと抜かしてくれて!」
紫月は苦笑ながらも思惑通りに運んだことに笑みを浮かべた。これで頻繁に様子を探りに来ることもなくなるだろう。それにしても、冰は相変わらずに優しい性質のようだ。彼らの会話にもあったように、図書館に来る老人たちにも親切に接しているのが窺える。そんな彼のことを思えば、できることは何でもして力になってやりたいと思う紫月だった。
しばらくすると再び若い衆から報告がきた。追尾中のタクシーの中からのようで、今度は電話でなくメッセージで届く。
『姐さん、どうやらヤツらは汐留方面へ向かっている様子です。もしかしたらアイスカンパニーへ行くつもりかも知れません』
「……汐留だって? 野郎……早速乗っ取った社で我が物顔かよ」
一連の出来事が囮だとは知らない紫月は腹立たしさに拳を握り締める。すぐさま鐘崎へと知らせることにした。
「遼、俺だ。ついさっき例のヤツらが氷川と冰君を探りにやって来た。うちの若いのが後をつけてくれて、ヤサのひとつを掴めたようだ。その後すぐに汐留方面へ向かったって話だから、もしかしたら乗っ取ったアイス・カンパニーに行くつもりなのかも!」
紫月は鐘崎がその汐留の社長室にいるなどとは夢にも思っていないので、とにかくは偵察部隊が現れたことを報告する。
「ヤサは青山のマンションだそうだ。そっちにも若い連中が張り込んでくれてっから!」
もしも合流できるようならしてやってくれと伝える。
『分かった。ヤサが掴めただけでも大手柄だ。よくやってくれた』
「そいから……ヤツらの映像も撮れたから!」
今から送ると言ってパソコンを立ち上げた。
『了解した。俺はこれからその映像を持って丹羽に届ける。青山のヤサの方は――足労だが引き続き若いヤツらに張っておいてもらってくれ』
鐘崎の立場からすればそうとしか言いようがない。紫月のことまで騙しているようで胸が痛むものの、これはシークレットミッションゆえ忍耐どころだ。
『おめえもご苦労だったな。俺の方は今夜もちょっと遅くなるやも知れん。丹羽に会ったら青山のヤサの方へも回ってみる』
「うん、了解。遼も気ィつけてな!」
『ああ、さんきゅな紫月』
鐘崎からは、後は上手くやると言って通話は切られた。手元の時計を見れば夕刻である。
「さて……と。そろそろ氷川たちも仕事上がる頃だな。んじゃ、俺ん方は冰君迎えに行きがてら氷川に報告しとくか」
紫月は紫月で、周らとの連携を取るべく事務所を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
その頃、汐留では鐘崎が紫月から受けた知らせを曹へと報告していた。
「周焔の暮らしぶりを偵察にやって来たヤツらをつけて、ヤサのひとつを突き止めたそうです。汐留方面へ移動しているようですから、今からここへ報告にやって来るのではないかと」
「ご苦労だったな。これでここ日本で動いている敵の一部とコンタクトが叶うだろう」
これまで曹が会ったことのある相手は、すべて香港を拠点に動いている連中だった。最初に潜入した先が香港で乗っ取られた企業だったからだ。
「実際に乗っ取られた企業の数という点ではアジア圏で一番多いのがここ日本だ。香港や台湾でも引っ掛けられてはいるが、日本と比べればごく少数だ。我々はおそらく敵の本拠地はここ日本にあると見ている」
「そうですね。被害の数でいえば日本がダントツだ。ということは敵の中枢は日本人の可能性が高いということでしょうか」
「まだ断定はできないが、それも今から来るだろうヤツらと会えばおおよその見当はつけられるかも知れない。遼二、隠しカメラの方はどうだ?」
「万全です。映像、音声共に気付かれることなく収集できるよう李さんと劉さんが準備してくれています」
「よし。では我々は可能な限り敵中枢に関する情報を聞き出すとしよう。遼二、頼んだぞ」
「承知!」
しばらくすると受付から面会希望の知らせが届いた。いよいよ敵との対面である。
紫月は苦笑ながらも思惑通りに運んだことに笑みを浮かべた。これで頻繁に様子を探りに来ることもなくなるだろう。それにしても、冰は相変わらずに優しい性質のようだ。彼らの会話にもあったように、図書館に来る老人たちにも親切に接しているのが窺える。そんな彼のことを思えば、できることは何でもして力になってやりたいと思う紫月だった。
しばらくすると再び若い衆から報告がきた。追尾中のタクシーの中からのようで、今度は電話でなくメッセージで届く。
『姐さん、どうやらヤツらは汐留方面へ向かっている様子です。もしかしたらアイスカンパニーへ行くつもりかも知れません』
「……汐留だって? 野郎……早速乗っ取った社で我が物顔かよ」
一連の出来事が囮だとは知らない紫月は腹立たしさに拳を握り締める。すぐさま鐘崎へと知らせることにした。
「遼、俺だ。ついさっき例のヤツらが氷川と冰君を探りにやって来た。うちの若いのが後をつけてくれて、ヤサのひとつを掴めたようだ。その後すぐに汐留方面へ向かったって話だから、もしかしたら乗っ取ったアイス・カンパニーに行くつもりなのかも!」
紫月は鐘崎がその汐留の社長室にいるなどとは夢にも思っていないので、とにかくは偵察部隊が現れたことを報告する。
「ヤサは青山のマンションだそうだ。そっちにも若い連中が張り込んでくれてっから!」
もしも合流できるようならしてやってくれと伝える。
『分かった。ヤサが掴めただけでも大手柄だ。よくやってくれた』
「そいから……ヤツらの映像も撮れたから!」
今から送ると言ってパソコンを立ち上げた。
『了解した。俺はこれからその映像を持って丹羽に届ける。青山のヤサの方は――足労だが引き続き若いヤツらに張っておいてもらってくれ』
鐘崎の立場からすればそうとしか言いようがない。紫月のことまで騙しているようで胸が痛むものの、これはシークレットミッションゆえ忍耐どころだ。
『おめえもご苦労だったな。俺の方は今夜もちょっと遅くなるやも知れん。丹羽に会ったら青山のヤサの方へも回ってみる』
「うん、了解。遼も気ィつけてな!」
『ああ、さんきゅな紫月』
鐘崎からは、後は上手くやると言って通話は切られた。手元の時計を見れば夕刻である。
「さて……と。そろそろ氷川たちも仕事上がる頃だな。んじゃ、俺ん方は冰君迎えに行きがてら氷川に報告しとくか」
紫月は紫月で、周らとの連携を取るべく事務所を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
その頃、汐留では鐘崎が紫月から受けた知らせを曹へと報告していた。
「周焔の暮らしぶりを偵察にやって来たヤツらをつけて、ヤサのひとつを突き止めたそうです。汐留方面へ移動しているようですから、今からここへ報告にやって来るのではないかと」
「ご苦労だったな。これでここ日本で動いている敵の一部とコンタクトが叶うだろう」
これまで曹が会ったことのある相手は、すべて香港を拠点に動いている連中だった。最初に潜入した先が香港で乗っ取られた企業だったからだ。
「実際に乗っ取られた企業の数という点ではアジア圏で一番多いのがここ日本だ。香港や台湾でも引っ掛けられてはいるが、日本と比べればごく少数だ。我々はおそらく敵の本拠地はここ日本にあると見ている」
「そうですね。被害の数でいえば日本がダントツだ。ということは敵の中枢は日本人の可能性が高いということでしょうか」
「まだ断定はできないが、それも今から来るだろうヤツらと会えばおおよその見当はつけられるかも知れない。遼二、隠しカメラの方はどうだ?」
「万全です。映像、音声共に気付かれることなく収集できるよう李さんと劉さんが準備してくれています」
「よし。では我々は可能な限り敵中枢に関する情報を聞き出すとしよう。遼二、頼んだぞ」
「承知!」
しばらくすると受付から面会希望の知らせが届いた。いよいよ敵との対面である。
18
お気に入りに追加
879
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる