980 / 1,212
倒産の罠
17
しおりを挟む
どうやら三人が三人共、こういった雰囲気には慣れていないようだ。紫月の側には強面の若い衆も居るし、どうにか絡まれないようにしようと必死でチラシを拾い集めている。その間、誰もがうつむき気味でいて、紫月らとは極力視線を合わせたくないといった感情が窺えた。
そうして三人はほぼすべてのチラシを拾い終えると、未だ視線を合わせないまま土下座の勢いで紫月にチラシを差し出してきた。
「も、申し訳ございませんでした……」
それ以上は言葉にならないようだ。
「まあ今日のところはこれで勘弁してやらぁな。これからは気を付けろよ!」
わざと凄みをきかせてそう言うと、男たちは蒼白なまま逃げるようにその場合を後にして行った。どうやら駅へと向かうようだ。その後ろ姿を見送りながら、
「よし、後を付けてくれ。帰ると見せ掛けて真田さんの方へ向かうかも知れねえから、俺はアパートへ先回りする!」
紫月は若い衆らにそう頼むと、急ぎ真田のアパートへと向かった。ところが先程の脅しが効いたのか、彼らがやって来る気配はないようだ。
少しすると追跡部隊から連絡が入って、男たちはそのまま駅の改札をくぐったとのことだった。
『姐さん、どうやらヤツらは素直に帰るようです。そっちはどうです?』
「ん、真田さんの方は異常なしだ」
『では我々はこのまま追跡します。ヤサが掴めたらまた連絡入れます!』
「おう! 世話掛けて済まねえが頼む」
そのまましばらくアパートを見張ってから、紫月も事務所へと引き上げた。
◇ ◇ ◇
彼らを尾行していた若い衆らから連絡が来たのは、それから一時間ほど経った頃だった。
『姐さん、こちら追跡部隊です。ヤツらのヤサを突き止めました。三人共、あのまま電車で帰って来ましたから、おそらく下っ端連中だったんでしょう。青山の、何とも豪勢なマンションの一室に入って行きましたぜ。今しがたヤツらと一緒に別の男が一人出て来て、今度は車で何処かへ向かうようです。我々はここを張る組とタクシー拾って追い掛ける組と二手に別れます。それから、ヤツらの会話を録音したので送ります。電車の中なんで聞きづらいところがあると思いますが、面白い話をしてくれてましたぜ! それじゃ、また報告させてもらいます』
「オッケー。ご苦労だったな」
紫月は録音を受け取ると、引き続き組事務所で続報を待つことにした。
「どら、面白え会話ってのを聴いてみるか」
早速に送られてきたボイスメモを再生する。確かに雑音が酷いが、話している内容自体は聴き取れた。
『……ったく、冗談じゃないってのよ! 何なんだあの街は!』
『あんなガラの悪いヤツらがウヨウヨしてるとは思わなかったぜ』
『ホント! ヤバかったよな。あいつら、堅気じゃないだろ。あの辺りのヤーサンか?』
『ヤーサンってよりはチンピラだろ? 派っ手な格好しやがって!』
『しかもセンス悪ッ! あれで格好いいと思ってんのかね?』
『そうじゃね? 超ダサいってのが分かんねえのかね?』
『けど、アレだよな。実際あれ以上絡まれなくてホッとしたけどさ。正直、もうあそこの巡回は勘弁してもらいたいよな』
『まあな……。またあんなのに絡まれるなんてぜってー御免だよ! 街の治安が悪過ぎる!』
『中橋さんには何て言う? あの連中は生活に必死って感じだったから心配は要らないって報告しとかねえ?』
『ああ、それがいいな。実際、社長の方はドカタの日雇いやってるくらいだし、会社取り戻すどころの余裕は全然無いように見えたしな』
『秘書の方も図書館勤務だろ? 気も弱そうなヤツだったし、あれじゃ報復で会社取り戻すなんて脳はねえって』
『そうそう! 爺さん婆さん相手にニコニコしてよー。親切な方だとかって褒められてたじゃん。商社にいるよかよっぽど似合ってるって感じ』
『よく今まであんなデカい商社のトップでいられたもんだ。そっちの方が不思議!』
『案外アレじゃね? 表向きは立派に見えても、中はカツカツだったのかも』
『だな! そんじゃ、あそこは心配ねえってことで中橋さんに伝えようぜ!』
『ああ、そうしよう』
どうやら降車駅に着いたようだ、ボイスメモはそこで終わっていた。
そうして三人はほぼすべてのチラシを拾い終えると、未だ視線を合わせないまま土下座の勢いで紫月にチラシを差し出してきた。
「も、申し訳ございませんでした……」
それ以上は言葉にならないようだ。
「まあ今日のところはこれで勘弁してやらぁな。これからは気を付けろよ!」
わざと凄みをきかせてそう言うと、男たちは蒼白なまま逃げるようにその場合を後にして行った。どうやら駅へと向かうようだ。その後ろ姿を見送りながら、
「よし、後を付けてくれ。帰ると見せ掛けて真田さんの方へ向かうかも知れねえから、俺はアパートへ先回りする!」
紫月は若い衆らにそう頼むと、急ぎ真田のアパートへと向かった。ところが先程の脅しが効いたのか、彼らがやって来る気配はないようだ。
少しすると追跡部隊から連絡が入って、男たちはそのまま駅の改札をくぐったとのことだった。
『姐さん、どうやらヤツらは素直に帰るようです。そっちはどうです?』
「ん、真田さんの方は異常なしだ」
『では我々はこのまま追跡します。ヤサが掴めたらまた連絡入れます!』
「おう! 世話掛けて済まねえが頼む」
そのまましばらくアパートを見張ってから、紫月も事務所へと引き上げた。
◇ ◇ ◇
彼らを尾行していた若い衆らから連絡が来たのは、それから一時間ほど経った頃だった。
『姐さん、こちら追跡部隊です。ヤツらのヤサを突き止めました。三人共、あのまま電車で帰って来ましたから、おそらく下っ端連中だったんでしょう。青山の、何とも豪勢なマンションの一室に入って行きましたぜ。今しがたヤツらと一緒に別の男が一人出て来て、今度は車で何処かへ向かうようです。我々はここを張る組とタクシー拾って追い掛ける組と二手に別れます。それから、ヤツらの会話を録音したので送ります。電車の中なんで聞きづらいところがあると思いますが、面白い話をしてくれてましたぜ! それじゃ、また報告させてもらいます』
「オッケー。ご苦労だったな」
紫月は録音を受け取ると、引き続き組事務所で続報を待つことにした。
「どら、面白え会話ってのを聴いてみるか」
早速に送られてきたボイスメモを再生する。確かに雑音が酷いが、話している内容自体は聴き取れた。
『……ったく、冗談じゃないってのよ! 何なんだあの街は!』
『あんなガラの悪いヤツらがウヨウヨしてるとは思わなかったぜ』
『ホント! ヤバかったよな。あいつら、堅気じゃないだろ。あの辺りのヤーサンか?』
『ヤーサンってよりはチンピラだろ? 派っ手な格好しやがって!』
『しかもセンス悪ッ! あれで格好いいと思ってんのかね?』
『そうじゃね? 超ダサいってのが分かんねえのかね?』
『けど、アレだよな。実際あれ以上絡まれなくてホッとしたけどさ。正直、もうあそこの巡回は勘弁してもらいたいよな』
『まあな……。またあんなのに絡まれるなんてぜってー御免だよ! 街の治安が悪過ぎる!』
『中橋さんには何て言う? あの連中は生活に必死って感じだったから心配は要らないって報告しとかねえ?』
『ああ、それがいいな。実際、社長の方はドカタの日雇いやってるくらいだし、会社取り戻すどころの余裕は全然無いように見えたしな』
『秘書の方も図書館勤務だろ? 気も弱そうなヤツだったし、あれじゃ報復で会社取り戻すなんて脳はねえって』
『そうそう! 爺さん婆さん相手にニコニコしてよー。親切な方だとかって褒められてたじゃん。商社にいるよかよっぽど似合ってるって感じ』
『よく今まであんなデカい商社のトップでいられたもんだ。そっちの方が不思議!』
『案外アレじゃね? 表向きは立派に見えても、中はカツカツだったのかも』
『だな! そんじゃ、あそこは心配ねえってことで中橋さんに伝えようぜ!』
『ああ、そうしよう』
どうやら降車駅に着いたようだ、ボイスメモはそこで終わっていた。
18
お気に入りに追加
879
あなたにおすすめの小説
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる