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倒産の罠
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そうして半月が過ぎた頃、案の定敵の偵察部隊と思われる怪しげな男たちが周らの現状を確かめに姿を現すようになった。紫月の元に各地に就かせていた若い衆らから次々と報告が寄せられてくる。見知らぬ男が交代で、通行人を装いながら遠目から窺うだけの日が幾日か続いた後、いよいよ本格的に偵察にやって来たようだと各所から報告が上がってきていた。
『姐さん、こちら周焔さんの工事現場です。今日は男が三人ほどやって来てウロウロしています。どうも本腰入れ始めたようですね。周さんたちはこれから昼飯に向かうようですが、ヤツらも後を付けると話しているのを耳にしました』
おそらく周らの会話が聞こえる範囲に席を取って様子を窺うつもりだろうと言う。
「分かった。お前らも客として同じ店に入り、ヤツらの動向を見張ってくれ」
『了解です!』
その後、昼食が済むと、男たちが図書館へと移動したという連絡が入った。真田のいるアパートの方は無事だそうだ。
「今度は冰君の偵察か。そいつらが偵察部隊で間違いねえようだな。撮影班は気付かれねえようにしっかりヤツらのツラを画像と動画に残してくれ。後で捜査一課の丹羽さんに提出して、顔認証と歩様認証の資料に使ってもらうからな。俺もすぐに図書館へ向かう!」
『了解!』
冰に何かあっては一大事だ。紫月は用意していた変装に着替えると、すぐさま図書館へと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
「よ! ご苦労。様子はどうだ?」
見張りについていた若い衆はポンと後ろから肩を叩かれて、その声で自分たちの姐である紫月が到着したことを知った。植え込みの陰に身を潜めながら、未だ敵の方に視線にくれたままで報告の言葉を口にする。
「今のところ動きはありません。図書館に来た客を装って三人共おとなしくしてますわ」
そう言って後ろを振り返った途端に、
「おわッ!」
ギョッとしたようにすっとんきょうな声を上げた。それもそのはずである。やって来た紫月の格好が驚くような姿だったからだ。
「あ、姐さんッスか? どうしたんです、そのカッコ……!」
若い衆らが驚くのも無理はない。そこには一目でチャランポランだと思うような派手な出立ちの紫月が立っていたからだ。
今は秋の終わり、この寒空だというのにシャツの襟をガバっと開けた際どい胸元、首にはいかにもなぶっとい金のネックレス。髪はといえばテカテカというくらいグリースが塗りたくられており、オールバックのように後ろへと流している。真っ黒なサングラスはどう見ても安物だが、紫月がしていると何とも艶めかしい。それはまあいいとして、手には大量のピンクチラシの山。
「な、なんちゅー格好ッスか……。つか、それどうしたッスか?」
ピンクチラシを凝視しながら目を丸くしている。
「イケてるべ? 駅前の銀ちゃんの店からさ、チラシと衣装借りて来てたんだ」
銀ちゃんの店というのはオネエ様方のキャバクラだ。そこのボーイから衣装を調達してきたらしい。普段から治安警備も兼ねて鐘崎組が何かと助力をしている馴染みの店である。
「変装の服借りる礼にさ、チラシ配りに貢献しようと思って! ついでにヤツらを威嚇しといてやれば、今後はそうウロチョロしねえだろうからさぁ」
敵の三人を顎で指して笑う。
「はぁ、ご、ご苦労様ッス……」
普段からフレンドリーで気のいい姐さんだが、それにしてもこんな格好を若頭の鐘崎が見たらなんと言うだろうと、眉根がヒクヒクと動いてしまいそうだ。
『姐さん、こちら周焔さんの工事現場です。今日は男が三人ほどやって来てウロウロしています。どうも本腰入れ始めたようですね。周さんたちはこれから昼飯に向かうようですが、ヤツらも後を付けると話しているのを耳にしました』
おそらく周らの会話が聞こえる範囲に席を取って様子を窺うつもりだろうと言う。
「分かった。お前らも客として同じ店に入り、ヤツらの動向を見張ってくれ」
『了解です!』
その後、昼食が済むと、男たちが図書館へと移動したという連絡が入った。真田のいるアパートの方は無事だそうだ。
「今度は冰君の偵察か。そいつらが偵察部隊で間違いねえようだな。撮影班は気付かれねえようにしっかりヤツらのツラを画像と動画に残してくれ。後で捜査一課の丹羽さんに提出して、顔認証と歩様認証の資料に使ってもらうからな。俺もすぐに図書館へ向かう!」
『了解!』
冰に何かあっては一大事だ。紫月は用意していた変装に着替えると、すぐさま図書館へと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
「よ! ご苦労。様子はどうだ?」
見張りについていた若い衆はポンと後ろから肩を叩かれて、その声で自分たちの姐である紫月が到着したことを知った。植え込みの陰に身を潜めながら、未だ敵の方に視線にくれたままで報告の言葉を口にする。
「今のところ動きはありません。図書館に来た客を装って三人共おとなしくしてますわ」
そう言って後ろを振り返った途端に、
「おわッ!」
ギョッとしたようにすっとんきょうな声を上げた。それもそのはずである。やって来た紫月の格好が驚くような姿だったからだ。
「あ、姐さんッスか? どうしたんです、そのカッコ……!」
若い衆らが驚くのも無理はない。そこには一目でチャランポランだと思うような派手な出立ちの紫月が立っていたからだ。
今は秋の終わり、この寒空だというのにシャツの襟をガバっと開けた際どい胸元、首にはいかにもなぶっとい金のネックレス。髪はといえばテカテカというくらいグリースが塗りたくられており、オールバックのように後ろへと流している。真っ黒なサングラスはどう見ても安物だが、紫月がしていると何とも艶めかしい。それはまあいいとして、手には大量のピンクチラシの山。
「な、なんちゅー格好ッスか……。つか、それどうしたッスか?」
ピンクチラシを凝視しながら目を丸くしている。
「イケてるべ? 駅前の銀ちゃんの店からさ、チラシと衣装借りて来てたんだ」
銀ちゃんの店というのはオネエ様方のキャバクラだ。そこのボーイから衣装を調達してきたらしい。普段から治安警備も兼ねて鐘崎組が何かと助力をしている馴染みの店である。
「変装の服借りる礼にさ、チラシ配りに貢献しようと思って! ついでにヤツらを威嚇しといてやれば、今後はそうウロチョロしねえだろうからさぁ」
敵の三人を顎で指して笑う。
「はぁ、ご、ご苦労様ッス……」
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