973 / 1,212
倒産の罠
10
しおりを挟む
「真田さん、お風呂お先にどうぞー」
冰が荷解きをしながら明るい笑顔で言う。
「とんでもありません! 坊っちゃまと冰さんでお先にお入りください!」
真田は恐縮しているが、冰は朗らかに笑った。
「俺はもう少し荷物の整理があるんで、ほんとお先に入っちゃってください。出たらお茶にしましょう」
周もそうしろと言うので、真田も二人の厚意に甘えることとなった。その間、冰は買ってきた物の荷解きに精を出す。
「白龍、お布団出すの手伝ってー。ちょっと大きくてさ」
「ああ。割合デカいのを買っちまったからな」
床に敷いて寝るタイプのものなので、布団は大きめのキングサイズを選んだのだ。敷いてみるとすっかり部屋を埋め尽くす勢いである。
「わは! これだけで部屋が埋まっちゃった」
周は体格も大きいので、どうせ朝には畳むのだしということで、せめてゆっくり眠れるようにと冰がキングサイズを希望したのだ。
「ふかふかだね! これならよく眠れそう」
冰は早速寝転んで笑顔を見せているが、周からすればやはり不憫な思いをさせていることに胸が痛んでしまう。
「冰、すまねえな。苦労を掛ける……」
言葉通り申し訳なさそうに視線を翳らせた周の手を取ると、穏やかに微笑みながら冰は言った。
「ううん、苦労だなんて思わないよ。俺は白龍と一緒にいられることが何よりの幸せだもん。そりゃ確かに汐留のお邸と比べちゃえば小さなお家だけどさ。俺にとっては今までが豪勢過ぎただけで、本当だったら俺、日本に来て一人で暮らしてたらもっと小さい家に住んだと思うし、きっと不安だらけだったよ。今は真田さんと白龍が一緒なんだもん。それこそが何よりの贅沢だよ!」
「冰……」
「それに、紫月さんたちが就職先までお世話をしてくれたんだもの。職を探す手間がないだけですごく有り難いよ!」
思えば冰は育ての親である黄老人が亡くなってから単身で日本にやって来たわけで、周に会ってこれまでの礼を述べた後は職探しをする心づもりでいたわけだ。その時の不安は相当に大きいものだったという。だから就職先が決まっていることの有り難さが身に染みるのだそうだ。
「俺、ちゃんと働いて節約もするから! 黄のじいちゃんに家計のやりくりとかはしっかり教えてもらったもの。任せといて。それにさ、この生活に慣れたらいつかまた三人で住める家を買うこともできるじゃない?」
今はとにかく地道に働いて、少し余裕ができたら将来の夢も描けると言ってくれる。しかも夫婦二人で住むのではなく、当然のように真田も一緒にと思い描いていてくれる。周にはそんなあたたかい気持ちが身に染みるようだった。
「白龍は明日からもう出勤でしょ? 今日は早めに寝なきゃね」
「ああ。カネがこの近所の工事現場を紹介してくれたからな。通勤時間が掛からねえのが有り難い」
「うん、近くで良かった。俺の方も歩いて行ける図書館で働かせてもらえるって。明日は紫月さんが一緒に顔合わせに行ってくれることになっててさ。仕事は明後日からだから、白龍が帰って来る頃には晩御飯作って待ってるね。お昼は食材買って来たからお弁当ね。真田さんに教わって俺も何か一品くらい作れたらいいな」
周は道路工事の現場で働くので、冰としてはなるべく腹の足しになる弁当の算段なども思い描いているようだ。
「――冰」
クイと肩を抱かれ、大きな懐の中へと抱き締められた。
「――すまねえ」
「白龍……。ううん、そんなこと言わないで。俺、本当にあなたと真田さんといられれば幸せだもん。三人で楽しく暮らそ!」
「ああ……。ああ、そうだな」
腕の中の黒髪に口付けながら、周はいつまでもこの温かいぬくもりを離したくないと胸を熱くしたのだった。
冰が荷解きをしながら明るい笑顔で言う。
「とんでもありません! 坊っちゃまと冰さんでお先にお入りください!」
真田は恐縮しているが、冰は朗らかに笑った。
「俺はもう少し荷物の整理があるんで、ほんとお先に入っちゃってください。出たらお茶にしましょう」
周もそうしろと言うので、真田も二人の厚意に甘えることとなった。その間、冰は買ってきた物の荷解きに精を出す。
「白龍、お布団出すの手伝ってー。ちょっと大きくてさ」
「ああ。割合デカいのを買っちまったからな」
床に敷いて寝るタイプのものなので、布団は大きめのキングサイズを選んだのだ。敷いてみるとすっかり部屋を埋め尽くす勢いである。
「わは! これだけで部屋が埋まっちゃった」
周は体格も大きいので、どうせ朝には畳むのだしということで、せめてゆっくり眠れるようにと冰がキングサイズを希望したのだ。
「ふかふかだね! これならよく眠れそう」
冰は早速寝転んで笑顔を見せているが、周からすればやはり不憫な思いをさせていることに胸が痛んでしまう。
「冰、すまねえな。苦労を掛ける……」
言葉通り申し訳なさそうに視線を翳らせた周の手を取ると、穏やかに微笑みながら冰は言った。
「ううん、苦労だなんて思わないよ。俺は白龍と一緒にいられることが何よりの幸せだもん。そりゃ確かに汐留のお邸と比べちゃえば小さなお家だけどさ。俺にとっては今までが豪勢過ぎただけで、本当だったら俺、日本に来て一人で暮らしてたらもっと小さい家に住んだと思うし、きっと不安だらけだったよ。今は真田さんと白龍が一緒なんだもん。それこそが何よりの贅沢だよ!」
「冰……」
「それに、紫月さんたちが就職先までお世話をしてくれたんだもの。職を探す手間がないだけですごく有り難いよ!」
思えば冰は育ての親である黄老人が亡くなってから単身で日本にやって来たわけで、周に会ってこれまでの礼を述べた後は職探しをする心づもりでいたわけだ。その時の不安は相当に大きいものだったという。だから就職先が決まっていることの有り難さが身に染みるのだそうだ。
「俺、ちゃんと働いて節約もするから! 黄のじいちゃんに家計のやりくりとかはしっかり教えてもらったもの。任せといて。それにさ、この生活に慣れたらいつかまた三人で住める家を買うこともできるじゃない?」
今はとにかく地道に働いて、少し余裕ができたら将来の夢も描けると言ってくれる。しかも夫婦二人で住むのではなく、当然のように真田も一緒にと思い描いていてくれる。周にはそんなあたたかい気持ちが身に染みるようだった。
「白龍は明日からもう出勤でしょ? 今日は早めに寝なきゃね」
「ああ。カネがこの近所の工事現場を紹介してくれたからな。通勤時間が掛からねえのが有り難い」
「うん、近くで良かった。俺の方も歩いて行ける図書館で働かせてもらえるって。明日は紫月さんが一緒に顔合わせに行ってくれることになっててさ。仕事は明後日からだから、白龍が帰って来る頃には晩御飯作って待ってるね。お昼は食材買って来たからお弁当ね。真田さんに教わって俺も何か一品くらい作れたらいいな」
周は道路工事の現場で働くので、冰としてはなるべく腹の足しになる弁当の算段なども思い描いているようだ。
「――冰」
クイと肩を抱かれ、大きな懐の中へと抱き締められた。
「――すまねえ」
「白龍……。ううん、そんなこと言わないで。俺、本当にあなたと真田さんといられれば幸せだもん。三人で楽しく暮らそ!」
「ああ……。ああ、そうだな」
腕の中の黒髪に口付けながら、周はいつまでもこの温かいぬくもりを離したくないと胸を熱くしたのだった。
8
お気に入りに追加
867
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる