972 / 1,212
倒産の罠
9
しおりを挟む
次の日にはアパートも決まった。結局、鐘崎組で過ごしたのはたったの二日ほどであったが、契約が決まり次第すぐにも引越しとなった。場所は鐘崎組から歩いて行ける近場である。組事務所の二階に登れば目視できる位置というのが、紫月にとっても冰にとっても安心できたことのようだ。
ただ、一晩泊めてもらった鐘崎組の客室や、これまで住んでいた汐留の邸から比べれば、本当に真逆といっていいくらいの設えである。築年数も経っていて、外観からしてこれまでとはまるで違う。二階建てで、住居数は四世帯が住めるタイプだが、階段などはペンキが剥がれていたりして、洒落ているとは言い難い。紫月は冰が気落ちしないかとそれだけが心配であったが、当の冰は思ったよりもショックを受けなかったようである。
「うわぁ、何だか懐かしい感じ。じいちゃんと住んでたアパートに似てる!」
香港で黄老人と暮らしていたアパートはもっと大所帯が住めるビルであったが、そちらも築年数はここよりもっと古かった。冰は部屋の中の雰囲気が似ていると言っては、大きな瞳をクリクリと輝かせている。
「お部屋が三つある! 真田さん、どこがいいですか?」
冰らが住むのは二階だ。どうやら真田に一番好きな部屋を選んでもらいたいらしく、冰がニコニコと笑顔を見せながらひとつひとつ部屋を見て歩いている。その内の二つは寝室にもなる個部屋で、和室と洋室だった。もう一つはダイニングである。大きさはどれも一緒で、六畳ずつといったところだ。
「うは、ベッドを置いてきて良かった。これじゃベッドだけでいっぱいになっちゃう」
家具類などはすべて汐留に置いてきた為、寝具やダイニングのテーブルなどはこれから揃えることになるのだが、これまで周と共に寝ていたベッドはそれこそ大きくて広かった為、この部屋には不向きだ。
「ベッドじゃなくて布団を敷いて寝た方がいいかも」
冰は早速買う寝具などを思い描いているようだ。
結局、真田が和室を取り、周と冰は洋室タイプの方に住まうこととなった。風呂とトイレ、ダイニングは三人で共有である。
「キッチンにはガステーブルも付いているんですね。じゃあ今日からもうお料理できますね!」
冰はすっかりこれからの生活に馴染み始めているようだが、傍から見ている紫月らにしてみれば、どうしても気の毒な思いが拭えない。今は良くても、ゆくゆく彼が落ち込んだりしないかと危惧が否めなかったからだ。
荷物を運び入れた後、午後からは寝具やダイニングテーブルなど必需品の買い出しで終わった。
一文無しになったとはいえ、周の財布に残っていた現金だけは持って出られたとのことで、ふた月くらいは何とかしのげるだろうとのことだった。冰は真田と共になるべく安価で、且つ質もまあまあという家具類を一生懸命になって見繕っていった。寝具や家電製品といった大きい物はもちろんだが、シャンプーや洗剤など細かい備品を入れたら相当な量である。鐘崎自らがワゴン車を運転して、紫月も冰と共に必需品の買い出しに終始付いて回った。
その夜は紫月らが是非にと言うので、鐘崎組で晩御飯をご馳走になることとなった。食事が済み、アパートに帰る三人を見送る紫月の表情は今にも泣き出しそうであったが、そんな彼の肩を抱きながら鐘崎もまた心の中で『すまない』と思うのだった。
ただ、一晩泊めてもらった鐘崎組の客室や、これまで住んでいた汐留の邸から比べれば、本当に真逆といっていいくらいの設えである。築年数も経っていて、外観からしてこれまでとはまるで違う。二階建てで、住居数は四世帯が住めるタイプだが、階段などはペンキが剥がれていたりして、洒落ているとは言い難い。紫月は冰が気落ちしないかとそれだけが心配であったが、当の冰は思ったよりもショックを受けなかったようである。
「うわぁ、何だか懐かしい感じ。じいちゃんと住んでたアパートに似てる!」
香港で黄老人と暮らしていたアパートはもっと大所帯が住めるビルであったが、そちらも築年数はここよりもっと古かった。冰は部屋の中の雰囲気が似ていると言っては、大きな瞳をクリクリと輝かせている。
「お部屋が三つある! 真田さん、どこがいいですか?」
冰らが住むのは二階だ。どうやら真田に一番好きな部屋を選んでもらいたいらしく、冰がニコニコと笑顔を見せながらひとつひとつ部屋を見て歩いている。その内の二つは寝室にもなる個部屋で、和室と洋室だった。もう一つはダイニングである。大きさはどれも一緒で、六畳ずつといったところだ。
「うは、ベッドを置いてきて良かった。これじゃベッドだけでいっぱいになっちゃう」
家具類などはすべて汐留に置いてきた為、寝具やダイニングのテーブルなどはこれから揃えることになるのだが、これまで周と共に寝ていたベッドはそれこそ大きくて広かった為、この部屋には不向きだ。
「ベッドじゃなくて布団を敷いて寝た方がいいかも」
冰は早速買う寝具などを思い描いているようだ。
結局、真田が和室を取り、周と冰は洋室タイプの方に住まうこととなった。風呂とトイレ、ダイニングは三人で共有である。
「キッチンにはガステーブルも付いているんですね。じゃあ今日からもうお料理できますね!」
冰はすっかりこれからの生活に馴染み始めているようだが、傍から見ている紫月らにしてみれば、どうしても気の毒な思いが拭えない。今は良くても、ゆくゆく彼が落ち込んだりしないかと危惧が否めなかったからだ。
荷物を運び入れた後、午後からは寝具やダイニングテーブルなど必需品の買い出しで終わった。
一文無しになったとはいえ、周の財布に残っていた現金だけは持って出られたとのことで、ふた月くらいは何とかしのげるだろうとのことだった。冰は真田と共になるべく安価で、且つ質もまあまあという家具類を一生懸命になって見繕っていった。寝具や家電製品といった大きい物はもちろんだが、シャンプーや洗剤など細かい備品を入れたら相当な量である。鐘崎自らがワゴン車を運転して、紫月も冰と共に必需品の買い出しに終始付いて回った。
その夜は紫月らが是非にと言うので、鐘崎組で晩御飯をご馳走になることとなった。食事が済み、アパートに帰る三人を見送る紫月の表情は今にも泣き出しそうであったが、そんな彼の肩を抱きながら鐘崎もまた心の中で『すまない』と思うのだった。
9
お気に入りに追加
877
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる