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倒産の罠
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「その際には丹羽ら警察に協力してもらい、一気に畳む。それまでは俺たちに任せて欲しい」
「……分かった。検挙の際には役に立てるよう警察の方でも準備を万全にしておく。皆さんにはご苦労をお掛けしてたいへん恐縮ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
丹羽はできることがあればどんなことでも精一杯動くと言って、深々と頭を下げた。
こうして詐欺組織の検挙に向けて、男たちの闘いが幕を開けることとなったのである。
◇ ◇ ◇
汐留、周邸――。
花曇りの朝、引越しの身支度を整えた冰と真田が、迎えに来た鐘崎組の車の前で不安げに表情を曇らせていた。周は新しい経営者に最後の挨拶をすべく、一人遅れて社長室に居た。側にはこのまま社に残る側近の李と劉、そして香港のファミリーから内密に敵組織へと潜入している曹来が顔を揃えていた。この曹は周の兄である風の第一側近である。
「では行く。曹さん、後のことは頼んだぞ」
「お任せください。連絡は鐘崎組を通して逐次入れます。ご辛抱をお掛けしますが、焔老板もどうかくれぐれもお身体をご自愛ください」
「ああ、頼む。李と劉も達者でな」
「はい、はい……老板……!」
「社のことは我々が身命を賭して守りますゆえ……」
これが作戦の一環だと分かってはいても、今後の周らの生活を思えばどうしても辛さを抑え切れなくなる。そんな側近たちを励ますべく笑顔を見せると、周は冰らの待つ駐車場へと向かった。その後姿を見送りながら、三人もまた覚悟を新たにするのだった。
「待たせたな。行こうか」
冰と真田の肩を抱きながら迎えの車に乗り込む。この二人にも本当のことを告げていないので、周にとっては少なからず胸の痛む思いだ。
車が走り出すと、真田が名残惜しそうに窓からツインタワーを見つめる様子に郷愁の思いを感じていた。
「皆様、組では若と姐さんが充分な準備をして待っておりますので、どうぞご安心ください」
鐘崎組から迎えに来た運転手の花村がそう声を掛けてくれる。彼もまた、真実を知らされていない内の一人だ。なんとか自分も役に立とうと気遣ってくれているのがよく分かる。周は助手席で感謝の意を述べた。
「すまない。鐘崎組の皆さんにもご足労をお掛けする」
「とんでもございません! どうか我が家と思って寛いでくださいまし」
後部座席でその会話を聞いている冰と真田にもすまないと思いつつ、周はこれからの展開を頭の中で思い巡らせるのだった。
(冰、真田、すまねえな。この一件、必ず成功させてお前らに笑顔を取り戻してやる。それまでしばらく辛抱してくれ)
飛んでゆく窓の景色を眺めながら、周はここ日本で起業する為に香港を離れた日のことを思い出していた。
あの時も少なからず郷愁を感じていた。見知らぬ土地での起業、幼かった冰を残して香港を去ったあの日の気持ちは生涯忘れることはないだろう。
だが今はその冰が共にいてくれる。真田も然りだ。
(必ず成功させる。焦りは禁物だが、できる限り迅速に短期間で決着をつけてやる)
周の瞳の中には、まさに決意と覚悟の焔が灯っているようでもあった。
「……分かった。検挙の際には役に立てるよう警察の方でも準備を万全にしておく。皆さんにはご苦労をお掛けしてたいへん恐縮ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
丹羽はできることがあればどんなことでも精一杯動くと言って、深々と頭を下げた。
こうして詐欺組織の検挙に向けて、男たちの闘いが幕を開けることとなったのである。
◇ ◇ ◇
汐留、周邸――。
花曇りの朝、引越しの身支度を整えた冰と真田が、迎えに来た鐘崎組の車の前で不安げに表情を曇らせていた。周は新しい経営者に最後の挨拶をすべく、一人遅れて社長室に居た。側にはこのまま社に残る側近の李と劉、そして香港のファミリーから内密に敵組織へと潜入している曹来が顔を揃えていた。この曹は周の兄である風の第一側近である。
「では行く。曹さん、後のことは頼んだぞ」
「お任せください。連絡は鐘崎組を通して逐次入れます。ご辛抱をお掛けしますが、焔老板もどうかくれぐれもお身体をご自愛ください」
「ああ、頼む。李と劉も達者でな」
「はい、はい……老板……!」
「社のことは我々が身命を賭して守りますゆえ……」
これが作戦の一環だと分かってはいても、今後の周らの生活を思えばどうしても辛さを抑え切れなくなる。そんな側近たちを励ますべく笑顔を見せると、周は冰らの待つ駐車場へと向かった。その後姿を見送りながら、三人もまた覚悟を新たにするのだった。
「待たせたな。行こうか」
冰と真田の肩を抱きながら迎えの車に乗り込む。この二人にも本当のことを告げていないので、周にとっては少なからず胸の痛む思いだ。
車が走り出すと、真田が名残惜しそうに窓からツインタワーを見つめる様子に郷愁の思いを感じていた。
「皆様、組では若と姐さんが充分な準備をして待っておりますので、どうぞご安心ください」
鐘崎組から迎えに来た運転手の花村がそう声を掛けてくれる。彼もまた、真実を知らされていない内の一人だ。なんとか自分も役に立とうと気遣ってくれているのがよく分かる。周は助手席で感謝の意を述べた。
「すまない。鐘崎組の皆さんにもご足労をお掛けする」
「とんでもございません! どうか我が家と思って寛いでくださいまし」
後部座席でその会話を聞いている冰と真田にもすまないと思いつつ、周はこれからの展開を頭の中で思い巡らせるのだった。
(冰、真田、すまねえな。この一件、必ず成功させてお前らに笑顔を取り戻してやる。それまでしばらく辛抱してくれ)
飛んでゆく窓の景色を眺めながら、周はここ日本で起業する為に香港を離れた日のことを思い出していた。
あの時も少なからず郷愁を感じていた。見知らぬ土地での起業、幼かった冰を残して香港を去ったあの日の気持ちは生涯忘れることはないだろう。
だが今はその冰が共にいてくれる。真田も然りだ。
(必ず成功させる。焦りは禁物だが、できる限り迅速に短期間で決着をつけてやる)
周の瞳の中には、まさに決意と覚悟の焔が灯っているようでもあった。
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