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春遠からじ
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ジェットが安定高度に入ると、嫁たち二人は早速おやつタイムだ。源次郎や真田らと一緒に亭主たちの分の茶を淹れながら、楽しいおしゃべりに花を咲かせ始める。それらを横目に周は密かに鐘崎を誘うと、化粧室にある大きな姿見の前に連れて来ては二人並んで鏡の中を見つめた。
「――いきなり何だ」
真顔でしきじきと鏡を凝視している周に、鐘崎は首を傾げる。
「うーむ、やはりこの髪型がいかんのか――? ツラはさほど変わらんが、確かにてめえの方が若く見えんこともない……」
髪をグシャっと乱しては唇をへの字に結んで悩み顔だ。どうやら子涵に最後までおじさん扱いされたことを気にしているようだ。真剣に悩む姿に、鐘崎は思わず噴き出してしまった。
「ぷ……っはははは! 氷川、てめ……」
「笑うな。俺ァ真剣なんだ」
鐘崎は腹を抱える勢いでひとしきり笑うと、涙目を擦りながら穏やかに微笑んだ。
「あとふた月もすりゃ本物に叔父さんになろうってヤツが何を悩むことがある」
そうなのだ。兄夫婦の子供が生まれるのは十月の初め頃――もうふた月を切っている。
「――うーぬぬぬ、この調子じゃホントに兄貴のガキにもおじさん呼ばわりされ兼ねん。まあ――それ自体は本当のことだから仕方ねえとしても……兄貴のガキにまでお前らのことを兄ちゃんと呼ばれた日にゃ……俺ァどーしたらいいんだ」
しばし頭を抱えた後に周は真顔でまたしても可笑しなことを言い出した。
「おい、カネ――ちょっとコレで髪を後ろへ撫で付けてみろ」
ヘアワックスとコームを渡され、オールバックになるように梳かしてみてくれと言う。普段周がしている髪型である。
鐘崎は半ば呆れつつも言われた通りに付き合ってやることに決めた。
「どうだ。これでいいか?」
梳かし終えてふと鏡の中の隣に目をやると、またしても噴き出してしまう羽目となった。なんと周が更に髪を乱して、いつもの自分と似たようなスタイルに変えていたからだ。
「お前……それ……」
「ふむ、こういう髪型にすりゃ俺も少しは若く見えるな――」
本人はかなりご満悦のようである。
「よし! このまま冰たちにも感想を訊いてみよう」
周は意気込んでリビングへと向かって行った。
どうせいつかは――遅かれ早かれ誰でも年をとるのだ。そこまでこだわる必要があるかと思う鐘崎だったが、案外真面目に気にしているふうな親友に心温まる思いが込み上げる。今回の旅でも自分や紫月のことを気に掛けてくれて、メビィに心理分析を頼んでくれたりと、様々頼りになるデキた男だが、そんな彼でも若く見せたいという些細な思いに一生懸命こだわっている様子が微笑ましい。鐘崎はつくづくこの友とこうして共に過ごせる幸せをしみじみと噛み締めるのだった。
「――いきなり何だ」
真顔でしきじきと鏡を凝視している周に、鐘崎は首を傾げる。
「うーむ、やはりこの髪型がいかんのか――? ツラはさほど変わらんが、確かにてめえの方が若く見えんこともない……」
髪をグシャっと乱しては唇をへの字に結んで悩み顔だ。どうやら子涵に最後までおじさん扱いされたことを気にしているようだ。真剣に悩む姿に、鐘崎は思わず噴き出してしまった。
「ぷ……っはははは! 氷川、てめ……」
「笑うな。俺ァ真剣なんだ」
鐘崎は腹を抱える勢いでひとしきり笑うと、涙目を擦りながら穏やかに微笑んだ。
「あとふた月もすりゃ本物に叔父さんになろうってヤツが何を悩むことがある」
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「――うーぬぬぬ、この調子じゃホントに兄貴のガキにもおじさん呼ばわりされ兼ねん。まあ――それ自体は本当のことだから仕方ねえとしても……兄貴のガキにまでお前らのことを兄ちゃんと呼ばれた日にゃ……俺ァどーしたらいいんだ」
しばし頭を抱えた後に周は真顔でまたしても可笑しなことを言い出した。
「おい、カネ――ちょっとコレで髪を後ろへ撫で付けてみろ」
ヘアワックスとコームを渡され、オールバックになるように梳かしてみてくれと言う。普段周がしている髪型である。
鐘崎は半ば呆れつつも言われた通りに付き合ってやることに決めた。
「どうだ。これでいいか?」
梳かし終えてふと鏡の中の隣に目をやると、またしても噴き出してしまう羽目となった。なんと周が更に髪を乱して、いつもの自分と似たようなスタイルに変えていたからだ。
「お前……それ……」
「ふむ、こういう髪型にすりゃ俺も少しは若く見えるな――」
本人はかなりご満悦のようである。
「よし! このまま冰たちにも感想を訊いてみよう」
周は意気込んでリビングへと向かって行った。
どうせいつかは――遅かれ早かれ誰でも年をとるのだ。そこまでこだわる必要があるかと思う鐘崎だったが、案外真面目に気にしているふうな親友に心温まる思いが込み上げる。今回の旅でも自分や紫月のことを気に掛けてくれて、メビィに心理分析を頼んでくれたりと、様々頼りになるデキた男だが、そんな彼でも若く見せたいという些細な思いに一生懸命こだわっている様子が微笑ましい。鐘崎はつくづくこの友とこうして共に過ごせる幸せをしみじみと噛み締めるのだった。
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