極道恋事情

一園木蓮

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春遠からじ

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 建物の外観からして長い間放置されているような廃墟に近い印象だ。崩れかけた門らしき物も見つかったが、庭は雑草が伸び放題で、小木にまで育ってしまっているといった具合だが、近くに車が数台停めてあり、確かに人が居る気配が感じられた。
「あの中の一台が女人街で子涵少年を連れ去った女が乗っていた車のナンバーと一致しました。ここで間違いありませんね」
 李の報告によっていよいよ敵との対面に緊張が走る。
 源次郎と劉とで敵の乗って来た車をパンクさせるなどして足留めできるよう細工すると言う。李と曹は鐘崎らに持たせた無線の傍受に専念、兄の周風が貸してくれた他の側近たちには建物周囲を取り囲んでもらい、裏口などからの逃亡を阻止する体制を敷いた。あとは鐘崎と秘書の女性らが踏み込むだけだ。
 天候はますます雲が厚くなり、時折遠くから雷鳴が聞こえるほどになってきていた。
「落雷で通信機器が効かなくなる前に何とかせねばならん。行こう――!」
 鐘崎らは意を決して敵地へと向かった。



◇    ◇    ◇



 一方、子涵と父親はまんまと敵の罠に落ちて捕えられてしまっていた。
 鐘崎らが睨んだ通り、相手は元妻の不倫相手だった男で、名を馬民マ ミィンといった。彼の側にはいかにも筋者らしき屈強な男たちが顔を揃えていて、子涵はもちろんのこと父親の方も恐怖に慄きながら身を震わせている状況だ。
君……まさかキミがこんなことをするだなんて……いったいどういうつもりなのだ」
 息子の子涵ズーハンを庇うように抱き締めながらCEOがそう訊いた。
「どうもこうもありませんよ。僕たちはただ、あなた――社長さんが開発された例のシステムを手に入れたいだけです」
 一応は元社員だったこともあってか、言葉じりは丁寧を装っているものの、その表情は明らかに悪人だ。
「あなただって痛い目を見るのはお嫌でしょう? 素直にシステムを渡してくださればこれ以上のことはしませんよ。それともここで強情を張って怪我をしたいとお望みですか? それにね――何もあなたに痛い目を見てもらう必要もないんですよ?」
 ちらりと子涵少年に視線を向けながら男は笑った。
「待ってください……ッ、この子には……子涵には関係のないことでしょう? 無体なことはせんでいただきたい……」
 父親は必死になって我が子を守らんと声を震わせる。
「それは社長様次第ですよ。あなたが素直になってくだされば、子涵君だって怖い思いをしなくて済むんです。さあ、いい加減システムの在処を教えてくださいな」
 男はニヤニヤと笑いながらも更なる脅迫を口にして親子を追い込んでいった。
「こう見えて僕は比較的気の長い方ではありますけれどね。ですがここにいる彼らは――そうとばかりは限りませんよ? 中には短気で気性の荒い者もいる。あなたが口を割らないようであればご子息のご無事は保証しかねますよ?」
 そう言うと共に刃物をチラつかせて笑ってみせた。
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